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終着駅406


第406章 

助産師がひとあたり、子宮頚マッサージを終わらせると、遅めの夕食が配膳されてきた。

私の予定に合わせて、時間調整したのかどうか分らなかったが、温かな夕餉には魅力があった。特に美味しい食事ではなかったが、いやに食欲があるので、すべて平らげて、もう少し食べたいくらいの感覚があった。

櫻井先生が、食事中に入ってこないと良いなと思っていたが、食事が終わってしまうと、早く来て、状況を説明して欲しいと、身勝手な気持でテレビをつけた。

櫻井先生が独特のノックの間で、息せき切って部屋に入ってきた。

「先ほど、妹さんに連絡しておきましたが、今夜から明日の早朝の可能性がありますよってお話しておきましたから」

私は、私も連絡しましたとは言わずに、礼を述べた。

「これから、もう一回分娩促進剤を点滴する予定ですけど、陣痛が来るのを待ってからにしようと思っています。
すでにナースの方には話してありますが、かなり強めの陣痛が来たら、ブザーを押してください。
ベテランの助産師も待機していますから、痛みが出たら、直ぐ押してください。非常に快調に推移していますから、何の心配もありませんよ。
結構痛いかもしれませんけど、産まれてしまえば、嘘みたいにスッキリしますから」

櫻井先生は、何度も出産を経験したような話しぶりだったのが、幾分可笑しかったが、彼がご機嫌な態度を取ってくれることで、心配や不安が先行する余白はなかった。

「それから、ご実家とかへの連絡はしていませんが、それで良いのでしたよね」

「ハイ、ありがとうございます。妹は遅くなっても駆けつけてくれるはずですから」

「そうそう、12時近くなるので、守衛室の方にも看護師が連絡を入れましたので、夜中にでも入れるように手配しておきましたから」

「あの、陣痛が少ない場合は、どうなるんでしょう」

「経験則から行けば、一、二時間以内に、軽い陣痛が来るはずです。はじめの内は、間の空いた鈍痛ですけど、次第に痛みは鋭敏になります。
ただ、陣痛の痛みは個人差が大きいので、あまりハッキリしたことは言えないんですよ。
ただ、破水した後の竹村さんの状況から考える限り、陣痛は軽いかもしれません。胎児の大きさも関係してくるので、きっと軽くて済むというのが、僕の見立てです」

櫻井先生が去ってから、一時間ほどすると、お腹が痛くなってきた。これが陣痛なのか、お腹を壊したのか区別は容易ではなかった。

私は、少し慌て過ぎかと思ったが、ブザーを押した。今すぐに行きますと応答があった。

一番、子宮頚のマッサージが上手なベテランの助産師が、看護婦と一緒に入ってきた。

「痛みの間隔は、どのくらいですか?」

「良くは判らないのですけど、1時間おきくらいかしら。ただ、痛みが強くなってきていますけど……」

「いまも痛みますか?」

「いえ、今は何でもないですけど……」

助産師は、慣れた手つきで、通い馴れた私のバギナに、触診を試みた。

「かなり、拡がってきているわね。案外早く産まれるかも……」そんなことを呟きながら、看護師に、先生を呼ぶように指示していた。

看護師と助産師の順位付けは判らなかったが、私を担当する二人の立場は、相当明確に位置づけされていた。

櫻井先生が入ってきた時、再び強い陣痛が来た。目で挨拶をする積りだったが、その余裕はなかった。

「凄く痛いんですけど、なんかトイレにも行きたい感じですけど……」

私は、自分でも良く判っていない、色んな言葉を口から吐き出していた。

櫻井先生が看護師に、何かカタカナの薬剤の名前を伝えていた。助産師は、私が陣痛が来たと告げるたびに、肛門の辺りを強く抑え、器用に腰をさすってくれた。

「もうチョッとの辛抱だから、頑張って!」

薬を取りに行っていた看護師が戻ってくると、錠剤を櫻井先生に渡した。

「竹村さん、これが最後の促進作用がある薬剤です。これを飲むと、陣痛の間が狭まってきますからね。
そうなったら、タイミングを見計らって、分娩室の方にストレッチャーで運びますからね。
もう少しだけ、“いきむ”のは我慢してください。
“いきむ”ときは、目一杯に、いきんで貰いますからね。おおよそ、二時間後くらいには、赤ちゃん誕生です、頑張りましょう」

櫻井先生は、自然な流れで、私の手を強く握っていた。私も、離したくない気持ちを込めて、握り返した。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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