第93章「いや、もう事件ルポや足を洗ったんだよ。今は、時事関連の方の仕事をして、細々暮らしている。もう、向きになって稼ぐ気力が消えたからね」
「そうなんですか、少し勿体ない気もしますけど」
「いやね、体力の限界だよ。例を挙げては怒られるけど、浅井さんも体力の限界、時間の限界超えて働いていた筈だからね」
「たしかに、そうですね。僕も、最近結婚したんですけど、貴方の会社に労働基準法ってないの、なんて、結構言われてますから、ハハハ」
上野は明るく笑ったが、目の下に隈が浮き出ていた。
「上野さんは、いま、どういう事件を」
「新宿の殺人事件と薬物関連の事件です」
「あっ、それって、片山亮介が殺された事件絡み」
「えぇ、その片山亮介の事件と薬物ルート関連のやつです」
「そうか、奇遇だな。いやね、じつは俺も、その事件には多少絡んでいるんだよ。片山氏の奥さん関連でね」
「えっ、そうなんですか。だったら、情報交換しましょうよ」
上野は、上半身まで一緒に乗り出し、喰いついてきた。
その後、俺は片山亮介に関する情報と、その奥さんの情報の幾つかを、上野に提供した。無論、俺と敦美の関係については、完全に伏せていた。
上野の方からは、警察の方は、薬物に関係してであろう片山の会社を中心に洗い出しをしているようだが、彼の勘では、片山の個人プレイの線の方が濃厚なのではないかと睨んでいるという話だった。
ただ、片山が亡くなり、その奥さんと接触できていないので、人間関係がまだ手つかずだという話だった。しかし、警察は、彼の奥さん関連には殆ど興味がないらしく、殺された翌日の簡単な事情聴取だけで、会社の方の家宅捜索を行ったと云う情報だった。
「その会社は、警察は以前からマークしていた会社ということかな」
「いや、どうなんでしょうね」
「いやさ、叩けば埃が出る会社だから、敢えて家宅捜索に出たのだろう。必ずしも、殺人事件だからと云う理由じゃないのかもな」
「覚醒剤関連の捜査に一環ではないと」
「うん、そんな気がするね。警視庁も一緒に動いていないのか」
「えっ、よくお判りですね。奇妙な部署が出張っています」
「公安だろう」
「ズバリです」
「そうか、そういうことか……」
「えっ、あいばさん、なに一人で納得してるんですか。言葉にしてくださいよ」
上野は、今ではリタイヤしたルポライターに縋りついた。
「いやね、警察は、片山が殺された方の事件に関して、その犯人の検挙に、本気で動いていないと云うことだよ。たまたま、殺しをきっかけに、違う捜査の方が動いている、そういう感じがすると云うことかな」
「公安と云うことは、北朝鮮ですか」
「まぁ今どき、公安が熱心になるのは、野党議員のゴシップか北朝鮮だろうからね」
「なるほどね。片山の会社が総連と通じている、そういう流れでしょうかね」
「わからないけど、総連系か、暴力団を通じてか、どちらかだろうけど、今どきは暴力団の方はね……」
「そんな器用な仕事に手を出せない、そういう感じですからね」
「まぁ、そういうことだよ。総連の方も、エネルギーはないけどさ、暴力団よりはエネルギーは残っているだろう」
「そうでしょうね。総連全体はくたばっていますが、末端の構成員個人には力が残っているはずですから……」
「その辺から手繰ってみたらどうなの。片山は、元暴走族のリーダーだったわけだから、その当時の仲間の中に、朝鮮系も多くいたはずだからね」
「えっ、片山って暴走族だったんですか……。わかりました、その線追います。ありがとうございました、新しい情報入りましたら、この携帯の方に連絡入れますから」
上野は、その情報がよほど嬉しかったらしく、俺のマンデリンの伝票も一緒に取ると、店を出ていった。
つづく
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