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終着駅61 腰が抜けていることに気づいた


 第61章

 初めの1か月はバタバタと過ぎていった。圭が部屋に来たのは、引っ越してから2か月目のことだった。

 圭は引っ越しの時に手伝ってくれたので、部屋は見ていたが、セックスを前提に訪問するのは初めてだった。

 「これ、新築祝い」圭が四角い包みを差し出した。

 「うわっ!絵なの?」私がT画廊の包装紙の文字を読んでいた。

 「リトグラフだけどね。俺が好きなだけなんだけど、きっと姉さんも好きだと思ってさ」

 「開けていいかな?」

 「勿論、カシニョールのリトグラフだよ。あそこの画廊の若旦那、俺の同級生でね、1割引きしてくれたよ」

 「あぁ綺麗。淡い色使いが私好みよ。この女の人が、特別の美人じゃないのが良いわね」私は笑いながら、リトグラフを掛けるスペースを見回した。

 「飾るのは、休みの日にでもゆっくり飾ってよ。壁に取り付ける金具も買っておいたから、後で、姉さんが気に入った所に飾ってよ」

 圭は、そんなことを言いながら、私に迫った。

 私は抵抗せずに、圭に身をゆだねた。3週間くらいのご無沙汰だった私の身体は一気に熱くなった。圭の勃起も布を通じて、その硬さを伝えていた。

 有紀が飛び入りしていた時期の副作用なものから、漸く脱した二人のセックスは激しかった。

 どの程度の防音機能が、この部屋にあるかわからないので、声を抑えるのに苦労した。

 二人は、吐息以上のものを出さないように気を使った。二人の息つきが寝室に充満し、寝室の壁に立てかけたカシニョールの額縁も一緒に官能の世界に引きずり込んだ。

 「腹が減ったけど、どこか食べに出る?」珍しく、早目に射精した圭が、煙草の煙を追いかけながら、呟くように話した。

 「結構美味しい中華のケータリングのお店見つけてあるから、シャワーを浴びる前に注文しておくよ。適当なもので良いでしょう」

 「あぁ、姉さんが好きなものなら、俺は、なんでも食べられるから」

 「しかし、よく母さんが、涼ねえさんの家を買うこと承諾したね。」圭がチンゲン菜を突きながら話した。

 「良いも悪いもないわよ。全部自分のお金なんだから」私は酢豚とライスを交互に口に運びながら話した。

 「おぅ、この小籠包もいい味だね。肉汁がジュワッだよ。いや、そういう意味じゃなく、ダダこねたんじゃないのかなって」

 「そうね、人の姿が見える限り、あの人は文句を言い続ける人なのよ。父さんが、よく耐えていると思うけど、蓼食う虫も好き好きよね」

 「あのさ、俺、今度会社辞めるかもしれないんだよ」

 「会社辞める?会社を替わるってこと」

 「いや、美絵の親父さんの会社に来てくれないかって」

 「美絵さんのお父さんが社長の会社って、ビル経営の会社でしょう」

 「そう、俺の知識はゼロの業界だよね。まあ、ディーリング以外の仕事以外は、全部知らないんだけどさ」

 「条件が悪いわけはないけど、アンタは、その会社で何するわけ」

 「美絵の親父さんの番頭のような常務の人が、癌が見つかったらしいんだよ。それで、会社辞めて、治療に専念させてくれって頼まれたらしく、その後釜に、俺に白羽の矢が立ったってことらしいね」

 「つまり、その常務の人の後を継ぐってことかしら」

 「多分、その腹積もりのようだよ。その人とは、たまに酒を飲んだり、ゴルフでラウンドしたりしていたか、見ず知らずと云うわけでもないから、当面の心配はなさそうだけどね」

 「そう、でも今の仕事は給料が良いでしょう。そっちの給料はどうなの?」

 「現在の給料よりは、間違いなく多く出すと言っていたな。それは、それほど拘っていないけどね。それよりも、跡継ぎにさせられる方が、気が重いかな」

 「なるほどね。たしかに、その流れは、いつの日か、美絵さんのお父さんの会社を引き継ぐことになるんでしょうね」

 「それがね、なにせ、実際はビジネスのこと殆ど判らずにディーリングだけ覚えたわけだから…」

 「それは、そう心配には及ばないわよ。アンタなら、現在やっていることくらいは、半年もすれば覚えるわよ。経営の決断とかは別だろうけど」

 「そう、当面の心配はあまりしていないけど、跡継ぎと云うのはね…」

 「だったら、条件に、そのようなレールに乗るのは困ると頼んでみたら。そのような問題は、その時の、僕を見定めた上で決めてくださいって」

 「既成事実化されるのは困るって言っても構わないかな?」

 「構わないと思うわ。一つの想定ですけど、と言って、一人娘の婿が、会社に入るって、定番の話がありますけど、それが嫌なんですって、内々にお父さんに言えばいいじゃないの」

 その夜は、圭が異様に燃えていた。

 私は、泥のように疲れ果てた身体を起こすのも億劫だった。着替えを終えた圭を見送ろうとベッドから抜け出そうとしたが、足を突いた途端、自分の腰が抜けていることに気づいた。

 私が「ちょっと無理」と言うと、圭も「ちょっとやり過ぎでした、ごめんなさい」と言いながら、私をベッドに寝かせ、額にキスをすると、部屋を後にした。

 “これでいい”私はまどろみの中で、圭との関係がまだまだ続くことを確信した。

 そして、何度も圭の怒張で味あわされたオーガズムが、思い出したように、私の腰部を襲った。
 つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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