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あぶない女 24


第24章

「縮んでいても、勃起係数の仮説を立てれば、だいたいの大きさは分かるわよ」

シャネル女は、何の前触れもなく、湯の中で漂う俺のペニスを摘まんだ。

「デカくなっちゃうよ」俺は、腰を引いた。

「大丈夫、たしかめるだけで、それ以上は前に進まないから」

「それだから、デカくなると、俺には不都合だよ」俺は、珍しく素直になった。

「男の人って、大きくなると、何かに入れたくなるもののようね」

「何でも良いから、入れたくなる訳ではないね。木の洞にまで入れたくはないよ」

「なら、どう云うものに入れたくなるわけ?」

「やはり、生身の洞に入れたくなるだろうね」

「正直でいいわ。貴方って、誰に対しても、こんなふうに素直に話すの?」

「そうだね。嘘をつくのは、後々面倒だから・・・・・・」

「ほら、言った通りの形状になって来てるわ」

たしかに、俺のペニスは、物理的な刺激に抗うつもりはなさそうだった。

しかし、シャネル女の洞に入れたいと云う欲望は湧かなかった。

爆弾女と別れたばかりと云う、警戒心が残っている面もあったが、このまま、女の洞を所望する浅ましさは、望むべき姿ではなかった。

物事が、単純に展開し過ぎる。

シャネル女の意図が判らなかった。

到底、男に不自由している風情は感じない。突如、性欲が沸き上がったとも思えない。

金に不自由している感じも、当然のようにないのだから、金が目的ではない。

まさか、女が俺に一目ぼれしたなどと、思える根拠はゼロなのだ。

どんな理由でも構わないが、初対面の未知の男と女が、身体を重ねるには、なんらかの根拠が欲しかった。

その根拠は、金のためであろうと、何かを探ろうとしているのだろうと、性欲を満たそうと思い立ったからにしても、根拠の前触れくらいは欲しかった。

シャネル女から、その根拠を探る何ものも見いだせないのだから、今日この場で、身体を重ねることは、ありえなかった。

「益々、洞に入れたいと、オ×ンチンが、自己主張しているけど、どうなさるの」

女の指使いは敬服に値した。

俺のペニスは完全に勃起していた。痛いほどに屹立したペニスを股間に抱えて、その気はないと言うのは、不正直にも思えた。

しかし、体と心が異なる時もある。それが、今だった。

つづく

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あぶない女 23


第23章

シャネル女は、ほどよく足が伸びる湯船の中で、俺を待ち受けていた。

どこも隠す気はなく、みごとな胸の膨らみと、くびれたウェスト、そして、漂う陰毛を見せつけた。

脚の長さが日本人離れしていたが、ハーフの顔立ちではなかった。

檜の香は、むせるくらい浴室に漂っていた。

シャネル女は、俺の視線を気にすることもなく、目を閉じ、瞑想する女になっていた。

“失礼”軽く呟いて、俺も視線を外し、シャワーを浴びた。

4時間で1万円の宿は、派手な外観のラブホテルより、数段上品で、上質感が味わえた。

「充分、ふたり入れるから、どうぞ」女は声をかけ、一人分のスペースを空けた。

本当に入って良いのだろうか、俺は瞬間的に迷ったが、動きをとめなかった。

「大丈夫よ、襲ったりしないから、ふふふ」シャネル女の腹は、俺の何倍も据わっているようだった。

「男は、損だよ。身体の変化がバレルからね」

俺は、そう言いながら、女の身体に触れないように、互い違いに、空いたスペースに身を沈めた。

下半身の存在を意識することが、かえってペニスへの血流を良くする作用があることを知っていた俺は、浴槽のお湯を掬い、顔を洗った。

「汚いわよ、こう云う処のお湯は」

女は、年上の女のような口ぶりで、忠告してきた。

たしかに、清潔と云う意味では、みだらな行為に明け暮れるホテルや宿の浴槽に、どのようなバイ菌やウィルスが潜んでいるか、判ったものではなかった。

しかし、今は、その心配以上に、心配する出来事を回避するためには、シャネルの女体から、意識を遠ざける緊急避難な行動だった。

無論、そのことを、シャネル女に説明する気はなかった。

「湯船に浸かると瞑想したくなるわよね」

「貴女は、目を閉じていたよね」

「今は開けているわよ。そして、目を閉じている貴方を見ているわよ」

「俺が目を閉じているのは、貴女の裸を見ないためだよ。瞑想なんて、とんでもない」

「あら、だったら見てよ。後姿に誘われて、ついてきちゃったんでしょう?」

「たしかに、その通りだけど、布に包まれていた時の、貴女のイメージを大切にしておきたいからね」

俺は、シャネル女の挑発に乗らなかった。

「大きなオ×ンチンの持ち主なのね」

「えっ!縮んでいる筈だけど……」

俺は、女の言葉を訝った。股間の一物は絶対に大きくはなっていない筈だった。

つづく

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あぶない女 22


第22章

「静かなバトルだったね」俺は、エアコンの効いた部屋の片隅にある、籐椅子に腰を下ろした。

「チョッと面白かったでしょう、女の鍔迫り合い」

「そう、でも、男の取り合いではなかったけどね」

「宿の主人と客の、席次争いみたいなものよね」

「流石だと関心したよ。”何年、客商売やっていると思ってんのよ、馬鹿におしでないよ”と啖呵を切った女親分のようだった」

「もう、揶揄い過ぎよ、嫌な人」女が軽く肩を打つ真似をした。

俺は、軽くいなして、逆に女の腕を取った。

女は、その勢いに任せて、倒れかかり、俺を籐椅子ごと押し倒すと、唇を重ねてきた。

どこまで進んで良いのか判らなかった。

いや、下僕である俺には、そういう意思決定の選択権はない。あくまで、選択権は、シャネル女のものだった。

権利がないということは、義務もないわけだから、経験してみると、思った以上に気楽だった。

丁度、サラリーマンが、相当に理不尽で法規範無視の労働を強いられても、一定の範囲で黙々と従う心境が理解できた。

下僕である俺は、女の状況に合わせさえすれば良い。

激しく、唇を貪るのであれば、俺も貪る。

女が、スカートを脱いだら、俺もジーンズを脱ぐ。女が苛立ちながら、ブラジャーを外すなら、俺も、シャツをかなぐり捨てれば良いだけだ。

しかし、女は、舌を挿しいれてくるようなキスをする気はないようだった。

ご主人にその気がないのに、下僕が、舌を挿しいれるのは僭越だった。

女は、押し倒していた俺の上から、あっさりと離れ、スーツの皺に手をやりながら、立ち上がると、何ごともなかったように、衣装入れになっているらしい、タンスの扉に手を掛けた。

「わたし、汗流してくるけど、ビール、お先にどうぞ」

女は、俺の返事を聞くことなく、浴衣風の上っ張りを肩に掛けると、背中を向けたまま、器用にスーツを脱ぎ去った。

シャネル女に、性的な欲求があるとは思えなかった。

あのキスにも、たいして深い意味はなく、ただの気まぐれ、そんな気がした。

迂闊に、女がその気になってると思い込み、こちらが行動したら、“なに勘違いしているの?”と強烈なパンチを見舞われるところだった。

いずれにしても、汗を流して、浴衣に着替える自由は確保されているのは確かだった。

そして、ビールを飲む自由も与えられた。特に、不平はなかった。

ただ、路上パーキングした車を数時間後には取りに行かなければならないのだから、小瓶一本くらいに控える必要はあった。

浴室の方から、声が聞こえてきた。

バスタオルでも取ってくれ、と言うのだろうと思ったが、そうではなかった。

「檜の匂いが最高よ、貴方もお入りになったら」女の声は屈託なかった。

つづく

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あぶない女 21


第21章

「まだ、お時間おありなの?」

女は、何かを思い出したように、尋ねてきた。

「大丈夫ですよ、お茶でも飲もうか」

「そうね、それよりも、寝そべって、ビールを飲んで、お喋りしたい気分なの、つき合ってくださる?」

女は、その状況がどのようなものか、まったく寸借なく口にした。

俺は、女が望んでいる状況が、どのようなものか理解するのに、数秒の“間”を必要とした。

「貴女も時間があるなら、俺の方は大丈夫ですよ」俺は、ようやく答えた。

なぜか、“僕”から、“俺”に一人称が変わっていた。

女の話し方から、性的なニオイは一切感じなかった。

俺は、それで良いと思った。

トンデモナイ爆弾女から、逃げ出してきたばかりなのだから、寝転ぶだけで充分だった。

「裏の方に行けば、ホテルがある筈だから……」女は躊躇うことなく歩を進めた。

女に主導権を握られているようだったが、このいっときが、女の唯一の自由だと思うと、下男や下僕の役を演じるのも、お洒落だった。

女は、幾つかのラブホテルを通過した。目当てのホテルがあるような歩き方だったが、余計なことを言わずに従った。

「ここが良いわ」女は歩みを止めた。

“旅荘市松”、小洒落た割烹のような小さな看板の前で立ちどまった。

その割烹風旅館は、入り口から玄関までの飛び石は“筏打ち”と云う特殊な敷石で目を愉しませた。

そして、丁寧に打ち水がされていた。

どこか“一見さんお断り”という言葉が浮かんだが、女は意に介せず、ずんずんと玄関に歩を進めた。

カラカラと台車の音が響く、市松模様のガラス引き戸を開けた。明治時代に時間が戻ったような気分だった。

「いらっしゃいませ」七十代後半と思われるうりざね顔の女が、応対に出てきた。

視線の強い女性だった。

「初めてですけど、宜しいかしら?」女も、“一見さんお断り”を想定していたらしく、丁重な物言いをした。

「えぇ大丈夫です。4時間単位で、前金一万円になっておりますけど、お宜しいかしら」

女は、客よりも物理的に上段から目線で、格上な雰囲気の話し方をした。

俺は幾分ムッとしたが、シャネルの女は意に介さずに、バーキンのバッグからおもむろに、朱色の財布を出し、一万円札と千円を女に渡した。

「一万円ですけど」

上から目線のうりざね女が、一枚の千円札の扱いに迷った。

「えぇ、わたくしの気持ち。おタバコ代ですけど、お受け取りになって」

シャネル女のささやかな反撃だったが、考えてみれば、彼女も客商売をやっているのだから、このような駆け引きは、手慣れているのかもしれなかった。

うりざね女は、口の中で“恐れいります”呟き、スリッパを出した。そして、二階の部屋に粛々という態度で、案内した。

つづく

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あぶない女 20


第20章

俺は、女の誘いに乗って、初めてのコリアン街の散策を愉しんでいた。

女の下男を演じて、買い求めた品々が乱雑に入ったビニール袋をぶら下げ、三歩後ろに従っていた。

女は、大量に買い求めた肉や野菜は、今日中に届けてよと、店員に言いつけていた。かなりの馴染客のようだった。

その購入行動から、家庭の食料品の買い出しは思いつかなかった。女が、食物屋の買い物をしているのは明らかだった。

「終わったわ。買物助手がいると、こんなに楽だとは思いもしなかったわ」

「いや、僕も初めて、この街の空気が味わえて、有意義でしたよ」

「まあ、有意義だなんて、大袈裟よ。でも、貴方は、あまりにも多くの買物をする女だと、怪しんでいるんじゃないの?」

女は、俺がぶら下げているビニール袋を半分奪い取ると、揶揄っているにしては、色っぽい目で微笑んだ。

「途中から、これは家庭の買い出しではないなと思ったよ。あまりの量だからね」

「分かるわよね。50人住んでいる家族なんているわけないもの」

「そう、精々5,6人で多い方だろうからね」

「今日買ったのは、二日分のお店の食材。なに屋さんか、察しもつくでしょう?」

「貴女からは想像しにくいけど、買ったものを見ている限り、焼肉屋さんだけどね」

「そう、私は、焼肉屋の女将さん」

「へぇ、それはお見逸れしたな。貴女と焼肉屋さんを結びつけてイメージ出来る奴はいないだろう」

「家と云うか、お店から離れた時だけが、私の時間なのね。だから、日常と違う自分を味わえる、唯一の時間なの……」

「お店は、お一人で切り盛りしているの?」

「いえ、家族総出よ。もっとも、最後まで仕事をしているのは、私だけだけどね」

「途中から、家族は抜け出してしまう。そう云うこと?」

「それなら、清々するけど、店で酔い潰れてしまうの、ふふふ、ホント酷い父と兄なの」

「店の酒を飲んじゃう、そういうこと?」

「お酒は、お店のものだけど、お代はお客様持ちだから、正確には、お客様のお酒かしら……」

「面白いね。じゃあ、お父さんとお兄さんは、ホストみたいなものだ」

「ホスト?とてもそんな風には見えないわね。街のチーマーと、そのなれの果ての祖父さん、そんな感じにしか見えないけど……」

女は、店で酔い潰れる父親と兄の姿を、目に浮かべているように遠くを見つめた。

つづく

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あぶない女 19


第19章

そのタバコは、奇妙な味がした。酷く甘ったるいバナナの匂いがした。フルーティとも言えるが、どこか外人さんのニオイだった。

「タバコの香のしない煙草だね」俺は、礼儀だと我慢して、数回吸いこんでもみ消した。

「たしかに、貴方には似合わないタバコね。でも、マルボロが似合う筈なのに、どうしてキャビンなわけ?」

「その通りだね。一年前までは、仰るマルボロ派だったから、指摘は正しいよ」

「それを、なぜ止めたのかしら?」

「どうしてだったかな・・・・・・」俺は、女に指摘されて、一年前のことを思い出そうとしていた。

女は、忍耐強く、俺の記憶が戻るのを、バニラの香りをふりまきながら、待ち続けた。

「たしか気管支炎になった。ニコチンが強いからと云うわけではなく、ブレンドした香の成分が、合わないと思ったのかな・・・・・・」

「繊細なのね」女は、特別嫌味なニアンスを含まずに確認するように、口にした。

「繊細かどうか別にして、喉に合わなかったのは事実だね」

「でも、それまでも、マルボロだったんでしょう?」

「メーカーからの公表した情報にはなかったけど、おそらく、成分の割合とかを変えたんじゃないかな」

「メーカーが勝手に、そう云うことするかしら?」

「陰謀論的だけど、メーカーは、空とぼけて、結構変えているよ。都市伝説だけど、アメリカのタバコメーカーが、依存症になる成分を混ぜこんでいた話は有名だからね」

「そんな、それって犯罪じゃないの?」

「まあ、微妙だよね。そもそも、ニコチンが依存症のある物質だから、プラス依存症の物質を加えるか、増量したからと云って、イコール犯罪とは言いにくいのかもね」

「ふ~ん、そういう理屈になっちゃうわけね。それって、屁理屈みたいよね」

「そうだけど、案外、ディベートなんて、そういう感じだからね。アメリカなんて、国中が、こぞって、その屁理屈で世界を牛耳っているわけだから・・・・・・」

「そうなの。ちょっと判りにくくなったけど、貴方がアメリカ嫌いということかしら?」

「好きじゃないね」

「上手いこと胡麻化したわね」女は酷く楽しそうに笑った。
つづく

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あぶない女 18


第18章

「随分、お疲れのようですわね」女は、揶揄ように、声をかけてきた。

偶然に過ぎないのだが、シャネル・スーツの女が、肩越しに火を提供したことに、ひとま開けて気づいた。

あの時同様、シトラスの香りが鼻腔をくすぐった。

「あぁ、どうもありがとうございます」俺は、女の揶揄には反応せず、ありきたりの礼を丁重に返した。

「そちらの席に、移っても構わないかしら?」女は、俺の返事など、どうでもいいといわんばかりに、自分のテーブルに出ていた紅茶のカップを手早く移動した。

そして、俺の正面に落ち着くと、脚を組んだ。

ひざ丈のタイトなスカートから、誘うように肉感的太腿が半分ほど露出して、俺に挑戦状を突きつけているようだった。

俺は、絶対に、女の下半身に視線を向かわせないように、強く自分に言い聞かせたが、自信があるわけではなかった。

「新宿から、ご一緒でしたわね」女は、断定的に話した。

たしかに、俺は、女の小気味好い尻の動きに誘われて、山の手線の外回りに乗ったのは事実だった。

しかし、そのあと、同じ車両の、ひとつ間を置いたつり革に、透き通るような指先をあて、接近したのは女の方だった。

しかし、その後の経緯から行くと、偶然に過ぎないが、俺が女を追って、ルノアールに入ったと云う結果論が残った。

「すみません。あまりのプロポーションに見惚れて、誘い込まれてしまいました」

俺は、悪戯を見つかった子供のように、意識的に、素直に自白した。

その方が、好意的流れの展開が期待できた。

そして、この俺の意図を察した女が、同じような目的であれば、話に乗っても良いわよと、調子を合わせてくれるかが勝負どころだった。

「あら、随分素直にお認めになるのね?」女は、満足そうに、ティーカップに口をつけた。

「そう。つまらない意地は張らないことにしています」

俺にしては、相当に皮肉な口元をつくって、答えたつもりだった。

「意地や見栄を張らない男って、ときに、意地汚くも見えますけど」

女の方も、かなりの皮肉を籠めた言葉で応じてきた。

「いや、本当のことを言っただけで、特別、いま、貴女に意地を張る必要はないのかな、と思いましたからね」

「あら、だったら、意地とか見栄を張りたくなるような関係になれば、貴方の態度が変わるってことかしら」

そこまで話して、女は初めて煙草のパッケージをバックから出した。

渋いブルーのバックは、おそらくバーキンだった。きっと、200万前後するのだろうが、持ち慣れた雰囲気があった。

「変ったタバコですね?」

俺は、女の手から、パッケージを取り上げて、名前を確認した。

BEVELという銘柄の煙草だったが、見たことも聞いたこともない。

「これは、ベヴェルと読むのかな?」俺は、丁重にパッケージを女の手に戻した。

「外国たばこのようだけど、JTの製品なのよ。一本、お吸いになります」

女は、グレーっぽい細身のパッケージを、バッグに戻さずに、差し出した。
つづく

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あぶない女 17


第17章

ホームに降りた人々は、足早に目的地に向かって、歩きだしていた。

俺には、目的地がないのだから、急ぐ必要はなかった。

しかし、だからといって、いつまでも、ホームに佇んでいるわけにもいかなかった。

そぞろ歩きの旅でも愉しむつもりで、階段に向かって一歩目を踏みだした。

山の手線では珍しくなったが、ホームは一面2線の高架駅だ。エスカレーターなどと云う洒落たものはなく、昔ながらの階段があるだけだった。

昔から、駅前にコリアン・タウンが拡がっている街と云うことは判っていたが、駅舎に関しては山の手線駅としては冷遇されている印象があった。

しかし、“三丁目の夕日”モドキの駅舎と思えば、ノスタルジックな趣もあった。

疲れたわけではないが、階段を一歩一歩昇りながら、先ほどの爆弾女敦美のことはすっかり忘れて、シャネル・スーツに包まれた女の女体に、妄想を膨らましていた。

あの女は、どこの駅まで行くのだろうか。

外回りに乗っていたと云うことは、下町が続くわけだから、そのどれかの駅に降りるのだろう。場合によると、京浜東北線や常磐線と云うことも考えられた。

しかし、あの服装で、遠くまで帰る雰囲気は感じなかった。

やはり、池袋と見当をつけるのが妥当な気がした。

場合によると、その前の目白と云うこともあるなど、愚にもつかないことを考えていた。

階段の中ごろまで昇った時、俺の耳は、ヒールの音を背中に捉えた。

……どこにいたのだ?……

幻聴ではない背中に貼りついたヒールの音を、確実に受けとめた。

ホームに、女が隠れるような死角があったとは思えない。

走り去る電車の窓に目を凝らしている間に、その女は陽炎のように、降りていたのだ。

爆弾女と別れたばかりの俺は、爆弾女が変身して、追いかけて来ているような、錯覚に陥った。

女のヒールの音は、いまにも、後ろから襲いかかるような迫力で接近した。

俺は、まさに襲われる瞬間と思われる間合いで、歩みの道筋を中央から、左側に移した。

こうなると、女は、俺の右側を通過しなければならない筈だった。

一瞬、ヒールの音に戸惑いの間があった気がしたが、女は何事もなかったように、俺を追い越して行った。

俺の四肢は、一気に弛緩した。そして、思いもしない汗が、背中を走った。

余程の緊張が五体を強張らせていたのだと、半ば呆れながら改札を出た。

理屈抜きに、アイスコーヒーが飲みたかった。そして、カウンター席で良いから、煙草を吸いたかった。

喫煙者に親和性の強い喫茶店なら“ルノアール”だった。

主だった山の手線の駅前には、その“ルノアール”があるはずだった。

キヨスクで煙草を買い求め、お姉さんに“ルノアール”の場所を聞いた。

大久保通りを、新宿方面に歩くと、風月堂の次のビルに入っていると云うことだった。

急ぎ足で、ルノアールに飛び込んだ。

何も考えずに、アイスコーヒーを注文して、眼鏡をはずして、おしぼりでオヤジらしく、首筋を拭いた。

煙草には、まだ火をつけずに咥えていたが、スッと細い腕が目の前に伸びた。

カルチェの燃えるような漆塗りのライターが小気味よく炎を上げた。

何ごとかが起きていたが、俺は、それを考える前に、その炎の中に、煙草の先を向け、大きく吸い込んだ。
つづく

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あぶない女 16


第16章

人の流れにつき合っているうちに、俺は改札口までたどり着いていた。

次々と新たな人の波が、押し寄せていた。

流れに逆らって出口に戻る気力がなかった。

勢いで一区間の乗車券を買った。

山の手線、代々木に行くか、新大久保に行くか、どっち道、ただ、戻って来るだけなのに、不必要に迷った。

気がつくと、時代がうしろにワープしたようなシャネル・スーツの女の尻に誘われて、山の手線の外回りの階段を昇っていた。

此のままだと、降りる駅は新大久保だった。

考えてみると、新大久保と云うJRの駅に降りた記憶がなかった。

記憶にあるのは、電車の窓から眺めた通過駅に過ぎなかった。

街の印象は、好ましいものは少なかった。

車で通り抜ける時などは、当たり屋に遭遇しないよう気を引き締めるような街でもあった。

コリアン・タウンに特別の印象はないが、新宿歓楽街と地続きだけに、猥雑な雰囲気がある街だった。

コマコマしたラブホテルと、売春婦、男娼の多い街。最近では、在日ヘイトスピーチの被害に遭い、韓国系の店が撤退した後に、イスラム圏の店が増えていると云う話は聞いていた。

一度くらい、新大久保の駅に降りてみるのも、後学の役に立つだろうと、滑り込んできた電車に乗り込んだ。

気がつくと、先ほど見かけたシャネル・スーツの女が、つり革を一つ隔てて、同じ車両に乗っていた。

ヒールを履いているのを差しい引いても、背丈は170センチ前後の長身だった。

俺よりも5センチ程度しか低くない。

横顔を盗み見ただけだが、かなりの美貌の持ち主だった。

女体の方は、先ほど観察したので、申し分ないのは分かっていた。

ヒップに張りがあり、肉厚だった。

ウェストのくびれも、ヒップを際立たせていた。

タイトなスカートに隠れている太腿もはち切れそうだった。

そして、ほどよく脂肪と筋肉がついたふくらはぎは、ギスギスしさを撥ね退け、女の柔らかさをも、表現していた。

いつもなら、平気で“お洒落ですね”などと声を掛ける俺だったが、そういう気分ではなかった。

敦美と云う爆弾女に出食わして、ようやく逃げてきたばかりでは、流石の俺も、疲れていた。

それに、間もなく新大久保に着いてしまうのだから、手も足も出せるわけがなかった。

僅かに電車が傾き、大久保駅のホームに滑り込んだ。

今日は、どんな状況でも、女に縁のない日だ等と大袈裟な気持になりながら、ホームに降り立った。

せめて、そのつり革の女に、笑顔で手でも振ってやろうと、車内に目をやると、女の姿は消えていた。

なんだ、座ってしまったのか。

それらしい影を、窓越しに確認したが、動きだした電車の窓は、確認出来るほどノンビリと走ってはくれなかった。
つづく

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あぶない女 15


第15章

「なら、君が一人で残るんだな、それは勝手だ。電話しておくからさ」

「いやっ!アンタも一緒」敦美は急に落ち着きを失い叫んだ。

「うるせ~!」俺は平手で敦美の頬を一発、思い切り引っぱたいた。

「さあ、着るんだよ。さっさと着ないなら、もう一発」俺が腕を振り上げると、敦美が逃げるようにベッドから飛び降りた。

「さっさと着るんだよ」ノロノロと下着を着ける敦美を怒鳴りつけた。

そうして、俺は漸く、敦美をホテルの外に引き摺りだした。

「今夜はお仕舞だ。俺は電車だけど、君はタクシーか」

「ねえ、ホントに駄目なの、もう一回」

「薬をやめるんだな、本当の君なら抱きたい。でもな、今の君は、本当の君じゃないからな」

「何言ってんの、チャンと私だよ……」

「違うんだよ、兎に角、薬をやめろ。俺が言う言葉はそれだけだ」

「ねえ、悲しいよ……」

敦美が道端でしゃがみ込んだ。

俺は必死で無視した。

これ以上、敦美と云う麻薬中毒者とつき合うことは、危険すぎた。

しゃがみ込んだ敦美の背中は、気の毒なくらい憔悴していた。

見捨てて立ち去る踏ん切りがつかずに、俺は立ち往生していた。

しかし、一時の感情が命取りになることがあることも判っていた。

自分の女房を引き留めておくために、薬漬けにしようとする亭主のいるような女とのつき合いは、危険の抱え過ぎだった。

「じゃあな、やめろよ」

俺は言い放つと、乗ってきたGTRを横目に、新宿駅の南口に足早に向かった。

・・・・・・クソ!何てこった。女を置き去りにして、逃げるようにするなんて、俺じゃないよな・・・・・・。

・・・・・・もう少し優しく宥めるべきだったのかもしれない。しかし、アイツを車に乗せるのは絶対にヤバイのだから、仕方がないじゃないか・・・・・・。

俺はブツブツ心の中で呟いた。

理屈上は、俺の取った行動は妥当だった。ただ、自分らしい選択だったかと言えば、そうではない事が、気持ちの中でわだかまっていた。

いく当てもなく、俺は、人の波の中に身を沈めた。

二度と会うこともない女に、後ろ髪を引かれているのが、腹立たしかったが、今さら振り返るわけにもいかなかった。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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人妻のからだ 』(中編)

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