第16章人の流れにつき合っているうちに、俺は改札口までたどり着いていた。
次々と新たな人の波が、押し寄せていた。
流れに逆らって出口に戻る気力がなかった。
勢いで一区間の乗車券を買った。
山の手線、代々木に行くか、新大久保に行くか、どっち道、ただ、戻って来るだけなのに、不必要に迷った。
気がつくと、時代がうしろにワープしたようなシャネル・スーツの女の尻に誘われて、山の手線の外回りの階段を昇っていた。
此のままだと、降りる駅は新大久保だった。
考えてみると、新大久保と云うJRの駅に降りた記憶がなかった。
記憶にあるのは、電車の窓から眺めた通過駅に過ぎなかった。
街の印象は、好ましいものは少なかった。
車で通り抜ける時などは、当たり屋に遭遇しないよう気を引き締めるような街でもあった。
コリアン・タウンに特別の印象はないが、新宿歓楽街と地続きだけに、猥雑な雰囲気がある街だった。
コマコマしたラブホテルと、売春婦、男娼の多い街。最近では、在日ヘイトスピーチの被害に遭い、韓国系の店が撤退した後に、イスラム圏の店が増えていると云う話は聞いていた。
一度くらい、新大久保の駅に降りてみるのも、後学の役に立つだろうと、滑り込んできた電車に乗り込んだ。
気がつくと、先ほど見かけたシャネル・スーツの女が、つり革を一つ隔てて、同じ車両に乗っていた。
ヒールを履いているのを差しい引いても、背丈は170センチ前後の長身だった。
俺よりも5センチ程度しか低くない。
横顔を盗み見ただけだが、かなりの美貌の持ち主だった。
女体の方は、先ほど観察したので、申し分ないのは分かっていた。
ヒップに張りがあり、肉厚だった。
ウェストのくびれも、ヒップを際立たせていた。
タイトなスカートに隠れている太腿もはち切れそうだった。
そして、ほどよく脂肪と筋肉がついたふくらはぎは、ギスギスしさを撥ね退け、女の柔らかさをも、表現していた。
いつもなら、平気で“お洒落ですね”などと声を掛ける俺だったが、そういう気分ではなかった。
敦美と云う爆弾女に出食わして、ようやく逃げてきたばかりでは、流石の俺も、疲れていた。
それに、間もなく新大久保に着いてしまうのだから、手も足も出せるわけがなかった。
僅かに電車が傾き、大久保駅のホームに滑り込んだ。
今日は、どんな状況でも、女に縁のない日だ等と大袈裟な気持になりながら、ホームに降り立った。
せめて、そのつり革の女に、笑顔で手でも振ってやろうと、車内に目をやると、女の姿は消えていた。
なんだ、座ってしまったのか。
それらしい影を、窓越しに確認したが、動きだした電車の窓は、確認出来るほどノンビリと走ってはくれなかった。
つづく
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