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第113章
待ちわびた声が聞こえてきた。
確かに、襖一枚と勘違いするような鮮明な女の声が聞こえてきた。
“ハッハッ、ハッハ”若い女が、男の動きに合いの手を入れるような感じの息づかいをしていた。
その声の主である女が快感を受けとめた上の声かどうかは判らない。
女の声に合わせて、ベッドが軋んでいるような音と、おそらく、男が発しているであろう鼻息のようなノイズが重なるように聞こえていた。
少なくとも女は若かった。声の感じは、25歳前後に思えたが、特に野太い中年女の声でない限り、聞き耳を立てる価値はあった。いや、中年の声であっても、聞き耳を立てる価値はあるかもしれないような気がした。
生活感たっぷりの中年女の声には哀愁が漂っているとも言えた。日常の苦悩を一瞬忘れる時間は、若い女よりも切実かもしれないのだった。
おそらく、中年になっても、快感に浸れる女の場合、その性感は爛熟期を迎えた達人の領域の性を愉しんでいる可能性の方が高かった。
そんなことを考えながら、俺の指は、敦美の股間に伸びていった。特別に誘うつもりはなかったが、敦美の太腿の間のぬくもりを感じていたい欲望があった。
我々が声を潜める必要はないのだが、気がつくと無言になっていた。その分、敦美の内腿に伸ばした指は、その行き場に戸惑っていた。
コミカルに内腿を擦る行為は場違いだった。俺の指は、進むか退くか、どちらかの選択を迫られている状態に陥っていた。
隣から聞こえてくる女の声音が幾分が変わってきた。
“だめ、未だだよ、動いちゃだめ、じっとしてて”
隣の女が、男の動きに注文をつけていた。
「ねぇ、触って」この声は敦美が発していた。
進むべし、と敦美が、俺の迷いにアドバイスを与えた。
俺の指が敦美の湿り気のある布に指が伸び、布の隙間から、敦美のヴァギナに向けて指を這わせた。
一瞬で、敦美のそこが滑った粘液に包まれているのが分った。このようなシチュエーションは久しく遠ざかっていた感覚だった。何時のことだろう、高校時代、同級生の女の子と乳繰り合った時代の映像が浮かんだ。
あの時の、女の子の名前は何だったろう。良子だったか、洋子だったか、恵理子だったか、もう遠い昔の記憶だった。
“出ちゃったの”落胆した女の声が聞こえた。
「あぁ燃えてきたよ。久々に、オチンチンが欲しいって、オ×ンコが叫んでいるみたい」これは敦美の声だ。
“未だなのね、少し休もうか。大丈夫なの、休んでからの方が持つんじゃないの”これは隣の女の声だ。
つづく
第112章
それから一時間ほどして、お隣さんは揃って帰宅した。
敦美の情報によると、帰宅後一時間は風呂タイムなので、始まるのは、それからだというので、しばらくは読みかけの本をめくった。
「私ってさ、考えてみると、そんなにエッチが好きだったわけじゃなかったみたいなのね。会った頃の私が言っても噓っぽいけど、本当なの」
「そういうことはあるだろうね。何かの重圧から逃れる手段が必要だった。その手段が手っ取り早くセックスだった。或いは接触欲とか、そういうもので重圧から逃れようと行動した、そういうこともあるよ。だから、いまの状態を気にする必要なんて不要だよ。俺自身、今のような関係で、特別不満はないからさ」
「でもさ、イカナクなった女なんてつまんないかと思うんだよね。そんなことしていると、誰かに取られそうで不安になるの、大丈夫?」
「大丈夫だよ。もうそんな歳じゃないからね。考え方によると、体力温存の時間だと思えば、有難い時間なのかも……」
「その体力温存が気になるよ。他の誰かに使う体力だったら、ムカつくもの、やっぱり嫌よ。ね、私以外にも、つきあっている人いるの?」
敦美は、寿美と俺の関係に気づいていなかった。このことは、良いことなのか都合の悪いことなのか、曖昧だった。
寿美の申し入れを、資産運用に組み込むためには、寿美個人を表沙汰に、ことを進めるのは微妙だった。
おそらく、今の敦美の心境からすると、自動的に疑惑を抱くに違いなかった。敦美との関係の始まりの経緯から考えると、敦美に対して貞淑であっる必要はないはずだった。
しかし、気がつくと、俺は、敦美にたいして貞淑な愛人であることが当然の様になっていた。
なぜなのか、よく判らなかったが、仕事上、敦美がオーナー的立場になったせいかもしれなかった。
考えてみると、敦美から依頼されただけの資産運用なのだから、止めてもいいわけだが、やめると、敦美との関係も寿美との関係も切れてしまう様子が見えていた。
無論、そういう流れを受け入れることに異存はなかったが、二人の女を同時に裏切る、そんなに感じになるのは、気が重かった。
「ねぇねぇ、なに考えてるの?」
「いや、早く始まらないかと思ってさ」
心の定まりがないなままに、敦美と同じ時間を共有するのは苦痛だった。早く始まれよ、心の中で罵った。
つづく
第111章
敦美の坩堝は充分に濡れていた。
いつものように、子宮頚を突くような動きに感応した肉体が、俺の身体の下にあった。
しかし、軽いオーガズムに達して、何度か身体を牽くつかせたが、そのひくつきは軽度なものだった。
「どうしたのかな?それほど感じなくなってるの?」俺はストレートに聞いてみた。
「やっぱり分っちゃうよね、イキ切れてないのよね」
「何か原因があるのかな?」
「特別なにもないから困るの……」
「なるほどね、幾つか考えられるけど、一番可能性があるのが、旦那からのプレッシャーが、特殊な性欲を生みだしていた可能性だよね」
「そういうことってあるの?」
「確かなことは言えないけど、あるような気がするけどね。一定の緊張状態から開放されたい欲望が、性欲になって表れたってことはあるだろうね」
「そうか、そういえば、結婚する前は、あまり性欲の強い方じゃなかったかも?」
「たぶん、嫉妬妄想しない人だった」
「他人に興味が湧かない人間なのよ。もっとも自分への興味もたいしたことないけど……」
「現代病だね。いずれにしても、元に戻っただけだから、困るって程のものでもないよ」
俺は、敦美の性欲が少ないこと事態は好ましい現象であって、特に異議申し立てすることではなかった。
しかし、あからさまに、敦美の淡白さを喜ぶ態度を示すのも、ためらわれた。
「もう一つ考えられるのよ」
「どういうことかな?」
「あのさ、ここのマンション、防音が良くないみたいで、お隣さんのエッチがまる聞こえなの。それも影響しているのかもしれないのよ?」
「そんなに聞こえるの?」
「そうなの。どのような体位で、どのようなことをして、女の人がどんな声を出して、男の人が色々言って、二人で一緒とか馬鹿なこと言うのまで聞こえてくるんだから、こちらのも聞こえているってことだと思うとね、それも影響していると思うのね……」
「そうかぁ、一度聞いてみたいもんだね」俺は、冗談交じりに話した。
「今夜泊まってみてよ。金曜日は二回戦するはずだから、たっぷりと聞けるわ。ねっ、今夜はお泊りにしよう」珍しく敦美が甘えてきた。
つづく
第110章
翌日、敦美と会ったが穏やかな時間の中にいた。稚拙ではあったが、敦美の作った手料理を肴にビールを飲んでいた。
あれほど精力絶倫を思わせた敦美の性欲は消え去り、俺は、単なる話し相手に落ちぶれていた。
無論、そのような関係に異存はないのだが、あまりにも求められないと、どこか不安がないわけではなかった。
他に男が出来たのなら、それはそれで構わない。
少なくとも、資産運用を請負っただけの関係で充分だったが、こうして酒を酌み交わして、しどけない寝姿を見せる女に、他の男の臭いはなかった。
「そういえば、以前監禁されていた時、差し出せと言っていたノートってのは、どうなったの?」俺は肉づきのいい敦美の太腿を撫ぜながら聞いてみた。
「さあ、知らない」
「押収されたままってことかな」
「だって、あれって、コンドームやアダルトグッズなんかの顧客名簿だもの、殺人に関係はないでしょうし、片山の商売柄、当然のノートだったんじゃないのかな?」
「さあどうかな。現物を見ていないから、何とも言えないけどさ、もう少しヤバイものに関係した顧客リストだったかもしれないけどね」
「そうね、あのノートはどこにあるのかしら?」
「わからないけど、君が必要とするモノではないのは確かだからね」
「貴方なら必要なものだったわけ?」
「いや、俺にも必要なモノではないよ。ただ、ある種の人々にとっては、相当重要なノートだったかもしれないと思ってね」
「そういうことか。でも、アイツらに付き纏わられたくなかったから、探す気にもなれなかったし」
「それで問題ないよ。いや、逆にそれが正解かもしれない……」
「ねぇ、少しムラムラしてきたけど、大丈夫?」
「あぁ大丈夫だけど」
「だったら、片山のこと忘れさせてよ」
敦美の肉厚な身体が熱を帯びて俺の愛撫を待っていた。
つづく
第109章
しかし、そもそも寿美家族が、敦美の財産に口を出せる立場ではないのだから、防御もヘッタくれもないはずなのだが、なぜか、そのような状況を納得してしまう、寿美の物言いだった。
理屈に合わない寿美の申し入れだったが、手荒な生き方をしてきた寿美の家族から、敦美や敦美の財産を守ることは重要だった。
正当性のない力だからといって、放置しておけば、不法行為が行われる可能性がある以上、それを未然に防ぐ行為には正当性があった。
寿美の、奇妙な申し入れは、受けた方が関係者全員にとってベターな選択のように思えた。
「わかったよ。前向きに考えておくよ」
「そう、ありがとう。方法が判ったら教えてくれる。私は、貴方の命じるままに動くだけだから」
「なんだか奇妙な関係になってきたな。本当は、こういう関係の中に入るのは好みじゃないんだけどね」
「そうでしょうね。貴方は今まで、日本人の世界の中で、ぬるま湯な情事を愉しんでいたのよ。これからは大変よ。在日の人間たちの泥沼の世界で、危険な情事を続けるのだから、心も体も緊張の連続になると思うわ」
「あの日、シャネルスーツで出会ったのも、何らかの計画の中にあったのかな?」
「それは違うわ。あれは、本当に、貴方に性的に興奮しただけよ」
「君が、簡単に性的に興奮するなんて話は信じにくいけどね」
「でも本当だもの。信じなくてもいいけど、そこまで計画的に動くなんて、それは考え過ぎね。たまたま、このような流れになったってことよ。特に、あの男が殺されたことで始まった話なんだから……」
「あの男ね。片山亮介か……、あの男、それ程重要な仕事をしていた男だとは思えないんだけどね……」
「犯罪者の重要性なんて、貴方の感覚とは違うわよ。どうでもいいくらい単純な仕事が重要な仕事ってこともあるものよ……」
「そういうものかな。例えばだけど、君たちの家族が、或るルートから、奇妙なモノを入手して、その奇妙なモノを片山が捌いて金にした、そんなことかな」
「だいたい当たっているわ」
「そうなんだ。それで、片山の顧客ノートが欲しくて、敦美さんを拉致した。だから、彼女は、それ程の恐怖心もなく監禁されていたってことか……」
「その辺が間抜けなのよ、うちの家族って」
「だよね。敦美がノートのこと知るわけもないし、敦美たちのマンションは警察に封鎖されているわけだからね」
「そうなの。敦美だって、部屋に自由に入れるのなら、さっさと渡した方が楽だもの。欲が深いのに、馬鹿だから、いつもドジ踏んだり、割を食ってしまうのね。困った家族だわ……」
「でも家族だから、そう云う世界なんだろうね」
「そうね、そういう世界なのよ……」
寿美の声は沈んでいた。
つづく
第108章
寿美から解放された俺は、まどろんでいた。
おそらく、寿美もまどろんでいた筈だが、指を絡ませた態勢が崩れていなかったことを考えると、まどろんではいなかったのかもしれなかった。
「ねぇ、龍彦さん、私と組まない」
寿美は、呟くような声で、唐突なことを言い出した。
「組む?何を組むわけ?」
「私の家族と対峙するためにかしら」
「君の家族と対峙する…。それって、目的からすると、敦美さんの財産を狙う、そういうことになるのかな」
「財産を狙うというほど大袈裟じゃないわよ。それじゃぁ、泥棒になるでしょう」
「そうなるね」
「だから、そういうんじゃなく、敦美の資産の安全を確保しつつ、貴方と私が組んで、私の家族らの悪巧みを阻止する。そんな感じのパートナーかしら……」
「それほど具体的案はまだない、そういう感じかな」
「そうよ。だって考えるのは貴方だもの」
「そうか、寿美さんが、家族が敦美さんの財産を狙う計画を事前に知らせてくれれば、専守防衛は出来るだろうね」
「そうすれば、私は家族の犯罪を未然に防ぐことも出来るかなって……」
「たしかに、方向性は間違っていないけど、貴女は、家族を裏切ることになるよ」
「裏切り、そうかしら。彼らは経済的な思惑は外れるけど、犯罪者にならないんだから、裏切ではないと思うけど……」
「たしかに、理屈上の正義は成り立つけど、家族の人たちからは、裏切られたと思われる危険は残るでしょう。その時、寿美さんの身に何が起きるか、そこが心配だよね」
「彼らが、私をどうかするってことね」
「そう」
「それなら、大丈夫だと思うわ。だって、彼らは、計画が失敗すればするほど、私の存在が大きくなるもの。良く考えてみるけど、そうなるはずよ」
「そうだよね。寿美さんの稼ぎに頼って、ご家族が生きている状態ならね」
「そう、そういう意味では腹立たしいけど、身の安全は確保できているわ」
「たしかな安全保障だね」
「そうか、日米の安全保障みたいなものかも……」
「そうなるね。アメリカの軍産複合体の重要な顧客になることで、少なくとも脅威の国扱いはされないのと似ているな」
こうして、寿美と俺は敦美の資産運用に関するパートナー契約が成立した。無論、中身は相当に曖昧なものだから、敵か味方をハッキリさせる約束にも似ていた。
つづく