第100章「なるほど、いい味してるわ、このハンバーグ」
敦美は、あまり食べていなかったらしく、一心不乱に和風ハンバーグに喰らいついていた。
「ところで、今回の拉致と監禁の顛末ってのを、話して貰えるかな」
「そうね、チョッと待ってね、もう少しお腹が落ち着いたら話すから……」
敦美の食欲の旺盛ぶりから推測する限り、拉致監禁した犯人たちは、旧知の仲の人間たちだったことが窺われた。
しかも、その連中は、敦美にとって怖い存在ではなく、見下すような存在の人間たち、いうならば子分のような連中の仕業だったように思えてきた。
俺は、慌てて損をしたような気分で、敦美の食欲が一段落するのを待っていた。
「瞬間的には、たしかに、拉致されたし、監禁されたのも事実なの。でも、しばらく時間が経つにつれて、彼らの監禁する態度が緩々なのに気づいたの」敦美が、もうひと口、ハンバーグの切れ端を口に運んだ。
「本気で逃げようと思えば逃げられるような監視体制だったもの」
「てことは、途中からは、監禁されているフリをした、そういうことかな」
「そうね、私も監禁されているのだから、被害者だけど、それよりも、彼らが片山から受けた被害の方が断然大きいことに気づいてからは、加害者みたいな気分だったわ」
「監禁者の立ち位置が変わってしまったのか」
「そうね。何とかして、彼らが探し求めているものを、手渡してあげたい気分になっていたわ」
「その例の手帳とかに書かれている事実が、彼らを貶める内容のものだってことかな」
「そうね。片山が、彼らを裏切って手に入れた情報が書かれている手帳だって判ってきたから」
「つまり、君は、彼らに渡してやりたい気分になった。そういうことか」
「そういう感じかな。犯罪に手を染める気がなければ、無用な情報だって気づいたからね」
「金になる情報だったけど、君には不要なものだったわけだ」
「そう、まったく不要ね。でも、彼らにとっては、とても大切なもの」
「て、ことはだよ、旦那が殺される原因になった、問題の情報ってことにもなるんじゃないのかな」
「それは違うようよ。関係はしているだろうけど、そのことで、片山は殺されたわけじゃないはず。それに、彼らは、殺人なんて犯せるはずないもの……」
「それなら問題はないさ。僕の助けがいるような話でなければ、細かく聞く必要もないからね」
「そうよ、貴方には資産運用をお願いしているだけで充分なのよ。雑用は、なんとか自分で解決しないと。そうじゃないと、貴方が恋人以上の存在になっちゃうもの……」
「たしかに。恋人以上じゃ、お父上のようになってしまう」
俺は、そんな風に応え乍ら、資産運用の仕事の前に、敦美を性的に満足させる男であることは、当然の前提になっているのだろうと、漠然と解釈した。
どちらかといえば、後段のタスクを完遂する自信はあったが、前段のタスクを充分な段階で保って行けるか、相当に不安があった。
しかし、こういうことは、言葉では言い表し難い問題で、推して知るべし的に判断されるものだと思った。
稚拙な関係から始まる性的関係には、多くの時間が残されているが、序章段階が省かれた男女関係においては、開拓される糊代は豊富ではないものだった。
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