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終着駅408


第408章

2時間ほど寝たようだ。

時計の針は、午前6時を指していた。少し離れた位置に置かれた補助ベッドの上で、有紀が規則正しい寝息を立てていた。

ベットサイドの水差しから、口を潤す程度水を含み、静かに喉に流し込んでみた。水を飲む機能は正常なようだった。

軽いノックの音と同時に、看護師が入ってきた。

「竹村さん、お目覚めですか?」

「まだ、ぼんやりしていますけど……」

「先生が、出来たら初乳を取ってみてくれと言われましたので……」

「出るかしら?僅かに滲むことはありましたけど……」

「そう、だったら、横になっていて貰えますか。チョッとオマジナイのマッサージしてみましょう。たぶん、チョッとは出ると思いますから……」

看護師の指が乳房全体をマッサージを始めた。

相当に心地の良いマッサージだった。初乳を出すためのマッサージであるにもかかわらず、どこか性的な臭いがあった。

たしかなことは言えないが、ビアンな行為に親しんだ身体が、条件反射のように反応しているのだろうと、その早朝の行為に身を委ねた。

「さあ、ここからが肝心ですから、よく見ておいてくださいね」看護師の声に、桃源郷は途切れた。

「だいたいですけど、乳輪の外側から乳首に向かって、親指と人差し指で、軽く摘まんで絞り出すようにします。こうです」そう言って、看護師は、先ほどの愛のマッサージとは打って変わって、治療の一環のような指使いで、乳首を絞った。

私も、その看護師の切り替わった指の動きに連動して、いま、自分は何をしようとしているのか、気がついた。

「先ほど、分娩台でも、少し絞ってみたんですけどね、殆ど出なかったんですけどね、なんか、今度は出そうな予感……」

私は看護師の指の動きをしっかり確認していた。

しかし、以前、妊婦が自分の乳首から、母乳を噴出させている動画を見たことがあるが、あんな風に、噴き出るとは想像もつかなかった。

「さあ、ご自分でやってみて貰えますか。痛くなるようなら、無理は禁物ですからね」看護師は、そう言うと、哺乳瓶を左手で握るように促し、右手を乳首に誘導した。

10回ほど試みていると、液体が滲み出てきた。哺乳瓶に流れ込むほどの量ではないかったが、僅かに液が出てきた。

「これ、オッパイですか?」私は、馬鹿女のような質問を口にしていた。

「そう、初乳って、必ずしも母乳って感じじゃない事が多いの。白濁と云うよりも、幾分黄色い体液の感じよね。でも、こうやって絞る癖をつけておけば、明日辺りには、もう少し母乳っぽい感じになる筈ですから。三十分くらいした戻りますので、続けておいてください」

看護師が去った。

私は、興味深く、自分の乳首を絞り続けた。左の乳首が幾分麻痺した感じになったので、右の乳首に同じことを試みた。

左に比べ、右の乳首を絞る場合、幾分腕が窮屈だったが、絞って行くうちに、右の乳首から搾り出てくる液体の方が量が多かった。

哺乳瓶に光を当てて透かして見ると、底の方に僅かに液体が溜まっていた。先ほどまでは、瓶の側壁を濡らすだけだった量に変化が出ていた。

それでも、量は小さじ一杯に過ぎなかった。これで初乳と言えるのかどうかも判らなかったが、窮屈な腕の形に疲れた私は、先ほどの看護師が戻って来ないかと、ドアの方に目を送り、哺乳瓶テーブルに戻した。
つづく

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終着駅407


第407章

「いいですか、一、二、三で、いきんでください」声が聞こえた。

“イチ、ニッ、サン!”

私は、股間全開で握り手を死ぬほど強く握っていた。

「いいですよ。体中のものを全部絞り出す感じで!」

私は必死だった。声を出す気にはならなかった。ただ、股間が裂けてしまいそうに拡がった感じがした。

ここまで来たら、中途半端は許されない。

完全に胎児を出してしまわなければ、胎児の首を絞めてしまうという恐怖があった。子供を産むつもりで、赤ちゃんの首を絞めるなんて、そんな愚かな選択はなかった。

「保育器の準備!」誰かが大きな声を出した。

「もうチョッと。もう一回、目一杯、いきんで!」

“イチ、ニッ、サン!”

誰が言っているのか判然としなかった。ただ、言葉は通じていた。

その次の瞬間に、何かが、股間を裂きながら捩じり出てくる感触があった。

「無事産まれましたよ!」また、誰かの声が聞こえていた。

赤ちゃんは生きているのだろうか、私は、次の言葉を待った。

しばしの静寂があった。赤ちゃんの身体を叩いている音だろうか、パシッと云う音がした。

そして、ひと間開けて、泣き声が聞こえてきた。

私の目の前に突きだされた赤子は、酷く弱々しかった。よく、泣き声など出せたものだと思うほど、小さくて細かった。

しかし、目撃出来たのは瞬間的で、赤子は保育器の中に速攻で移されたようだ。

本などに書いてあったほどの爽快感はなかった。カンガルーケアーなどと云う流暢なスキンケアなど出来る状況ではなかった。

それよりも、赤ちゃんが出たのに、軽い陣痛のようなものが下腹部を締めつけた。

そうだった、胎盤を排出する仕事が残っていた。

「赤ちゃんは大丈夫ですからね。このまま、もう30分くらい我慢してくださいね、胎盤を排出させていますからね」助産師は、すべて予定通りと云う落ち着いたトーンで、耳元で囁いた。

ただ無為に、分娩台の上で不様な姿を晒しているのだが、一仕事終えた充実感はなかった。出産の陣痛に比べれば、僅かな陣痛模様の痛みがあったが、たしか30分も掛からず、子宮の収縮作用で胎盤が押し出された。

その後のことは、あまり記憶がなかった。後で確認したことだが、胎盤が出たあと、1時間半ほど分娩台に乗ったままだったらしいが、かなりしっかり寝ていたらしい。

気がついたのは、ストレッチャーに移動させられる為に、担がれた時だった。

病室に戻ると、有紀がいた。

「姉さん、おめでとう!凄いね、本当に予定通りに産むなんてさ。驚くほど安産だったらしいよ。小さく産んで大きく育てるの典型だよ。そうそう、見てきたよ、保育器の中の赤ちゃん」

「ちゃんと生きてた?」

「寝ているみたいだったけど、多分大丈夫なんじゃないの、見せてくれたくらいだから」有紀は心もとない情報を伝えたが、2000gに満たない赤ちゃんが、元気そうに見えたと嘘をつかれるよりも良かった。

「家の方にメール入れておいてくれた?」

「父さんにメールしておいたよ。予定通り早産だったので、保育器に入っているから、ご対面できるかどうか判らないけど、母子ともに、一応は良い状態ですって」

「ありがとう。後は会社の方だけど、明日、起きたらメールすれば良いよね」

「それでいいよ。真夜中にメール来たって、どうせ読む人もいないんだから」

「有紀、また、眠くなってきたんだけど、寝てもイイかな?」

「良いよ、安心して寝てなよ。いま、看護師さんが補助ベッド用意してくれる言ってたからね、私も、今夜は、ここに泊まるから」

「そうなんだ、凄く安心、有紀、ありがとう……」

ようやく、そんな言葉を朦朧とした意識の中で話しながら、私は深い眠りに就いていた。
つづく

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終着駅406


第406章 

助産師がひとあたり、子宮頚マッサージを終わらせると、遅めの夕食が配膳されてきた。

私の予定に合わせて、時間調整したのかどうか分らなかったが、温かな夕餉には魅力があった。特に美味しい食事ではなかったが、いやに食欲があるので、すべて平らげて、もう少し食べたいくらいの感覚があった。

櫻井先生が、食事中に入ってこないと良いなと思っていたが、食事が終わってしまうと、早く来て、状況を説明して欲しいと、身勝手な気持でテレビをつけた。

櫻井先生が独特のノックの間で、息せき切って部屋に入ってきた。

「先ほど、妹さんに連絡しておきましたが、今夜から明日の早朝の可能性がありますよってお話しておきましたから」

私は、私も連絡しましたとは言わずに、礼を述べた。

「これから、もう一回分娩促進剤を点滴する予定ですけど、陣痛が来るのを待ってからにしようと思っています。
すでにナースの方には話してありますが、かなり強めの陣痛が来たら、ブザーを押してください。
ベテランの助産師も待機していますから、痛みが出たら、直ぐ押してください。非常に快調に推移していますから、何の心配もありませんよ。
結構痛いかもしれませんけど、産まれてしまえば、嘘みたいにスッキリしますから」

櫻井先生は、何度も出産を経験したような話しぶりだったのが、幾分可笑しかったが、彼がご機嫌な態度を取ってくれることで、心配や不安が先行する余白はなかった。

「それから、ご実家とかへの連絡はしていませんが、それで良いのでしたよね」

「ハイ、ありがとうございます。妹は遅くなっても駆けつけてくれるはずですから」

「そうそう、12時近くなるので、守衛室の方にも看護師が連絡を入れましたので、夜中にでも入れるように手配しておきましたから」

「あの、陣痛が少ない場合は、どうなるんでしょう」

「経験則から行けば、一、二時間以内に、軽い陣痛が来るはずです。はじめの内は、間の空いた鈍痛ですけど、次第に痛みは鋭敏になります。
ただ、陣痛の痛みは個人差が大きいので、あまりハッキリしたことは言えないんですよ。
ただ、破水した後の竹村さんの状況から考える限り、陣痛は軽いかもしれません。胎児の大きさも関係してくるので、きっと軽くて済むというのが、僕の見立てです」

櫻井先生が去ってから、一時間ほどすると、お腹が痛くなってきた。これが陣痛なのか、お腹を壊したのか区別は容易ではなかった。

私は、少し慌て過ぎかと思ったが、ブザーを押した。今すぐに行きますと応答があった。

一番、子宮頚のマッサージが上手なベテランの助産師が、看護婦と一緒に入ってきた。

「痛みの間隔は、どのくらいですか?」

「良くは判らないのですけど、1時間おきくらいかしら。ただ、痛みが強くなってきていますけど……」

「いまも痛みますか?」

「いえ、今は何でもないですけど……」

助産師は、慣れた手つきで、通い馴れた私のバギナに、触診を試みた。

「かなり、拡がってきているわね。案外早く産まれるかも……」そんなことを呟きながら、看護師に、先生を呼ぶように指示していた。

看護師と助産師の順位付けは判らなかったが、私を担当する二人の立場は、相当明確に位置づけされていた。

櫻井先生が入ってきた時、再び強い陣痛が来た。目で挨拶をする積りだったが、その余裕はなかった。

「凄く痛いんですけど、なんかトイレにも行きたい感じですけど……」

私は、自分でも良く判っていない、色んな言葉を口から吐き出していた。

櫻井先生が看護師に、何かカタカナの薬剤の名前を伝えていた。助産師は、私が陣痛が来たと告げるたびに、肛門の辺りを強く抑え、器用に腰をさすってくれた。

「もうチョッとの辛抱だから、頑張って!」

薬を取りに行っていた看護師が戻ってくると、錠剤を櫻井先生に渡した。

「竹村さん、これが最後の促進作用がある薬剤です。これを飲むと、陣痛の間が狭まってきますからね。
そうなったら、タイミングを見計らって、分娩室の方にストレッチャーで運びますからね。
もう少しだけ、“いきむ”のは我慢してください。
“いきむ”ときは、目一杯に、いきんで貰いますからね。おおよそ、二時間後くらいには、赤ちゃん誕生です、頑張りましょう」

櫻井先生は、自然な流れで、私の手を強く握っていた。私も、離したくない気持ちを込めて、握り返した。
つづく

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終着駅405


第405章

静かな入院生活がはじまった。分娩促進剤の点滴をしている間は動けないが、それ以外は、散歩も自由だし、買い食いも自由なのだから、のんびりとした時間が流れていた。そんな時間が二日続いた。

そして、その時は突然訪れた。

有紀を櫻井先生に紹介している最中に、村井先生が入ってきたのだが、その時の有紀の表情を思い出して、私は一人ベッドで思い出し笑いをしている時だった。

唐突に、ベッドの中が湿っぽくなった。失禁と云う経験はないが、明らかに水っぽいものが、股間から流れた。

“破水だろうか?”私は気恥ずかしさが僅かにあったが、これは異変に違いないと、咄嗟にブザーを押した。

「どうしましたか、竹村さん」あいかわらず、明瞭な声が流れてきた。

「あの、破水かもしれません」

“わかりました”と云う声だけで、インタホーンは切れた。

ストレッチャーを押して、数人の看護婦が駆けつけた。

「これから、処置室に行きますからね。ベッドは、それまでに整えておきますから、これを羽織って濡れたものを脱いでいただけますか」そう言い残して、三人は一旦退室した。

“やはり破水なんだ”私は、陣痛がはじまるサインと聞いていた、破水をいま、経験しているのだと、自分に言い聞かせながら、手早くパジャマと下着を丸めて、洗濯袋に突っ込んだ。

薄いガウンのような手術着のようなものに、着替えることは着替えたが、ショーツを穿かずに、ストレッチャーに乗る勇気はなかった。

きっと、出産時には、そんな恥じらいなど忘れてしまうのだろうが、破水レベルで、ノーパン状態は憚られた。

きっと、こういうケースに馴れているのか、用意が整ったのを見ていたかのように、三人は再び入室してきた。

「ストレッチャーに、ご自分で乗れますか」

私は軽く頷いて、自ら、ストレッチャーの乗客になった。そこから、どこに連れていかれるのか判らなかったが、視界だけは遠ざけておきたかったので、硬く目を閉じ、ストレッチャーにすべてを委ねていた。

「想像以上に、破水が早く来ましたね」目を開けると、懐かしい櫻井先生の顔があった。

「促進剤も順調に効いていますからね。早ければ半日後、遅くとも数日以内には、出産の可能性が出てきましたよ」櫻井先生は、そう言いながら、産道である私のバギナの中に二本の指を差し入れて、子宮頚の状態を確認していた。

「良い感じに柔らかくなっている。余程、お腹の赤ちゃんは世に出るのを急いでいる感じですよ。お母さんの意識が伝わっているという神話でも作りたいくらい、想像以上にいい感じになっている」

櫻井先生は、饒舌だった。他の患者の触診中にも、こういう風に口走るのだろうかと訝ったが、敢えて聞く勇気はなかった。

再びストレッチャーに乗せられて、私は病室に戻った。櫻井先生は、一時間後くらいに病室に顔を出します、と言うと、再び診察の方に消えていった。

ベッドは綺麗に整え直されていた。破水が何度も起きるようなら、有紀に頼んで、もう二、三枚パジャマを持って来て貰おうかと携帯を鳴らした。

携帯を鳴らしながら思い出したが、予備のパジャマの下に、かなりの現金を隠している事を思い出した。

有紀になら、見つかっても構わないと思う反面、やはり、隠していた事実は、愉快ではないだろうと、新しいパジャマを買って来て欲しいと頼むことにした。

『あぁ有紀、私。あのさ、さっき、破水しちゃったんだよ』

『えっ、破水したの。だったら、今夜から陣痛だよね』

『そうだったかしら?その辺の流れ、記憶してないんだけど』

『困ったママだね。早ければ、今夜とか明日とかに産まれてしまうのかもよ』

『そんなに早く?まだ、陣痛らしい感じはないけどね』

『それが、突然に来るらしいよ。大袈裟な人は、飛びあがるくらい痛いとか言っているけどね』

「脅さないでよ、それでなくてもナーバスなんだから」

『しかし、困ったな、稽古が終わるのが、十一時近くなっちゃうんだよね。でも、今夜とか、明日の出産だとすると、夜中でも、入れるよね』

『多分、問題ないと思うけど、確認しておくよ。それに、産まれそうになったら、櫻井先生の方から、有紀に連絡入れて貰う話になっていたよね』

『そうだったよね。なにせ、あの時は、村井先生ショックで、私の頭は、半分飛んでいたから……』

『それにしても、村井先生って、圭に似すぎだったでしょう』

『うん、初めは、嬉しい気持ちがあったけど、段々、気味が悪くなったかな。瓜二つってあるんだって思ってね』

『駄目だよ、私の主治医をたぶらかしたりしちゃ』

『大丈夫だよ。もう二度と、圭のような男は、どれほどセックスが善くても、もう勘弁だよ、ふふふ』

『また、連絡するから、取りあえず新しいパジャマ二枚と、ショーツも2,3枚買っておいてよ』

そうして、有紀との連絡が一段落した辺りから、じわじわと鈍痛が腹部に押し寄せた。

櫻井先生がいた。看護婦が私の腰を強めに押していた。気が遠くなるほどの痛みなら、ありがたいが、記憶が薄れるほどの痛みではないので、もろに痛みを受入れるしかなかった。

しばらくすると、痛みが嘘のように消えた。痛みが消えているのだから、ほっておいて欲しいのに、助産師が、子宮頚を指で揉み解そうとするので、その不快感が嫌になったが、やめろとも言うわけには行かなかった。
つづく

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終着駅404


第404章

さっさと基礎検診を終わらせておこうと、ブザーを押した。

「竹村さん、どうなさいましたか?」明瞭な女の声が応えてきた。

「血圧とかの検査をお願いできますか」

「わかりました。10分以内にお伺いします」また、明確な答えが返ってきた。

「ロボットみたいに正確な反応だね。これって、特別室だからかな?」

「さあ、どうなんだろう。一般病棟のこと知らないけど、同じなんじゃないの?」

「多分、特別室の所為だよ」と一言残して、有紀は黒縁の眼鏡をかけて、地下のコンビにまで行って来ると言って、病室を出た。

有紀が出て行ってまもなく、今度は酷く若い看護師が入って来て、血圧やら、脈拍などを確認した上で、何か体調で気になることはありませんかと、聞いてきた。

「特別、変ったことはありません。夕方、先生の診察があると聞いたのですけど、普通は何時くらいになるのかしら」

「そうですね、16時から17時くらいの間だと思います。急患が入ると、それよりも遅くなりますけど……。あの、一つ個別の質問しても良いですか?」若い看護婦は、頬を染めて、小さな声で尋ねた。

「良いわよ」

「あの、付き添いで来られたのは妹さんですか?」

「そうだけど」

「と云うことは、竹村さんは、滝沢ゆきさんのお姉さんって事ですか。あぁ、これはお答えにならなくても良い事なので、無視して貰っても良いのですけど……」

「大丈夫よ。そうなの、妹は滝沢ゆきなの、でも出来るだけ、拡げないでおいて貰えると助かるんだけど……」

「やっぱり、そうでしたか。何人かの人が、噂していたものですから、つい好奇心で、スミマセン」若い看護婦は、検査一式のワゴンを押して出ていった。

入れ替わりのタイミングで、有紀が地下のコンビにから、即席のカップ麺を買ってきた。

「あぁそうだ。お湯を沸かさないと」

有紀は、てきぱきと家事をこなす女の役を演じているようだった。

「やろうと思ったら、女優ってなんでも出来ちゃうんだね」

「えっ?なんか言った?」

「いやね、意外に有紀って、家事をしている姿が絵になるなって思ってさ」

「まさか、インスタントの即席めん作れるからって、家事が出来る女まで想像するのは、飛躍でしょう」

「いや、そこまで連想させる機敏な動きが見えるのよ。女優が板につくと、そんな風になれるのかなって思っただけ」

「こんなところに来て、急に気づくなんて、ちょっと変だよ」

「そうかな?こういう特殊な空間だから、感じるのかも」

「人間って、そう云う意味では不思議だよね。
姉さんが病気になった、そう聞かされた瞬間から、姉さんとの距離が、より接近した感じはあるんだよね。
何時でもいる筈の姉さんが、遠くに行きかけてしまうのを止めるのは私だ。そんな奇妙な責務の意識が強くなったからね。
殆ど、完治するに違いない病気だと言われても、やはり、白血病と云う言葉には、不治の病のような印象が人間の中にあるからね。言葉の潜在的力っていうのかな、言葉は大切だなって、つくづく感じていたんだよね」

「そういう心理が働くんだね。たまには、病気になるのも悪くはないってことか……」

「そういう訳じゃないけどね。
病気にならない方が良いだろうけど、病気が仲介する人間関係ってのも、それなりにあるなって気づいたよ。
そして、竹村さんと結婚した、その時の姉さんの気持ちが、少しだけ理解出来たような気がしてね。
だからかもしれないけど、いまお腹にいる子は、ただ単なる姪に過ぎないとは思えなくなっているんだね。これは、凄く不思議な感覚だよ」

有紀と私は、そんなシリアスな会話をしながら、即席めんを、音を立てて食べていた。
つづく

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終着駅403


第403章

翌日、私は有紀を伴って入院の手続きを済ませた。今度の病室は7階だったが、作りは検査入院した時の部屋よりも一段と豪華だった。

「この部屋、病室だなんて、思えないよね。まるでホテルのスイートルームじゃないの」

「そうだよね。私のような人間が入院すべき部屋じゃないけど、普通の個室に空きがないようだから、当分仕方ないんだけどね」

「差額ベッド代が高そうだね」

「前回の部屋は一日3万円だったけど、ここは幾らかな。もう、どうでも良くなっているけどさ」

「良いじゃないの、金の延べ棒も見つけたことだし、散在しちゃいなよ。
それに、抗がん剤治療って、白血病の場合、無菌室かなんかに移るんでしょう。だったら、長くてここに居るのは1か月くらい。〆て百万くらいなんだから、散在しなよ。罰なんて当たらないからさ。私が、責任もって換金しておくから」

ノックと同時に、看護婦が入ってきた。

「夕方に先生が診察に来られますけど、一応、落ち着かれたら、血圧とか体温とか、基礎検診をしておきますので、こちらのブザーを押してください。それから、本日は夕食から普通食が配膳されますけど、その間、お腹が空くようでしたら、地下の食堂も利用可能になっていますし、コンビニも入っていますから、ご自由にご利用ください」

そういう告げると、母さんと同年に見える看護婦は、キュッキュと足音を立てて、部屋を出ていった。

「結局、あの看護婦、何の為に入ってきたのかしら?」有紀が怪訝な顔をした。

「だね、さっさと基礎検診していけば良いのに……。そうだ、敵情視察に来たのかも?」

「えっ!姉さんが敵になるわけ?」

「違うのよ、あの看護婦さん、有紀の方をかなり見ていたのよ」

「そうだったかな?」

「そうだったよ。多分だけど、“滝沢ゆき”に気づいた病院関係者がいるんじゃないの。それで、本物かどうか確認に来たのかも」

「そんなに有名じゃないよ。テレビとかも、いまは殆ど出ていないし」

「たまたま覚えている人たちだったんじゃないの」

「そうかな?なんか面倒なことにでもなると思う?」

「それはないと思うよ。一応、院長のお声掛かりの患者になっちゃったようだから、妹が“滝沢ゆき”だって分ったからって、損な事情じゃないからね。妹かどうかだって、彼女らには判んない筈だし……」

「お声がかりって、姉さん、この病院の院長を知っていたわけ」

「いや違うの。たしかめてはいないけど、どうも、うちの社長が、院長と知り合いだったみたいね。それ以外に、私の病気や妊娠の情報持っている人物は少ないから……」

「そういうことか、だったらあり得るよね。でも、あれだよね、優遇して貰えれば、治せない病気でも治してしまうわけじゃないから、それ程治療の決め手になる話じゃないかもね」

「そうだよね。精々、親切に扱って貰える程度で、治療には関係なさそうだけどね。年寄りって、なんか一声かけておけば、一層治療が上手くいくくらいのイメージがあるんじゃないのかしら」

「そんな程度だよね。でもあれか、邪険な扱いをされない保証があるのも、悪くはないのかも」

「そういう事じゃないのかな。社長が、声をかけていたと、私に伝えてきたわけじゃないから、お礼を言う必要もないだろうしね。
黙って、もうここまで来たら、成り行きに任せるだけだよ。私の想像では、出産が上手くいけば、一旦は退院できると思うのよ。
ただ、その間に、金子弁護士の関係なんかで、動いて貰わなければならない事が起きた時には、有紀に白紙委任で任せるからって、金子さんに、後で電話しておくよ」

「そんなこと出来るの?」

「さあ、法的には無理だろうけど、弁護士との信頼関係に依るんじゃない。多分、金子さんが何とかしてくれるはずだから……」
つづく

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終着駅402


第402章

「しかし、本当に姉さんのアソコから赤ちゃん出てこられるのかしら?」

有紀は、まじまじと私のお腹を眺めながら、そんな疑問を口にした。

そし、次の小籠包を箸の先で弄びながら、器用に口も動かしていた。

「大丈夫だろうと言うのが、櫻井先生の意見だったけどね。彼の考えでは、想像以上に筋力があるし、子宮頚も短くなってきているし、柔軟性もあるようだから、促進剤の効き目次第だけど、一週間以内には産めるだろうと予想しているみたい」

「話にしか聞かないけど、スイカをアソコから出すくらい痛いって話でしょう。耐えられるのかな?」

「大丈夫でしょう。だって、沢山の人が子供を産んで、殆どの人が死んいでるわけじゃないからね。痛い人は、凄く痛いようだけど、それ程苦痛はなかったって人も結構いるからね。体質にもよるんじゃないの。それに、櫻井先生が言うには、胎児の大きさが未熟児状態だから、3000グラムの出産よりは、物理的に楽なはずだって」

「あぁそうか、普通が3000くらいだとして、姉さんの場は、どの位の胎児が産まれるわけ?」

「1800前後だからね。子宮に押し出す力さえあれば、物理的には楽なはずだから……」

「つまり、産まれる痛みの問題より、押し出される状況によりけり、そこが問題なわけってことか」

「多分、そう云う意味だと思うよ。まあ、その出産の後に、恐怖の抗がん剤治療が待っているからね、その怖さを思えば、前哨戦の出産への怖さは、自動的に和らいでいるのかもしれないけど……」

「そうね、そっちの方が大変だろうからね。それを思うと、姉さんって、凄い決心したもんだよね。白血病だけで、気が狂いそうなのに、あえて、出産、それも自然分娩を選択するんだから、精神構造が普通と違うのかも?」

「どうして、ああいう選択になったのか、今になると、自分でも、よくは判らないのよ。
ただ、色んなことを試されている感じがしたのね。多くのことが順調だった女に、天が下した試練だとしてさ。
無神論者の私としては、混乱なく、無事通過してやるぞってね。
何だろう、運命に正面から向き合うしかない、そんな感情がムカムカしていたんだと思うんだよね」

「今は、そのムカムカな気持が少なくなったとか?」

「敢えて分析すればだけど、今聞かれても、多分、返事は同じになるだろうな。
まあ、最悪、胎児に危険が及ぶ状況になったら、帝王切開に切り替えるからって言われているので、その辺は、狡いけど、安心している面もあるね。そこまで、自然分娩にこだわるのも、根拠薄弱だし・・・・・・」

「そんなに凄いこだわりが、あるわけじゃないのか。だったら、初めから痛い思いしない帝王切開を選んでも良いのに……」

「いまさら、そう言うことも出来ないし、初めからギブアップするのも嫌だからね。やっぱり、相応の痛みは甘受するのが、母の自慢話に釘を刺せるしね」

「まさか~!まさか,姉さん本当にそこまで考えたの?」

「いま、気がついただけだよ」私は悪戯っぽく笑った。有紀もつられて笑い、それぞれに唯我独尊の母親を思い出していた。

「そう言えば、アンタ何だか、お宝がどうしたとか言っていたけど、あれって、どう云う意味なの」

「あぁ、その話、しようと思っていたんだっけ」

有紀は立ち上がって、ベッドルームに向かった。そして、ごそごそ音を立てていたが、小さな紙袋と重量感のある包みを持って戻ってきた。

テーブル中に拡げられた食べ物をどかせた部分に、有紀はおごそかな手つきで、そのお宝を並べ始めた。

金の延べ板らしきものが、5枚並べられた。そして、その半分くらいの延べ板が全部で10枚並べられた。

「これって、本物なの?」私はおバカな質問をしていた。

「本物だよ。チャンと三菱の刻印打たれているし。凄いでしょう、ご褒美貰わないとね」

「ホントだ。本物みたいだね。これって三菱マテリアルの本物だね。まあ、竹村の家に、偽物が有る意味はないだろうけど……」

「そう、本日の相場で、だいたい6キロだからね、ザックリ見積もって2千6百万円くらいのお宝よ」

「2千6百万円、解体しちゃうところだったね……。でも、これって何処で見つけたの?」

「例のバックとか、服とかコートを全部出して、めぼしいものの整理が終わった後で、コーラ飲みながら一服していたんだけど、膨大な数の靴箱が重なった一番下の方に、なぜか気になる箱が目に入ったのよ」

「金色に光っていたの?」

「馬鹿ね、そんなわけないでしょう。でも、重なっている靴箱よりも、何だかオーラが出ている箱だったんだよね。まあ、ただ何となく、そう感じただけで、私が欲たかりだった所為もあるんだろうね、折角だからお宝をゲットしたいって気持ちが、感じさせてくれたのかも」

「そういう事ってあるんだね。世にも不思議な物語だよね」

「そう、欲たかりの割には、これ見っけて、本物と確認できた時は、腰が抜けたようで、しばらく動けなかったよ。佳代子さんって、もしかすると、庭にも何か埋めているんじゃないか、そんな気分で、ここまで辿りついたんだから」

「そういう気になるのも判る気がするね。有紀がもっと調べたいのなら、もう暫く、あいだを開けてから解体でも構わないけどね」

「そうね、でも多分、これが最後じゃないのかな。それに、解体する場合、基礎の土台部分のコンクリを除く程度でしょう。庭に埋めたのなら、後からだって探す権利は、姉さんにあるわけだし」

結局、これで宝探しは終わりにしたが、金の延べ板は、有紀が適当に換金して、手に残った現金を折半してしまうことで、話がついた。それ以外にも、金目の宝石類が見つかっていたが、それは、有紀の収穫と云うことで、有紀の本日の手間賃と云うことにした。

そんな棚ボタにであった所為か、明日の入院には、有紀が付き添いを買って出てくれた。

正直、独りで入院して、独りで出産し、治療を受けている間に死んだら、幾分淋しいなと思っていただけに、心強い一言だった。
つづく

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終着駅401


第401章

マンションに着いて、自分の部屋を見上げると、明かりが確認できた。吉祥寺の作業の方が順調に片付いたようだった。

部屋に入ると、有紀がご機嫌な顔で迎えてくれた。

既に、ワインをちびちび飲みだしていた。テーブルに、どこで仕込んだものか、かなり豪華なオードブルが並べられていた。

「お帰りなさい。どうだった、診察の方は?」

「うん、ハッキリは判らないけど、子宮の状態が良いようだから、明日から治療っていうか、分娩促進の施術に入りましょうって」

「えっ!もう入院するの?」

「そう、明日から入院になっちゃったよ」

「そうかぁ、そうなるのは判っていたけど、何だか慌ただしいね」

「そうなんだよね。なんだか、あまり上手く頭が回っていないので、この流れに乗ってしまって良いのかどうか、考えている暇がなくてさ」

「良いんじゃないの、その流れに乗ってしまえば。はじめから、充分に吟味しておいた事だから、今さら考えることがないってだけだと思うけど」

「そうだね、あまりにも、自分の予定通りに物事が進んじゃうから、何だか気持ち悪くなってきちゃって……」

「わかる、わかる、そう云うことってあるよね。でもね、姉さんの考えが、現状を打開する最良の方法選んでいたから、病院の方も、その決意に合わせて動いている内に、ことが上手く運び出したのよ。ついていないようだけど、実はついているのよ。こう云うのも、きっと運だと思う」

「そうね、そう思うしかないかな。ただ、今まで、自分の考えだけで生きてきたからね、運に身を任せるのが怖いのかもね」

「私なんか、年中、運任せな生活してたからさ、馴れているけど、大丈夫だよ。案外、人間って概ね運が良いものだからさ。それよりも、ワインとか飲んでも大丈夫かな?」

「さあ、どうなんだろう。特に何も注意されていないからね、少しなら大丈夫だと思う。それに、飲みたい気分だしね」

「じゃあグラス出すから、姉さん、お風呂に入ってきたら」

「あぁそうか、手も洗ってないし、何だかぼんやりしてたよ」

「シッカリ、手と顔も洗いなよ。シャキッとなって飲めば、幾分落ち着くから……」

「そうだ、有紀の方はどうだった?」

「順調に終わったよ。少し、ご機嫌なくらいの収穫まであったから、後で、ゆっくり説明するよ」

「そう、順調なら良かった。じゃあ、後は解体しちゃって良いってことね」

「そうね、欲をかけば、もう一日くらい家探しすれば、なにかお宝が出てきそうな気もするんだけどね、時間的にきついかもね」

有紀が、思わせぶりな言い方をしたが、聞き返すことは後回しにして、バスルームに向かった。

「あのさ、中華って注文しちゃって良いかしら」

有紀がバスルームの扉越しに声をかけてきた。

「あのオードブル食べて、まだ食べられるかな?」

「あれね、見た目よりも、美味しいもの少ないのよ。多分半分は、食べたくない代物だよ。あそこの中華の方が断然美味しいから」

特別、注文しておきたいものは、と聞かれたので、思わず酢豚と答えた。

答えた後で、私は、私は本当に酢豚が食べたいのかどうか、自分に確認してみたが、特別に食べたいわけではなかった気がしたが、明日からのことを考えなければと、頭を切り替えようと試みた。

しかし、お湯のぬくもりが、優しく包み込むものだから、考える前に、何度かウトウトしてしまった。

数回、そんなことを繰り返すうちに、私の頭はリフレッシュされていた。目の前の霧がすっかり消えて、明日からの、スケジュール表が、エクセルのグラフのように表示された。
つづく

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終着駅400


第400章

櫻井先生の指が、私の子宮口(子宮頚管)の柔軟性を触診していた。当然だが、櫻井先生の顔は見えない。

「痛みますか?」

「いえ、特には。幾分、重苦しい感じはありますけど……」

「不思議ですね。貴女の願いが通じるのかな、想像以上に子宮口が柔軟になっていますね。子宮頚の長さも、かなり短くなっています。数週間後には、生まれてもおかしくない子宮の状況です。無論、一過性の現象と云う事もありますけどね……」

櫻井先生は、想像以上に色んな話をしながら、私のバギナの奥を、指先でぐりぐりと揉むように指を動かしていた。

私は、その鈍痛の中から、幾ばくかの快感を憶えた。

あり得ないことなのだろうが、多分、その感触は、鈍痛と同じ比率で訪れる快感だった。

産婦人科医に触診されながら、快感を得ることなどあり得ないだろうが、その感触は、何度も頭で否定したが、、快感に属すものだった。

診察が終わり、私は、身支度を整えて、櫻井先生が顔を出すのを待つていた。リクライニングの患者用の椅子は、驚くほど快適だった。今にも、男に抱かれた後の満足な吐息を吐きながら、眠りにつけるような長閑な時間が流れていた。

圭の笑顔があった。竹村の指先と、社長の指先が、何故か交互に、私のバギナの奥を愛撫していた。それを笑顔で見ていた圭が、突然、竹村と社長を押しのけて、怒張を差し入れてきた。

私は、一瞬のまどろみの中で、とんでもなく卑猥な夢を見ていた。

どういうことなのか、自分で戸惑い、その夢はなんだったのか、考える気力もなく、次の眠りの波が押し寄せてきた。

人の気配で、私は目覚めた。一瞬なのだろうが、私は、いま、この椅子の中で、二度も寝ていた。

そして、初めの眠りの中で、三人の男にいたぶられていた。そして、それが、酷く心地よかった。

「明日から、はじめましょう」櫻井の声を聞き逃した。

「いや、もう少し後から、と思っていましたが、今日の診察の状況から判断すると、促進剤の効果が期待できます。
おそらく、切迫早産の傾向があったようですから、その流れから来ているのでしょうが、今回に限り、それは良い傾向だったと思うんですね。
現在の子宮の状況なら、自然分娩の可能性も大いにあります。絶対的ではありませんけど、チャレンジする価値はあります」櫻井先生が続けて話した。

「明日ですね。入院出来るんでしょうか?」

「いま、部屋の確認をしましたが、また特別室ですが、空いています。数日後には、普通の個室が空くので押さえておきました。さっき、村井先生の方にも、話は通してあります」

「はい、わかりました。明日は何時くらいに入院したらいいのでしょう?」

「いつでも大丈夫です。現時点で既に空室ですから、受付の方に診察券を出して貰えれば、入院の手続きから、病室に案内まで、案内出来るように手配しておきます」

ドタバタとした感じで、明日の入院が決定していた。

何か、色んなことをし忘れているようだったが、もう、何をするのも面倒だった。

この流れに、ただただ乗っていたい、私は思考を停止させて、運命と云う流れに身を任せてしまいたい気持ちになっていた。

それでいいのだと思った。

運が良ければ、すべてが順調に推移するだろうし、運が悪い時は、それも運命だと受け入れる気になっていた。

一生の中で、自覚的に、運命に自分を委ねるのは初めてだなと思いながら、長い病院の白い廊下を歩いていた。
つづく

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終着駅399


 新年 あけましておめでとうございます
 今年もよろしくお願いいたします。
 2016.01.01   鮎川かりん

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第399章

まったく可能性がゼロではない問題だが、可能性が少ない状況なので、話は意外に軽い感じで、口から流れた。

「遺産の方は、“竹村ゆき”に残ることになるんだけど、その管理は金子さんに任せるとして、その遺産を動かす決定者は、子供が成人するまでは、有紀になるから。そして、養育に見合う手数料のようなものも、有紀に渡るように金子さんに話してあるから……」

「そこまで考えたの?」

「そう、暇を持余していたからね。現実には、子供の面倒は、当面、田沢君のお母さんのような人に任せられるだろうけど、ある時期からは、有紀にも、かなり迷惑が掛かると思うんだよね……」

「大丈夫だよ。何とかなるよ。父さん達に触らせないわけでもないから、手分けして、何とかなるもんでしょう」

「そうね。死んだ後は、どうなっても、実際は判らないんだから、死人が口出すことじゃないしね。ただ、私が、一番信頼している人間は、有紀だってこと」

「わかりました、お引き受けします。でも、多分、そんなことにはならないよ。到底、姉さんが死ぬとは思えないもの」

「私も、まさか死ぬとは思っていないけどさ、白血病って聞かされた瞬間から、じわじわと、自分の死って意識せざるを得なくなったのは、事実だよ。現実は、色んな事故に遭遇することだってあるんだけど、それは事前情報がないから、手の打ちようがないけど、事前情報を突きつけられると、やはり、考えちゃうよ」

「参考までに聞いておくけど、姉さんは、子供の教育とか、将来とかに、何か夢でも持っているの?」

「特別に考えたことないよ。多分、私たちだって、親たちの考えている子供たちには育たなかったろうしね……」

「そうかな、姉さんなんか、数年前までは、あの人たちの理想通りの娘だったんじゃないの?」

「どうかな、あんまり勉強されたくもなかったようだし、キャリアウーマンになって欲しいとも思っていなかった感じだったよ。平凡に、さっさと結婚して、お母さんになって欲しい。少なくとも、母さんは、そうだったから、失敗作でしょうね」

「だったら、圭が一番うまく育った、そう云うことになるのかな?」

「だと思う。でも、途中であんなことになっちゃったから、今では、思い出したくもない、アクシデントなんだろうね」

「考えてみると、うちの両親って、面と向かって嘆かないけど、かなり不幸な人たちになっちゃうのかな?」

「どうなんだろう。父さんも母さんも、あんまり子供になにかを期待する、そういう親じゃなかったからね。母さんは、一般論を口癖のように口には出していたけど、本気度は怪しかったから……」

「それにしても、圭の自殺ってさ、今でも、私、納得出来ていないんだよね。時々、夢に、アイツ出てくるんだよ。いつもニコニコな健康優良児みたいな顔つきでね」

「まさか、間違いなく死んではいるんだけど、私たちとの関係が複雑に絡んでいた感じは残っているけど……」

「それもある。でも、自己反省の形が、あそこまで極端に振れる必要もなかった筈なのに、どこか腑に落ちないんだよね」

「そうね、私たちが知っている範囲だけなら、腑に落ちないけど、他にも知らない事実が重なっていたような気もするしね。それで、収拾がつかなくなった、そう思うことにしているの……」

「そうか、腑に落ちない部分は、その未知の秘密がまだまだあることで、穴埋めしてしまうんだ」

「その方が、リアリティがあって良いでしょう。じゃないと、哲学的自殺、そんなのは太宰治だけで良いよ。普通の人間じゃ、ついていけなくなるからね」

「たしかに、劇には出来るけど、舞台はかなり厄介だし、観客を納得させる手法に苦労しそうだよね。私たちが知らない、幾つかの事実を書き加えないと、筋道が出来ないものね……」

「あっ、有紀、そろそろアンタ出かけないと間に合わないよ」私は、圭が取りつけてくれた壁の時計に目を走らせた。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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