第463章入院前に、打ち合わせしたイメージ通りのパースの家だった。
システムキッチンやトイレタリー、内装材などについては、後日、改めて確認することになった。
金子弁護士は、次の来客があると云うことだったので、私たちは、早々に事務所を出た。
「どこかで、食べて帰ろうか」女忍者のような出で立ちの有紀が、目深にかぶった黒いキャップの鍔を持ちあげながら話した。
「そうだね、これから作るのも面倒だからね。前に、金子さんにご馳走になったお店、行ってみようか?」
「近いの?」
「あの無人交番のところを右に曲がったところにあるはずよ。創作和食のお店だから、何が出てくるかは、お任せの店だけど……」
「面白そうね、そこにしよう」
あっさり話はまとまり、私たちは、その店に通じる地下への階段を下りた。
生憎、テーブル、カウンター席は満員だった。フロアーマネージャーらしき人物が、個室料金5千円がチャージされる和室は空いていると告げた。
私は、迷わずに了解した。通された部屋は、6畳程度の大きさだったが、茶室のような雰囲気で、創作和食の店としての趣を充分に出していた。
料理を選ぶ必要がないのも、たまには良かった。懐石料理の楽しみの一種だった。
自分の好みで、料理を注文してしまうと、案外同じようなものを、食べる羽目になる。結局は、自分のレパートリーの自縄自縛のようなものだった。
「何が出てくるか、こういうのって、結構ワクワクだね」有紀は、ビールを美味しそうに喉を鳴らして飲みながら話した。
「私も、そんな風に考えていたの。お任せというか、お仕着せなんだけど、時々、こういう食べ方も良いのかなって・・・・・・」
前菜が運ばれてきた。小鉢の中身は山菜なのだが、あまり口にした事がない味がした。
「この山菜の味わかる?」
「ううん。でも、ミスマッチのようで、変わった感覚の味だよね」
「でも、美味しい。家の件だけどね、部屋数が、未だ引っかかるんだけど・・・・・・」
「判っているよ。お母さんたちが住んでも充分なスペースがあると云う心配でしょう」
「あの人は、必ず、そのような暗示と、とらえると思うけどね・・・・・・」
「良いわよ、思うのは自由だから・・・・・・」
「自由ってだけで済むなら、私だって心配なんてしないよ。姉さん、母さんに、それが通用すると思っているの?」
「思っているもいないも、そんな事、言わせるつもりはないから、大丈夫よ。竹村の家なんだから、母さんに関係ないって、釘を刺すよ」
「そんなこと言ったら、あの人は逆上しちゃうよ」
「良いのよ。その時は、恨まれても、私が言うから、任せておいて」
「抗がん剤で人格も変わったの?」
「馬鹿ね、そんなことありえないでしょう。ただね、母さんに振り回されるなんて、馬鹿げていたのよ。
もしかすると死ぬのかも、そんな風に考えたとき、母さんの言動なんて、へいっちゃらな事だと思うようになったの。
我々が、彼女につきあい過ぎたために、彼女にも、私たちにも、習慣がついただけなんじゃないかって・・・・・・」
「たしかに、そうかもしれないけど、父さん含めた三人には共通理解があるとしても、肝心なご本人が理解しなければ、厄介じゃないのかな?」
そんな話に明け暮れている間に、懐石料理は次々と運ばれた。そして、私たちは、言葉の合間に箸を動かし、口を休めなかった。
つづく
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