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第109章
しかし、そもそも寿美家族が、敦美の財産に口を出せる立場ではないのだから、防御もヘッタくれもないはずなのだが、なぜか、そのような状況を納得してしまう、寿美の物言いだった。
理屈に合わない寿美の申し入れだったが、手荒な生き方をしてきた寿美の家族から、敦美や敦美の財産を守ることは重要だった。
正当性のない力だからといって、放置しておけば、不法行為が行われる可能性がある以上、それを未然に防ぐ行為には正当性があった。
寿美の、奇妙な申し入れは、受けた方が関係者全員にとってベターな選択のように思えた。
「わかったよ。前向きに考えておくよ」
「そう、ありがとう。方法が判ったら教えてくれる。私は、貴方の命じるままに動くだけだから」
「なんだか奇妙な関係になってきたな。本当は、こういう関係の中に入るのは好みじゃないんだけどね」
「そうでしょうね。貴方は今まで、日本人の世界の中で、ぬるま湯な情事を愉しんでいたのよ。これからは大変よ。在日の人間たちの泥沼の世界で、危険な情事を続けるのだから、心も体も緊張の連続になると思うわ」
「あの日、シャネルスーツで出会ったのも、何らかの計画の中にあったのかな?」
「それは違うわ。あれは、本当に、貴方に性的に興奮しただけよ」
「君が、簡単に性的に興奮するなんて話は信じにくいけどね」
「でも本当だもの。信じなくてもいいけど、そこまで計画的に動くなんて、それは考え過ぎね。たまたま、このような流れになったってことよ。特に、あの男が殺されたことで始まった話なんだから……」
「あの男ね。片山亮介か……、あの男、それ程重要な仕事をしていた男だとは思えないんだけどね……」
「犯罪者の重要性なんて、貴方の感覚とは違うわよ。どうでもいいくらい単純な仕事が重要な仕事ってこともあるものよ……」
「そういうものかな。例えばだけど、君たちの家族が、或るルートから、奇妙なモノを入手して、その奇妙なモノを片山が捌いて金にした、そんなことかな」
「だいたい当たっているわ」
「そうなんだ。それで、片山の顧客ノートが欲しくて、敦美さんを拉致した。だから、彼女は、それ程の恐怖心もなく監禁されていたってことか……」
「その辺が間抜けなのよ、うちの家族って」
「だよね。敦美がノートのこと知るわけもないし、敦美たちのマンションは警察に封鎖されているわけだからね」
「そうなの。敦美だって、部屋に自由に入れるのなら、さっさと渡した方が楽だもの。欲が深いのに、馬鹿だから、いつもドジ踏んだり、割を食ってしまうのね。困った家族だわ……」
「でも家族だから、そう云う世界なんだろうね」
「そうね、そういう世界なのよ……」
寿美の声は沈んでいた。
つづく