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終着駅418


第418章

有紀から、今夜も病室に泊まるから、手配よろしくというメールが入った。

私は、忙しい場合は、無理しなくて大丈夫だからと折り返しメールを入れたが、“大丈夫、最近、姉さんの近くにいないと落ち着かないからさ。多分、姉さん依存症になったみたいW”と云うメールが戻ってきた。

以心伝心と云う言葉があるが、まさに、頼り合い助け合う姉妹が存在するのだけれど、その姉妹がレズビアンであることが、美しい姉妹愛に、どのような評価の変化を与えるものか、判断に迷った。

こんな風に、依存しあって生きている、か弱き人間が、果たして、今後の加重責任を背負っていく能力があるのか、真剣に向き合う時が来たことを、いやが上にも感じるのだが、まだまだ、リアリティを伴った悩みにまでは到達していなかった。

第三者的には、どう見ても幸運だらけの姉妹のように映るのだろうが、他人様が見ているほど、我々姉妹が、平穏な生活をエンジョイしているわけではなかった。売れっ子劇団の座長であり、女優でもある滝沢ゆきが、生活者として幸せかと問われた時、幸福感に満たされて等いなかったし、遺産相続で大金持ちになったキャリアウーマンの私も、病魔を目前に、幸福感にどころの話ではなかった。

三週間近い、猶予期間は、私にとって、人生初のモラトリアムな時空を与えていた。

今後、私に加重される仕事や責任の多さは、すべてが未経験なのだから、どの程度大変なものかは、想像するしかない。

ただ、その一つ一つを、すべて自分でこなし切ると云う考えは、この際、捨てるべきだと思った。私より、その一つ一つの分野に、経験豊かで助けてくれる人がいるなら、素直に、その人の能力を借りれば良いことだった。

一番、頭の中で重しになっている、子供の保育、育児の多くの部分を、他人に任せることは多々あるわけで、私の24時間が、その作業と責任に割かれると云うものではなかった。

竹村家の資産と云う問題も、妥当な方法で管理する限り、それが、増えようが減ろうが、私の責任と云うよりも、世の中の経済事情に影響されるに過ぎなかった。

こうやって、加重されてゆく、私の責務と云うものは、その責任遂行の行為を、すべて自分で行おうと云う力みから、雁字搦めになっているのかもしれなかった。

その分野の、能力の有る人々の力を有効に使うマネージメント能力がある限り、過失と非難されるほど、重大なミスを犯す可能性は少ないことに気づいた。

他人に依存していかなければ、一定以上の物事を、独りで抱え込むことは不可能なのだ。人に依存すると云う事は、人を信頼することでもあり、そのギブ・エンド・テークの行いが重なり、共同体などが生まれたに違いない。

私は、相当に我田引水な割り切りだと感じながらも、加重な何役もの人を演じる以上、それは、避けて通れない、便法と云うか、法則なのではないかと考えだしていた。

そうなんだ、ひょんな経緯から、弟である圭と云う人間と関わってからと云うもの、私は、運命のエアポケットに吸い上げられたような空間を漂っている。

一つとして、自らの欲望で、その立ち位置や、試練やメリットを経験しているわけではなかった。

このような状況が、運命に翻弄されている状態なのだろう。

ただ、翻弄と云うと、如何にも試練の連続の中で錐もみ状態を想像するが、試練と僥倖のどちらが多いのかと言えば、幸運な出来事の方が多いんじゃないの、私は、もの思いに耽りながら、最終的に、アグレッシブな自分をとり戻しつつあった。
つづく

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終着駅417


第417章

社長の話をまとめると、私の治療が終わり次第、秘書室長代理の立場だが、次期社長含みの意味合いで、社長と行動を共にして貰いたいと云うことだった。

幾分乱暴な人事行為だが、緊急避難と云うことで、取引先には納得して貰えるだろう。

当面は、自分が代表権のある会長職にとどまるから、どんな問題でも相談に乗れるし、最悪、君が立ち往生したとしても、何時でも復帰できる態勢を維持しているような状態にしておく、そう云うことだから、不安はない筈だと、人ごとのように、旨いことまとめた。

キャリアウーマンとして、業務に携わっていた時点で、この話を突きつけられたら、何らの拘りもなく、社長の提案を受け入れていたかもしれない。

しかし、今の私のポジションは、そんなシンプルなものではなくなっていた。

やらなければならない事柄が、私の中で一気に増えてしまった。

自分が望んだものだけではないが、選択したのは私だった。誰からも強制されずに、自分が選んだ、複雑な立場だった。

先ずは、一児の母になったと云う事実が大きいに違いない。

まだ、未経験の領域なのだが、生きている中で、時間、体力、こころ配りなど、負担がのしかかって来るに違いなかった。

次に、竹村家の遺産の相続人になったことで、それ相当の責任もある、シングルマザー基金の運営への責任もあった。

竹村家の血筋を継承した人間を産んだことで、その子に、竹村家を継がせる責任のようなものも生まれた。

病気の件も、心を重くしていた。

体のことに神経を使ったことがない私は、完治したとしても、かなりの注意を払わざるえなくなる筈だった。

また、老いていくばかりの両親の問題も、いずれは考えなければならなくなる。有紀と手分けする問題だとしても、主に配慮する義務は、私にあると云う自覚があった。

単にキャリアウーマンだけの感覚で生きてきた私とは、隔世の感だった。

想像するだけでも、これだけの役目が追加されている。おそらく、それらに関わるアクシデントが加わるわけだから、容易なことではなかった。

その上に、社員300人の企業の社長業を、上乗せすることは、無謀な試みとしか思えないのは、ごく自然な感覚だと思った。

しかし、速攻で、社長に、そのような大役は到底引き受けられないと、宣言するタイミングだとも思わなかった。

あの社長が、具体的ではない、逆にいえば、心模様を素直に露呈したことを思うと、無碍にする勇気もなかった。

現時点では、保留という結論が妥当なのだが、それなりの企業規模の社長交代には、相当の準備や根回しも必要なわけで、無為な時間を浪費してしまうことも許されなかった。

断る結論ならば、今日からの三週間の間に、社長に話さなければならないと思った。

考えて、状況が変わるものではないのも判っていた。しかし、何か、一人で考え込んでも埒のあかない問題でもあった。

最近は壁に突き当たるたびに、有紀の顔が浮かぶ。

自分でも不思議なくらい、有紀依存症に陥っている自分を感じた。今回は、有紀への依存だけでは不足で、父への依存も加わりそうだった。
つづく

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終着駅416


第416章

入り口から、遠慮深いノックの音が聞こえた。こういう神経の使い方をするのは、父か、お義父さんくらいしか思い浮かばなかった。

「ハ~イ!」私は、歯切れよく、大きな声で、その思慮深いノックに応じた。

覗きこむように入ってきたのは、社長だった。

いつもの社長から発せられるオーラが消えていた。少なくとも、私は、その時感じた。

そして、まさか社長までが、末期の癌を告白するんじゃないだろうかと、不安に包まれた。

「おめでとう。突然、顔を出してスマン。実は、ここの院長と知り合いでね、君の状況がどうなっているのか確認した所、心配だったら、自分の目でたしかめに行けば良いだろうと言われちゃってね。それで、面会しても大丈夫なのかと聞くと、本来は駄目だが、この際許してやろうって言われたものだからね……」

「わざわざ、申し訳ありません。それにして偶然です。さっき、映子さんと電話でお話したばかりなんですよ」私は、うっかり流れの中で、社長と映子さんの関係を示唆するようなことを口走った。

「そうだったのか。アイツも、色々と滝沢君のことを気にかけていたからね」案に相違して、社長は、映子さんとの関係を、周知の事実のように受け流し、吸い取り紙のような顔つきで、病室全体を眺めていた。

「しかし、滝沢さんの選択は正しかったようだね。どう考えても、今回のケースは、帝王切開が常識だと云うのに、貴女は、自分の考えを断固貫き通した。その理由は、男の僕には判りようのない意志なんだろうが、映子は判ると言っていたのだから、そう云うものなんだろう」

「映子さんと私のことで、心配してくれたのですか?」

「あぁ、君は、私たちの間では、接着剤にふさわしいアイドルみたいなものでね。君が、幸か不幸か、話題を提供してくれるお陰で、倦怠期を逃れているようなものだよ。いまさら、滝沢君に、私たちの仲を隠しても意味がないからね。それに、近い将来、会社を君に預けるとして、映子の件も、多少は面倒見て貰いたい気持ちもあるから……」

「私も、映子さんから、概ねのことは聞かされていましたから、ある程度は承知していました。でも、近い将来、会社を預ける、その話は、初めてお聞きしますけど?」

「そう、そこなんだよね。ドサクサ紛れに言ってみたが、やはり、チェックが入ってしまったか、ハハハ」

「そりゃチェックしちゃいますよ。私は、会社の経営なんて、考えてもいませんから……」

「現実はそうもいかんのだよ。まあ、私の気持ちを話させてくれ。無論、これから、滝沢君は、重大な治療期間に入るのだから、答えを求めて話すのとは違う。
ただ、事前情報としてインプットしておいてほしいと云うに過ぎない。ただ、君の決意を確認した上で、私自身の選択も変わるわけだから、是非聞くだけは聞いて欲しんだな」

「どうして、急にこう云うお話になるのですか。まさか、社長までもが末期がんに罹患なさっている、そういう事じゃないですよね?」

「あぁ、それはない。ただ、人生に、一定の区切りをつけるべき時期が近づいているのは事実なんだよ」

「少し、意味が判り難いのですけど……」

「うん、そうだね。私の話し方は、いつもこうで、周りに迷惑を掛けている。竹村氏に、だいぶ言われたよ。彼がいる間は、注意していたが、居なくなってしまうと、タガが外れてしまって、元に戻ったようだ、ハハハ」

「それで、お上手に説明していただくと、どう云うことになるのですか?」

「うん、女房の状態が思わしくなくてね。これから何年生きるかどうか、それは判らないのだが、日常生活のすべてで介護が必要になってきている。
事実としては、介護自体は、ひと様にお任せ出来るとして、そこに、私が居るかいないか、そう云う点で、悩ましい気持ちになってきている、それが、私の、今の心境なんだね」

「つまり、奥様の近くにいてやりたい、そういう事でしょうか?」

「そう、そう云う気持ちが、日々増すばかりでね。
この機会を逃すと、私は永遠に心残りな生き方を強いられる。いや、現実に、女房の面倒を見ててやりたい、そういう心境に、どんどんなっていると云う事実があるんだよ。
なにも、自分に対するエクスキューズとか、そういう次元ではない積りなんだがね」

「奥様の病気が、そのまま進行なさると、最終的には、意思の疎通も出来なくなるとか、そう云うことなのですか?」

「まあ、簡単に言えばそうだね。医学上は、色んなケースがあり得るらしいが、意識がなくなるのだけは、たしからしい……」

「でも、と云うのも変なのですけど、現在の社長の立場でしたら、出社しないくても、充分指示は出せる状況だと思うのですけど。それに、たまに、会合とかがあっても、1,2時間、チョッと時間を取れば、済むことだと思いますけど……」

「理屈上は、その通りだ。私も、女房の介護を考えた時、君の言っているように、まずは考えた。しかし、その理屈通りで日常を過ごしても、やはり、心が晴れ晴れとなって、女房に寄り添っている感覚を味わえない、そういう気持ちの方が強くなるんだね。なにか、小手先で人生を弄んでいるような、そういう思いだけが、強く印象づけられてね……」

「そう云うものなのですか、私は現時点で、社長の心理を、理解出来るとも、出来ないとも言えないんですけど、人生の区切りのようなものに立ち向かう時に、余計な不純物を取り除いた上で、と云う心理は理解できます。
私自身、竹村の、死に際の準備万端な行動に、幾分呆れたくらいでしたけど、自分が、生きるか死ぬかだよと、現実を突きつけられたとき、やはり、心境は大きく変わりましたから……」

「どう云う風に変わったのかな?」

「社長に驚かれると困るんですけど、仕事なんか辞めても良いかも、そういう心境にまでなっていました。
それに、私の場合、俄か株主なわけで、実質的に、経営者として何もしていないわけだから、大株主であってもなくても、或る意味で同じだったんです」

「そう言われれば、君の方の心境が、そのようになっても、不思議はないんだね。う~ん、しかし、それは、非常に困る心境だな。理解は出来るんだが、同意は出来ないかな……」

「でも、私だけが、そういう状況にあるわけじゃないんだ、社長の話聞きながら、竹村の死に際の意志とか思い出すと、私の、心境は、まだまだ、真似事な部分があると思っています。
辛い治療かもしれませんけど、最近では、私の年齢なら、先ずは完治する病になりつつあるわけで、ママゴト的な死に際なのかなって感じる部分もあります。まだ、充分に、現状が咀嚼は出来ていないのですけど……」

「なんだか、お祝いに来て、トンでもなく厄介な話をしてしまったね。
申し訳ない、どうも最近、こらえ性がなくなってきているんだな。あきらかに歳だよ。まあ、軽い気持ちと云うのはなんだが、一つのアイディアとして、君の選択肢の一つに加えておいて欲しい、今夜は、そう云うことにさせてくれ」

その後、社長は、自分の青写真を語り、映子さんとの関係をどのようにしようかとか、聞かれても返答に困るような話を幾つも投げかけて帰って行った。
つづく

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終着駅415


第415章

映子からメールが入った。“もう、電話とか出来ますか?大丈夫なようなら、少しお話したいのですけど”

私は、問題ないとメールを打った。

『ヨカッタですね、すべて思い通りで。おめでとうございます』

『ありがとうございます。思いのほか、安産だったみたいよ』

『本当に良かったわ。社長も手放しで歓んでいましたよ。ところで、ご報告なのですけど、今日人事が発表されたんですけど、涼さんが秘書室の室長代理に異動になりました。社長が言うには、既に、滝沢君には話してあるからってことなのですけど、本当に聞いていらしたのかと思って……』

『そうね、出産前に顔を出した時、そんな流れのお話を口になさったかもしれないけど、具体的な時期やポジションまでは……』私は、鮮明に記憶していたが、社長のニアンスに合わせて答えた。

『やっぱりね。あの人って、最近、凄く気が短くなっちゃって、今にも、命が絶えるような勢いで、あれこれと、手を出しはじめたのよ。なんだか、チョッと心配になってきちゃって……』

『どこか悪いところでもあるの?』

『私の知る範囲ではないわ。血圧の薬とか、サプリみたいなものは飲んでいるけど、特に持病とかの話は聞いてないの……』

『ずばり聞いてみたら?』

『なんでもズバズバ質問できるんだけど、何かね、重大な宣言でもされたらどうしようって思うから、聞くに聞けないのよ……』

『末期の癌だとか言い出しそうで?』

『そうそう、そう云うこと。出来たら、そう云うことは、現状では聞きたくないかなって……』

私は、社長の腹が幾分読めていた。竹村の遺産を相続したことで、会社の株を二分することになった私の処遇を考慮した動きだと云う事が理解できていた。

ただ、現時点で、そのことを映子に対して、あらためて持ちだす必要もないと判断した。

ただ、たしかに、私が出産で入院している最中に、異動させるほど緊急を要することでもないのに、その点で、社長の気が短くなっているのは事実かもしれなかった。

しかし、気が短くなり、居てもたってもいられなく現象は、ある年齢に達した人に起きがちな症状で、特別病気云々とは関係ないと思った。

『まさか、この間お会いした時も、そんな感じはなかったわ。血色も良かったし、声のトーンも変わりなかったし、それに、社長の不調とか、映子さんが一番手に取るように判っている筈じゃないの?』

『うん、まあ、その辺は大丈夫なんだけど……』

『だったら、きっと映子さんの思い過ごしだと思うけどね。そうだ、それに、社長でしょう、病院の院長に、竹村と云う患者のこと、ひとつ宜しくって電話してきたのは』

『あぁ、やっぱりしたわけね。私は、変に上から圧力なんて掛けない方が良いんじゃないのって話したんだけど、結局、電話したわけね』

『いえ、社長だと具体的に判ったわけじゃないのよ。ただ、産科の担当医の先生から、院長からも、竹村さんの件は万全を尽くしてくれよって、お声が掛かったって聞かされたので、誰が院長に電話するかなって推理した結果、社長の顔が浮かんだだけなの……』

『そう云うことなんだ。多分、間違いなく、涼さんの推理は当たっているわ。それにね、私、時々焼きもち感じるくらい、あの人、滝沢涼さんの存在を意識しているのよね。あれって、どう云うことか、推理できないかしら?』

『まさか~っ。だって、社長と上手くいっているんでしょう?』

『まあまあね』

『だったら、何でもない話よ。ただね、竹村の遺産相続で、私が、我が社の大株主になった話は知っているよね?』

『漠然とだけど、知っているけどね……』

『多分、そのことで、将来的に、私が、会社の主たるポジションに就ける器量かどうか、考えだした所為じゃないのかな?』

『それだけかな?』

『それだけだよ。あんまり、近くで見ているから、逆に見えにくいんじゃないのかな?』

『そうかな。なんだか、少し癪だけど、涼さんと競争も出来ないしね。ふふふ。そうそう、お祝いの話なんだけど、明日でも病院の方に面会に行っても差し支えないのかしら?』

面会時間を映子に伝え、電話を終えた。

たしかに、社長の動きは性急だった。何も、そこまで慌てる問題ではない筈なのに、私の存在を意識し過ぎた人事に着手しているようにも思えた。
つづく

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終着駅414


第414章

「あの、櫻井先生、赤ちゃんが保育器から出られる時期って、だいたいですけど、どの辺を目安にしておけば良いのでしょう?」

「そうですね、最速で1か月、遅くとも2カ月、その程度の目安しか、現時点では言えないんですよ。うちの設備だから、問題はありませんけど、1800グラムの赤ちゃんは、色んな問題を抱えているのは事実ですから、慎重に判断したいですからね」

「いえ、急いでいるわけじゃないのですけど、育児を引き受けてくれる方への連絡もあるものですから……」

「結局、このあいだお話していた、候補者の方に決まったんですね?」

「ええ、赤ちゃんを預ける条件は揃っている方のようでしたから。ご家庭も信用できそうでしたし……」

「それは良かった。特別、期間とかは決められたのですか?」

「ええ、最低でも4カ月くらい。場合によっては半年とか迄はお話して、了解をいただいていますので……」

「それなら充分ですね。これから、8カ月くらいの目安が見えてきたのですから」村井先生が、自分の担当治療の期間も、考慮した期間に満足したように、言葉を挟んだ。

「あっ、そうでした。櫻井先生に先日お預けした住所の近くのクリニック紹介の件は、どうなったでしょうか?」

「あぁ、妹さんの方に電話でお話しておきましたよ。交通の便が良いから、あそこで構わないと申し上げましたが、治療状況がスッキリしない時は、僕の方に連絡を入れて貰って構わない。そのように話しておきましたから」

「そうだ、もう一つ質問があるのですけど、イイですか?」

「無論です」

「私は、明日にでもNICUの方で赤ちゃんと会えるようですけど、私の家族の訪問とかの目安のようなもの、その辺の時期を知らせろって、母からの催促があるものですから……」

「あぁ、ご両親の方ですね。そうですね、今でも、駄目と云うつもりはないのですが、現状はかなりの管に繋がれて、いかにも瀕死の状況に見えますからね、それを考えると、一週間後くらいの方が妥当じゃないかと思いましてね……」

そんな話を交わし、私の病気治療の方が終わった時には、全員で祝勝会をしようなどとノー天気な話で、三人は話を切り上げた。

彼らの希望的観測には、滝沢ゆきが含まれているのは当然だったが、敢えて、そのことは確認しなかった。

おそらく、有紀も、村井先生と同じ席で話すことは、望まないわけもないだろうから、あっさり実現すると思いながら、ベッドで横になった。

常に、スケジュール管理で生活をしていた私にとって、櫻井先生と村井先生との打ち合わせは、一時のカンフル効果をもたらしていた。

今夜、有紀が顔を出してくれるかどうか、まだ連絡はなかった。

有紀に対しての依存が強くなっていく自分に気づくと、白血病と云う病で、気弱になっている自分を自覚していた。

当然、具体的には考えないようにしているが、抗がん剤治療の過酷さが、知らず知らずに、自分自身を気弱にさせている自覚はあった。

そして、連動するように、有紀への依存が強まっているのだが、自重しなければと云う気持ちと、孤独の中で見出した依頼心の間で、心は揺れ動いた。

有紀は、充分に多忙な身である筈なのに、いとも容易く時間を作っている顔をしているが、相当の無理を強いている自分がいることが辛くもあった。

そんな理性的な気持になりかけていながら、どこかで、有紀が顔を出すことを望んでいる自分がいる情けない気分に陥るのだが、どうしようもない感情だった。
つづく

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終着駅413


第413章

「いやぁ、櫻井先生、見事な腕前でしたね。竹村さんもおめでとうございます。」

「いやぁ、ご本人のポテンシャルに助けられただけですよ。それにしても、村井先生の眼力も見事でしたね。竹村さんが、”滝沢ゆきさん”そっくりだって言っていたでしょう。あれ、現実に近かったんですよ」

「えっ! どういうことですか?」

「いえね、いまお話していたんですけど、滝沢ゆきさんは、竹村さんの妹さんなんですよ」

「なんだ、そう云うことだったのか。どおりで似ている筈だ。それにしても、双子と思うくらい似ていましたからね・・・・・・」

「村井先生も、滝沢さんのドラマ観ていたわけですね?」

「いやぁ、親父がファンだったので、ついつい一緒に観ることになったんですけどね。親父は、竹村さんが初めて診察に訪れたとき、驚いたらしいですよ。あまりのショックに、触診を省いたそうですから、ハハハ」

「ほう、あの先生の度肝を抜いたわけですね」

「そのようですよ。竹村さんを初めて診察した夜に、家で例の滝沢ゆきさんが出演していたドラマの録画を再生して、確かめたくらいですから・・・・・・」

「それはそれは、筋金入りのファンですね。それで、村井先生に直に依頼されたわけですね。偶然が重なっているんだな、竹村さんのケースは・・・・・・」

「竹村さんの日頃の行いが、余程良いんですよ。今日確認しましたけど、がん細胞の数も変化ありませんから、治療に入るまでの猶予はじゅうぶんですからね。体力を回復する期間は充分取れそうです」

「あの、今回の出産入院と治療の間ですけど、どんな感じのスケジュールを考えておけば良いのでしょうか?」

「出産後、一般的には一週間程度の入院ですけど、竹村さんの場合、二週間程度が良いのかなと思っています。まあ、竹村さんのご都合にもよりますけど、一日おきに診察に来て頂いても構わないのですけど、逆に面倒じゃないかと思いましてね。それと、出来れば毎日お母さんの母乳を飲ませてやりたいんですよ。成長の中身が違いますから・・・・・・」

「それは、問題ありません。それと、病室も、この際ですから、このままで良いのかなと思いまして・・・・・・」

「それでよろしければ、そのように手配しておきましょう。ところで、村井先生の治療スケジュールのご予定は?」

「あぁ、それを話し来たのですが、話し出すチャンスを逃してしまいました」村井先生が、櫻井先生のペースに巻き込まれていた。

「櫻井先生の方が二週間程度と見てられるとすると、僕の方は一カ月先を治療開始の目途を立てていましたから、2,3週間は間が空くことになります。竹村さんの方のご予定は如何ですか?」

「そうですね。治療の開始が、1か月先でも大丈夫と云うことなら、少し、休養と云うか、体力を戻しておけるとか、そう云う事も出来そうですから、気持ち的にも余裕が出来ます」

「それが良いのかもしれませんね。1か月で、赤ちゃんを保育器から出せるかどうか微妙ですが、母体の回復と、保育器から出たあとの、保育環境とかを手配するにもベストでしょうね」

私は、二人の医師と状況判断の話に加わっている事が楽しかった。無論、医学的知識は持ち合わせずに、医学上の部分を除いてでも、同世代の三人がディスカッションしている雰囲気が心を和ませた。丁度、竹村をリーダーに、プロジェクトを立ち上げている時の雰囲気を、思いもよらない形で味わえたのは幸運だった。

「そうすると、現時点のスケジュールとしては、約二週間、産科に入院した上で、一旦退院。そうして、2週間前後、竹村さんは保養した上で、血液内科の方に再入院、治療開始。だいたい、そう云うスケジュールと云うことで良いですね」村井先生が、上手にまとめた。

「異議なし」櫻井先生がおどけた口調で発言した。

「意義ありません」私も、櫻井先生に倣って、同じように声を上げた。自分が、当該患者であることを一瞬忘れられる、キャリアウーマン滝沢涼のアグレッシブな一面が再来した。
つづく

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終着駅412


第412章

その夜、父からメールが入った。

自分としては、充分に意味を理解させたつもりだったが、不十分な伝達になってしまい反省していると云うメールだった。

そして、貴方は、涼のそれ以外の病気について、何か聞かされているのかと聞かれたので、まったく知らないと答えておいたと云う内容だった。

すべてを話さなくて良かったと思うと同時に、“白血病”などと聞かされたら、今にも、私が死ぬのではと、大騒ぎになりそうで、何も起きない時点で気が重くなった。

映子から、女児誕生への祝いと、仕事の方は順調なので、身体をいたわってくれと云う趣旨のメールが入っていた。会社の方には、必要各方面に伝達しておくと云うことだった。

母とは大違いで、会社を代表して、私が入院中に伺うつもりにしているが、お祝いに行っても良い時期を知らせてくれと、追伸のような形で伝えてきた。

その追伸の追伸で、“やったね!これで、涼さんも、迷走神経の虜になる有資格者の仲間入りね。その通り、実行した涼さんに乾杯です”と云う意味深なひと言がついていた。

義父さんも、女児誕生を痛く歓んでいる趣旨のメールを送って寄こした。お祝いになるのか、お見舞いになるのか判らないが、病院の方に面会可能なら、その日時等をお知らせくださいと伝えてきた。

金子からは、実印を貰う件があるので、面会可能な日時を知らせてくれと云うことだった。遺言書、吉祥寺の家の解体の手筈が整ったと件が報告されていた。

本来であれば、最も歓んでくれるであろう圭がいない事は、一抹の寂しさがあったが、今さら、悲しむ気分にもなれなかった。生きていたら、圭のことだから、俺の子供を産んでもらいたかった等と言い出しただろうかと、奇妙な気分になったが、看護師が軽いノックと同時に入ってきたので、もの思いは、途切れた。

「あら、結構お乳出ましたね。これなら充分ですし、明日以降はもっと出が良くなると思いますので、一安心ですね」看護師は、備え付けの冷凍庫に収められた初乳のパックを見ながら、思った通りを口にした。

「不思議ですよね。私の乳房から、オッパイが出てくるなんて……」私も、素直な感想を口にした。

「私なんて、もうペチャパイでしたから、自分では、絶対に出ない自信があったのに、妊娠6カ月くらいから、見る見るオッパイが大きくなって、自分でも怖ろしくなるくらいでしたよ。まあ、その素晴らしいオッパイも、出産して、1か月もしたら、元の木阿弥。旦那が、なんだ、見る見る小さくなっていると、嘆く始末でしたよ。もう、腹が立って、だったら、初めからデカパイと結婚すりゃ良かったでしょうって言ってやりましたけどね」

母と同年に見えるベテランの看護師は、今夜は機嫌が特に良いようだった。

その時、櫻井先生が、静かにノックして入ってきた。看護師は、初乳のパックを冷凍庫から取り上げて、入れ違いに出ていった。

「初乳ですか、お見事ですね、竹村さんは、見事に自然分娩も実践したのだから、脱帽ですよ。正直、押し出す力に関しては、僕も不安だったんですよ。場合によると吸引、それが駄目なら帝王切開の積りで、麻酔医にもスタンバイして貰っていたくらいですから……」

「自分でも、お腹が裂けるような陣痛に襲われると覚悟していましたから、こんなんで産まれても大丈夫なの?逆に、不安になったくらいでしたもの」

「分娩台で3時間近く頑張る人もいますからね。幸運が幾つも重なったのでしょうけど、1800gの赤ちゃんだったことも、大いに影響していると思います。ただ、問題は、1800グラム程度の状態だと、押し出す力が充分ではない可能性があると思っていましたけど、竹村さんの場合は杞憂でした」

「つまり、その点は、個人差が大きい、そう云うことですか?」

「まあ、意図的に早産させたケースと云うのは、症例が少ないですからね、統計データと云うレベルには、まだまだです。ただ、好例のシンボルにはなると思います。そう云う意味では、僕の方も、竹村さんに感謝しなければならないんです。しかし、竹村さんが、“滝沢ゆきさん”に似た女性だなと思っていましたけど、お姉さんだったのには、病院中がビックリしていましたよ」

「彼女、私、そんなに有名じゃないからって言っていましたよ」

「若い子たちのことはわかりませんけど、病院関係者って4、50歳が中心ですからね、その世代では、有名なんですよ」

「なるほど、そう云うことですか。そう言えば、有紀がテレビに出ていたのは、5年近く前になるかしら……」

「そうそう、あのドラマの彼女の演技は凄味がありましたから……」

そんな話を櫻井先生としているところに、村井先生が入ってきた。
つづく

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終着駅411


第411章

有紀は、父さんに、見舞いに来るのは明日以降とメールをしたと言っていたが、案の定、母は飛び込むようにして、病室に駆けつけてきた。

「どうしたの、母さん。面会は、明日以降にしてって、メールしたじゃないの」有紀が、憮然とした言い回しで母の来訪を非難したが、母は、聞く耳を持たなかった。

これは駄目だと気づいたのか、有紀は、“また来るね”と言い残すと、逃げるように病室を出ていった。私は、有紀に聞こえたかどうかおぼつかない声音で、“有紀、ありがとう”と呟き、母の顔をみつめた。

「どういうことなの?私に何も知らせずに、どうして、早産なんかになるのよ」母の発言の趣旨を理解するのは容易ではなかった。

「早産は、私が選んだ話じゃないから、そんなこと言われても……」

「そりゃそうかもしれないけど、事前に、何らかの兆候があったんでしょう。それならそうと、知らせてくれれば良いじゃないのよ」

「特別な徴候なんてなかったのよ。子宮頚が、少し短くなったことはあったけど、また、平常に戻ったしね……」

「やっぱり、あったわけじゃないのよ。それで、赤ちゃんは何処なの?」

「あのね、父さんから話、聞いているでしょう。NICUに入っているって……」

「あの保育器の中ね。だったら、未熟児ってことかしら?」

「決まっているでしょう。8カ月で産まれてしまったんだから……」

「未熟児でも、産まれてから24時間以内に、親たちも会える規則だって聞いてるけど、どうして会えなのかしら?」

「規則っていっても、夫々の病院の決まりなんだから、法律じゃないもの。それに、まだ私自身が保育器の我が子と対面していないんだから、母さんの番は、まだ先の話よ」私は、有紀は会ってきているけどと、つけ加えることはなかった。

「それで、アンタの体調はどうなのよ?」

ようやく、私の話題にになった。

「そうね、いたって大丈夫かな?大丈夫と言っても、まあ、色々と問題はあるんだけど、いま、そちらの方の検査をしているの……」

「んんん、言っている意味が判んないけど、どういう意味なの?産後の状態が悪いってこと?」

「ん、だから、出産とは関係なく、違う面で、ちょっと心配な症状があるから、検査の途中なのよ……」

「何よ、その心配な症状ってのは?」

「まあ、大したことはないだろうって話だけど、検査が途中になっているから、母さんたちに報告できる状況ではないってこと」

「どうも、要領を得ない説明だわね。まあ良いわ、取りあえず、アンタが元気そうにしているから。それにしても、この病室、大丈夫なの?貴賓室みたいじゃないのよ」

「病室が空いていなかったの。だから、特別室で結構ですって、私が了解しただけの話。普通の個室が空き次第、そっちに移るから……」

「赤ちゃん産んだんだから、もう大部屋だって問題ないんじゃないの?病院にぼられているんじゃないのかしら?私が、事務の方に交渉に行ってこようかしら」

「母さん、ひっくり返すの止めておいて。私、お金の心配はしていないから」

「幾ら、遺産が入ったからって、無駄遣いなんかしていたら、お金なんてのは、お足ですからね、あっという間に消えてしまうものよ。もう、本当にこう云うことになると、アンタも父さんも、判断が甘いんだから」

「わかったわ。これから気をつけるようにするよ。少し、寝たいから、また明日とか、明後日とかに、話しよう」私は、もうこれ以上話しません、と強く意志表示しながら目を閉じた。

母は、まだまだ、もの言いたげにゴソゴソしていたが、私が狸寝入りの寝息をかくと、不承不承立ち上がった気配がした。やれやれ、帰ってくれたかと思って聞き耳を立てていると、洗面所のドアが閉まり、水洗の音が聞こえてきた。

また戻って、補助ベッドに腰かけていたようだが、私は必死で寝息をかき続けた。しばらく、そんな鍔迫り合いが続いたが、私の狸寝入りは、本当の眠りの導入部となり、母のいない世界に入り込んでいた。
つづく

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終着駅410


第410章

ネットなどの情報で知る限り、未熟児でも、産んだあと、一時だろうがカンガルー抱っこをさせてもらった、と多くの人が書いていたが、それはなかった。

私に、その体力、気力が失われていた為なのか、未熟児の状態がシビアだったのか、その辺は疑問だったが、明日にでも会えるようにしましょうと、櫻井先生が言っていたのだから、思い悩むほどでもないと思った。

「姉さん、おはよう」有紀がベッドに潜ったまま声をかけてきた。

「おはよう。少しは寝られたの?」

「寝られるかなと思ったけど、問題なく寝られたよ。いつもより、快適に寝られたくらい。赤ちゃんの様子は、どうだって?」

「うん、特別の問題はないけど、体中、チューブで繋がっているんだって」

「え~っ、それって危ないとか、そういうこと?」

「さっき、櫻井先生が話していったんだけど、そういうニアンスじゃないみたいよ。明日にでも、会えるようにしましょうって言っていたから」

「姉さんが明日なら、もしかすると、私が一番初めに、竹村ゆきちゃんを目撃したのかもね」

「えっ、有紀、赤ちゃん見たの?」

「うん、櫻井先生が、あとで、お姉さんに安心するように伝えておいてくださいって、NICUの部屋に連れて行って貰って、ガラス越しに見てきたよ。ほんの一分くらいだったけど」

「そうなんだ、ちゃんと泣いていたかな?」

「大丈夫、私には、元気に泣いているように見えたけど。ただ、たしかに、壊れそうなくらい小さかったのは事実。NICUを出る時、チョッと他の保育器の中を覗いたけど、もっと小さくて細い赤ちゃんも入っていたから、大丈夫だと思うよ」

「そう、まあ、明日には会わせてくれるって言ったのだから、大変なことじゃないんでしょうね。それで、父さんの方には連絡は?」

「しておいたよ。シナリオ通り、急に産気づいて、早産で1800gの女の子を無事産んだ。でも、お父さん達が、赤ちゃんに会えるのは、病院の許可が下りてからなので、直ぐに来ても、赤ちゃんには会えないかも。ただし、姉さんは元気ですって」

「きっと、今日中に母さんきそうだね」

「うん、余程のことがない限り、来るね。でも、個室だから、興奮しても、周りには迷惑は掛からないから、ふふふ」有紀が、その情景を思い描いて、小さく笑い声を上げた。

「そうだね、個室にしておいて良かった。でも、きっと、この部屋高いんでしょう、お金の方は大丈夫なの?って、速攻で聞いてきそう、ふふふ」

二人は、母親の噂話をしながら、小さく笑いあった。

「話は違うけど、思った以上に安産だったって言われていたけど、ご本人の感想は?」

「そうね、あらゆる事前の処置が良かったのだろうし、私の子宮の押し出す力が強かったようだからね、出てくるのも7掛けくらいの大きさでしょう。櫻井先生の説だと、筋肉体質も好影響だったのでは、そう言っていたけどね。いずれにしても、心して身構えた割には、出たのかな?って感じだったよ」

「そうなんだ。なんだか、そんなに楽なら、私も一人くらい産んでみたくなるな」

「誰と子供作るつもりなの?」

「まずは、その誰かを探すところからだよね」

「あら、有紀は、私に、もう結婚しちゃ駄目だって、言っていたでしょう?」

「そうだよ、結婚も浮気も駄目だって思っているよ、今でもね。私は、姉さんだけで、十分満足なんだから……」有紀の唇が迫った。

久しぶりに、有紀の貪るような舌の絡みに、いくぶん性的になったが、乳房に手がかかったところで、現実に目覚めた。

「そうだ、乳しぼりしなきゃ」

「えっ!乳しぼり?」有紀も現実に引き戻されて、私のオッパイを絞り出す指先を、身動きもせずに見つめていた。
つづく

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終着駅409


第409章

小さくノックされて入ってきたのは、先ほどの看護師ではなく、櫻井先生だった。

「竹村さん、頑張りましたね。幸運が重なったのでしょうけど、無理かもなと思っていた分娩、成し遂げましたよね。貴女の意志力と筋力が、かなり貢献した結果ですよ」

「筋力とかも、関係するものなのですか?」

「特別、筋力について、産科の教本では触れていませんが、僕は、全体の筋力の力は重視します。勿論、だからと言って、妊娠した女性に、筋力を鍛えろ等とは言いませんよ。妊娠するまでに鍛えられていたかいたかどうかですから……」

「高校時代は陸上部で、走高跳の選手だったんですよ。すっかり忘れていたけど、あの頃の努力が役に立ったのかしら?」

「そうだったのですか。そのお陰でしょうね、柔軟な筋肉が、分娩時にはかなりの威力を発揮したのかなって推測できますね。最終的陣痛が来てから、1時間ちょっとで出産しているのですから」

「学会で報告できるかしら?」

「いや、それは無理でしょう。何と言っても、こういう無謀なケースは、おいそれとありませんからね、一例だけで、理論づけるのは、いくら強引な僕でも流石に無理ですよ。ただ、僕の予想通り、8カ月胎児時点での、出産の効用に関する、貴重な事例にはなります。そう云う意味では、ご協力に感謝しています」

「いえ、こちらこそ、無理難題をお願いした立場ですから。でも、私も、覚悟した産みの苦しみ、意外にあっさりしていたので、幾分、拍子抜けだったのは事実です」

「助産師も慌てたようですよ。あんなにあっさりと、胎児の頭部が出てきた時にはね。子宮も、抽出力が強かったようですし、支える周辺の筋肉も充分だった、出てくる赤ちゃんの動きが、陣痛時の子宮の動きと、上手いこと調子を合わせていた、そういう事が重なる安産だったのでしょうね」

「それにしても、やはり生まれる子供が小さいってことは、相当出産時には意味があるわけですね?」

「その辺が、僕の狙いですけどね。現時点では、未熟児と云う観点では、マイナスの問題点ばかりが多い状況ですからね。現時点では多勢に無勢ですから、もう少しデータを重ねて行かないと、まだまだですよ」

櫻井先生は自重しながらも、自説が、面白いように実践されたことに満足しているようだった。櫻井先生は、童顔な顔に似合わず、相当野心的医者なんだとも思った。

「そうそう、言い忘れていましたけど、赤ちゃんは保育器の中で、順調にしていますからご安心ください。まあ、外見的には、色んなチューブに繋がれているので、痛々しく見えますよ。でも、状況を見ながら、一つずつ解放していきますから、明日にでも、面会できるように手配しておきますから」

「あまり、痛々しい姿、目撃したくない気にもなるんですけど……」

「いや、やはり、一日一回は顔を出して、声をかけるようにしてください。スキンシップの一環ですし、現状では、それがベストなやりかたですからね。そうそう、初乳は取りに来ましたか?」

「いえ、これからです。あのう、この哺乳瓶に入っている程度しか、出なかったのですけど……」私は、櫻井先生に、哺乳瓶の底の僅かな溜まりを示した。

「あぁ大丈夫ですよ。よく頑張りましたね。出産後すぐの段階で確認した時点では、もう少し先かと思っていましたから、充分ですよ」

櫻井先生は、NICUの方に直に持って行きます、と言って急ぎ足で病室を後にした。

櫻井先生と、あれだけのやり取りをしていたというのに、有紀は、補助ベッドで、寝返りも打たずに熟睡を続けていた。

先ほどの看護師が急ぎ足で入ってきた。

「お乳、出ましたか?」

「あっ、いま先生がいらして、NICUの方に直接持って行くからっておっしゃって……」

「ああ、そうでしたか。チョッと急患の方に行っていたものですから。先生が持ったいかれたのですから、きっと、充分な量があったのかもしれませんね」

「どうなんでしょう。哺乳瓶の底の方に、ちょっとだけ溜まった感じでしたけど……」

「初日は、それでも十分ですよ。明日は、もう少し出るようになる筈ですからね。それから、明日と云うか、今夜でも良いのですけど、初乳を保存する袋をお持ちしますから、こちらの冷凍室の方に、日時を書いて保存してください。それを、出来るだけ赤ちゃんに注入するようにしますから」

「注入ですか?」

「そうです。現状は、胃にチューブが直接入っていますので、そのチューブを通して確実に届けられますから……」、看護師は、こともなげに胃のチューブの話をし、保存用母乳の容器を取りに行くのか、足早に部屋を出ていった。

……胃にチューブを入れているのか……。私は呟いた。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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