第460章ひさびさに、有紀と私は、互いの肉体に愛撫を加える行為を試してみた。試運転のような、そのビアンな行為は、互いの心のあり様をたしかめる程度で充分だった。
それ以上を求めて挫折することを避けるように、二人は、わずかな快感の記憶を呼び戻す程度で、眠りに就いた。
私は、昼過ぎに目覚めた。夢も見ずに、清々しい目覚めだった。
有紀は、既に起きていた。
リビングに起きがけの身体を運ぶと、“おはよう!”と、ご機嫌な有紀の笑顔が迎えてくれた。
「買い物してくれたんだ」私は、ダイニングテーブルに無造作に置かれた、三つのビニール袋を目にしていた。
「これだけあれば、一週間くらいは困らない筈だから」
「そうよね。二週間くらい食いつなげる量だと思うよ。後で、お買い物、清算してね」
「いいよ、大した額じゃないから。それよりも、今日は、色んなことの確認作業しようよ。この流れだと、このまま、姉さんとの共同生活が始まりそうだしね。このマンションで、三人の生活をするにあたってみたいな事も含めてね」
「あれっ、今日は劇団の方、大丈夫なの?」
「お休みよ。この間の箱根で、人間には、休みって必要なんだと、実感したの。
あの後、シナリオの方の仕事、凄くはかどってのね。色んな発想も、次から次と湧いてきて、一瞬、天才かと思うくらい。
そういうことで、今日から三日間は、二人は一緒。田沢君の家に一緒に顔出しした方が良いしさ」
「それ、助かるわ、ありがとう。それに、無事退院出来た以上、“ゆき”の育児問題の目途も立てなきゃならないから……」
「仕事はいつ頃からって思っているの?」
「村井先生は、退屈でも一カ月半は静養に徹して、あらゆる体力の回復にあてることって命令されてるからね。最低、そこだけは守ろうかと……」
「そうなんだ、一カ月半ね。その間、育児するのって大変だよね。いや、そもそも会社に復帰して、昼間、“ゆき”の面倒を誰が見るかもあるよね」
「そう、まさか、会社に子連れで行くわけにもいかないから……」
「リアルに、切実になってきたね」
「そう、先ずは保育園探しが、当面の課題」
「前に、姉さんの会社、企業内保育園つくるとか、そんなこと言ってなかった?」
「あぁ、あれね。社長の映子さんとの睦言の中の話だからね、間に受けて、催促するのもみっともないからね……」
「そうだね。こっちから言い出すのは、チョッとだね。でも、そのことに、気づくかもしれないわけでしょう」
「そうね、復職してからの、私の仕事ぶりや、社長と私との話し合いの成り行き如何かな?」
「なに?その、社長との話し合いの成り行きって?」
私は、社長が、後継者として、私を内々に指名しようとしたと云う話をかいつまんで話した。
「へ~、それって、凄いことじゃないの?」
「凄いと云っても、実績ある後継者ってよりも、竹村の大量の株を相続した人間だから。そう云うニアンスもあるから、ホイホイと乗れる話でもないわけよ」
「なるほどね。姉さんが、その話を飲めば、保育園も出来ちゃうかもね」
「そういうキッカケにはなるだろうけど……、子供を産むよりも、もっと重い課題を抱える立場になるからね……、不用意に承諾は出来ないよ……」
「結構、曖昧な時間帯だね。だったら、あのまま、田沢君のお母さんに、託児所やって貰えば良いんじゃないの?」
「頼めば、引き受けてくれそうだけど、図々しすぎる感じもするしね……」
「大丈夫だと思うよ。田沢君が言うには、子供への関心が減って、妹共々、凄く助かると歓んでいたけどね」
「それは、子供の立場からの感想でしょう。お母さんの立場じゃないもの」
「でも、ご主人も、最近の母さんの作る料理は、一段と美味しくなったって言っているくらいだから、彼女の精神的な充実に貢献しているのかもよ」
有紀とそんな話をしながら、先ずは、子供を預けている、田沢君の家を訪問するのが、一番の仕事と云うことで、明日の訪問を約束した。
つづく
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