第418章有紀から、今夜も病室に泊まるから、手配よろしくというメールが入った。
私は、忙しい場合は、無理しなくて大丈夫だからと折り返しメールを入れたが、“大丈夫、最近、姉さんの近くにいないと落ち着かないからさ。多分、姉さん依存症になったみたいW”と云うメールが戻ってきた。
以心伝心と云う言葉があるが、まさに、頼り合い助け合う姉妹が存在するのだけれど、その姉妹がレズビアンであることが、美しい姉妹愛に、どのような評価の変化を与えるものか、判断に迷った。
こんな風に、依存しあって生きている、か弱き人間が、果たして、今後の加重責任を背負っていく能力があるのか、真剣に向き合う時が来たことを、いやが上にも感じるのだが、まだまだ、リアリティを伴った悩みにまでは到達していなかった。
第三者的には、どう見ても幸運だらけの姉妹のように映るのだろうが、他人様が見ているほど、我々姉妹が、平穏な生活をエンジョイしているわけではなかった。売れっ子劇団の座長であり、女優でもある滝沢ゆきが、生活者として幸せかと問われた時、幸福感に満たされて等いなかったし、遺産相続で大金持ちになったキャリアウーマンの私も、病魔を目前に、幸福感にどころの話ではなかった。
三週間近い、猶予期間は、私にとって、人生初のモラトリアムな時空を与えていた。
今後、私に加重される仕事や責任の多さは、すべてが未経験なのだから、どの程度大変なものかは、想像するしかない。
ただ、その一つ一つを、すべて自分でこなし切ると云う考えは、この際、捨てるべきだと思った。私より、その一つ一つの分野に、経験豊かで助けてくれる人がいるなら、素直に、その人の能力を借りれば良いことだった。
一番、頭の中で重しになっている、子供の保育、育児の多くの部分を、他人に任せることは多々あるわけで、私の24時間が、その作業と責任に割かれると云うものではなかった。
竹村家の資産と云う問題も、妥当な方法で管理する限り、それが、増えようが減ろうが、私の責任と云うよりも、世の中の経済事情に影響されるに過ぎなかった。
こうやって、加重されてゆく、私の責務と云うものは、その責任遂行の行為を、すべて自分で行おうと云う力みから、雁字搦めになっているのかもしれなかった。
その分野の、能力の有る人々の力を有効に使うマネージメント能力がある限り、過失と非難されるほど、重大なミスを犯す可能性は少ないことに気づいた。
他人に依存していかなければ、一定以上の物事を、独りで抱え込むことは不可能なのだ。人に依存すると云う事は、人を信頼することでもあり、そのギブ・エンド・テークの行いが重なり、共同体などが生まれたに違いない。
私は、相当に我田引水な割り切りだと感じながらも、加重な何役もの人を演じる以上、それは、避けて通れない、便法と云うか、法則なのではないかと考えだしていた。
そうなんだ、ひょんな経緯から、弟である圭と云う人間と関わってからと云うもの、私は、運命のエアポケットに吸い上げられたような空間を漂っている。
一つとして、自らの欲望で、その立ち位置や、試練やメリットを経験しているわけではなかった。
このような状況が、運命に翻弄されている状態なのだろう。
ただ、翻弄と云うと、如何にも試練の連続の中で錐もみ状態を想像するが、試練と僥倖のどちらが多いのかと言えば、幸運な出来事の方が多いんじゃないの、私は、もの思いに耽りながら、最終的に、アグレッシブな自分をとり戻しつつあった。
つづく
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