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長編連載 『終着駅』を書き終えて


ーーご挨拶ーー

『終着駅』は予期せぬ長さになってしまい、自分でも呆れています。
約1年半ですから、長すぎて、皆様は飽きたのではないかと心配しております。
今後は、中編や短編を書こうと、心に誓っています。
現時点は、達成感と疲労で、次の作品に取り掛かる準備が整っておりません。
出来れば、一週間以内に、次作品掲載したいな、と思っております。
今後とも、よろしくお願いいたします。

鮎川かりん



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終着駅507(最終回)


第507章

「福田さん、もっとシナリオを読み込んで、自分なりの解釈をシッカリ持ってよ。
そうじゃないと、この状態では、稽古にならない。いや、混乱だけが膨らんじゃうわよ」

 私は、福田君と二人になった時、優しく語りかけた。

「僕も、そう思います。
ですから、ホント、百回近く読み返したんです。
でも、その都度、登場人物の人物像が変わってきてしまって、何が何だか判らなくなっているんです」

福田君は、素直に、その事実を認めた。

「そうなの、困ったわね。
実は、私も、何度か読み返したけれど、自分の役どころのイメージがハッキリしないまま演じているの。
多分、他の人たちも同じだと思う。
一つの問題への答えが、常に、否定と肯定が同時に出てくるでしょう。
きっと、このシナリオには仕掛けがあるのよ。
でも、どこにも、それを解明する手掛かりは書かれていない。そう云うことになるのよ」

「そうですね。多分、そう云う事なのでしょうね。
でも、演じている役者も、演出している僕も、意味不明で上演するなんて、これ、無謀ですよ。
まして、観客の方は、もっと悲惨かもしれない。何からかにまで、狂った舞台って散々な目に遭いそうです……」

「そうだよね、作者に、ストレートに聞いてみたら?」

「座長にですか?」

「そう、滝沢ゆきさんに教えを乞うのよ」

「教えてくれるかな?」

「さあ、そこは、福田君の追求とか、懇願次第じゃないの。
これじゃあ、どんな風に演じると、作者の意図に沿うのか判らない。
最終的に、このシナリオは、肯定なのですか、否定なのですかって聞いてみればいいのよ」

「やっぱり、聞くのは僕でしょうか?」

「貴方しかないじゃない。貴方が演出家なんだから」

「たしかに、その通りなんですけど……」

福田君は、私にたしかめて貰いたい風だった。

しかし、私や福田君や劇団全員に対して、挑戦状を突きつけているようなシナリオを書いた有紀に、俳優の私が、教えを乞うのは筋違いだった。

やはり、演出家の役目になるのは仕方のないことだった。

二人の間に、かなり長い沈黙があった。

「聞きに行ったら、座長は教えてくれるでしょうか?」福田君は、力なくつぶやいた。

「教えない。いや、教えられないわよ、きっと……」

「えっ!座長も、このシナリオの意味が判っていない。そう云うことですか?」

「たぶんね。行き先が判らない内に、貴方にシナリオを渡したような気がする。
迷いながら書いたシナリオなのよ。
だから、結論らしいものが見えてこないわけよ。
どちらに転んでも、特に困らないシナリオなのよ」

「そうですか、だったら、聞いても無駄じゃないでしょうか?」

「そう、無駄かもね」

「だったら、聞かない方が良いかもしれませんね」

「そうね。聞く必要はないのかも……」

「そう云うことか。誰も、答えが判らないドラマですか……」

「そう、終着駅だと思っていても、それは、ある人にとってであって、も一方のある人たちにとっては、始発駅なわけでしょう。
だから、始発駅から見える風景、終着駅から見える風景。それぞれ、見ている風景が違う。
そのことを、作者は言いたいと云うか、迷っていると云うか、そう云うことよ」

私は、有紀と自分のこれからを脳裏に持ったまま、福田君に語りかけていた。

「わかりました、踏ん切りますよ。
それぞれの役どころの人々が、自分なりの解釈で演じてゆく。
目に見えている答えは、常に一定だけど、観客の心次第で、どちらにでも咀嚼できる劇、それを求めてみますよ。
それが、散々な出来でも、構いやしない。
それが、人間だ。それが人生だなんて開き直ってやりますよ。命までとられる話じゃない筈ですから」

福田君は、明るい声で話すと立ち上がり、ジーンズのお尻を叩いて笑った。

私も、同じように、立ち上がり、福田君を真似て、ジーンズのお尻を叩いた。

そして、“一か八かよ”と福田君に、いや、自分に言い聞かせて、福田君の背中を思いっ切り叩いてやった。
 
                                                             完

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終着駅506


第506章

“案の定、疑似セックスが功を奏した”と自慢する有紀の言葉を、何となく聞いていたが、人工授精前夜のディルド行為の事を指していることだけは、たしかだった。

そして、有紀は続けて“あの閃きは本物だったのよ”と手放しで歓ぶのだが、私は、その時点で、有紀の妊娠が、彼女にとって、或いは私にとって、どういう意味があるのか、判定に迷っていた。

有紀は、当然のように、“姉さんの精子が妊娠させてくれた”と、何度となく口にした。

理屈の上では、中身は竹村の精子だが、たしかに、その凍結保存精子を、どのように扱うかは、私の裁量内だったが、あくまで、精子は竹村のものであり、私の精子であるわけがない。

母ではなくても、有紀の頭が狂っているのではと、正直不安になった。

単に、劇中の人物のような感覚で、“姉さんの精子”と表現するのか、私の所有物だった“モノ”を指しているのか、判定が出来なかった。

仮に、有紀が、どこかで、何かを倒錯的に捉えているのだとなると、これは厄介だった。

まさか、そんなわけはない、私は、そう思いこもうとしたが、どこかに不安が残された。

この、私の杞憂は、内部で膨らんだ。

出来ることなら、有紀のお腹の子が女であることを望んだ。

女の子であれば、“圭”と名づけることはないだろう。そして、“ゆき”と“圭”が関係を持つことがないことを祈った。

しかし、仮に女の子だった場合、“りょう”と云う名前をつけられても、文句が言える筋合いではなかった。

そして、有紀は、必ず“りょう”と云う名前を選択するに違いないと、私は確信していた。

しかし、考えてみると、私たちが見本のようなもので、男の子でも、女の子でも、性的関係は成り立つのだから、どちらでも杞憂は現実になる。

いや、そうなる可能性の問題だけど……。

有紀は、そこまで計算づくに企んで、竹村の精子が欲しいと言ったのだろうか。

どこまでが、悪戯心であり、どこからが、本気なのか、私は疑心暗鬼に陥っていた。

有紀と私の関係だけなら、竹村の凍結保存精子で、有紀が妊娠することには、姉妹の愛情とか、同性愛の確認と云う意味で、納得できたのだが、その子供たちの関係にまでは、気が回らなかった。

この棘々しい(おどろおどろしい)想像が、私の杞憂であれば良いのだが、そこまで、有紀が考えていたとなると、少し異常に思えた。

ただ、どのような厄介や、困難が訪れるのか、想定してみたが、具体的な問題が浮かんだわけではなかった。

私たちが、そうであるように、何も起きないのかもしれない。

粘着性の強い関係が生まれるわけだけど、それが不都合な関係かどうか、私は判断できなかった。

結局、その関係は、忌むべきものでもないし、怖れる必要もなかった。

私の杞憂の原因は確かだったが、杞憂なことが起きたからといって、必ずしも、悲劇が起きるわけでもなかった。

当事者たちが、不幸になるわけでもなかった。

逆に、とても、心地よいぬるま湯の中で生きられるし、常に、母親の胎内で、羊水に包まれ、眠っているような安らぎさえあった。

私は、踏ん切りのつかない気持ちを抱えたまま、次の舞台の稽古に突入していた。

珍しく、何度となく、福田君から演技への注文がついた。

実際は、福田君自身が、劇中の私の役への解釈が、コロコロ変わってしまうのが原因だったが、本人に自覚はなかった。

周りの連中も、福田君の演出に惑わされ、迷い道を彷徨っていた。

私は、五回目の彼の“駄目出し”に切れた。

私が切れたことで、周りの連中も、それぞれの不満を演出家に突きつけた。
つづく

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終着駅505


第505章

「あぁ、閃きね。それは、秘密…じゃなけどね。例のカテーテルが入ってくるまでは、いつも通りだったのよ。何となく、深夜の儀式で、何かが変わるかも、と云う非科学的な期待があったんだけど、何だ、変りないのねって、ガッカリしていたの……」

「それから、何かが起きた?」

「そうなの」

「どんな、何か?」

「あのね、苦しかったのよ」

「アソコの中が?」

「アソコと言ってもバギナじゃなく、子宮の方がね。
生理痛とか、排卵痛とかあるじゃない、それよりも、もう少し、チクチクと痛んだの。
なんだかさ、鋭利な精子の尻尾が、子宮の内側から、チクチク刺している感じなのよ」

「そんな馬鹿な……」

「そう、そんな馬鹿なよ。浜田先生に、チョッと、チクチクするんですけどって言ったら、気の所為か、もしかすると、子宮の状態が変化しているのかもって」

「子宮の状態が変化する?」

「いや、浜田先生も、当てずっぽうに言っただけよ。でも、数分くらいジッとしていたら、子宮内が熱く感じられたの」

「なんか、変な薬剤混入させたんじゃないの?」

「いや、いつも通りの消毒薬が一緒に注入されただけらしいの…」

「で、今は?」

「もう、痛くも、熱くもないから大丈夫。でもね、私は、リアリティーを感じたのよ」

「どんな風に?」

「“涼”という女の精子が入ってきている。
ああ、私は犯されている。
処女受胎だって、そして、処置室で横になりながら、エクスタシーが疾風のようによぎって消えていったの……」

「そんな馬鹿な……」

私は、あくまで冷静に対応した。しかし、有紀は、夢でも見るように、恍惚と、その時の情景の中にいた。

「おそらく、私の子宮の中で、姉さんの精子が着地点に足場を作っている最中なの。
必ず、いえ、きっと今回は成功よ。
もし、今回で成功しなかったら、私は、人工授精を止めるから……」

「今回駄目だったら、体外受精か顕微授精をするって言ってたよね」

「いや、それもしない。
今回限りで、私の、“未婚の母計画”はオシマイ。私は“石女(うまづめ)”に徹して生きるの」

「なによ、舞台に上りたくなったの?」

「まさか、あんな辛い生活に二度と戻る気はないよ。姉さんは、辛いとは感じないの?」

「そうね、無神経なんだと思う。
雑誌の評論とか、福田君なんか、凄く気にしているけど、私は、何を言われても気にならないの。
多分、私の方が変なのだろうなって思っているけどね」

「面白いもんだよね。何時からか、姉さんと私、入れ替わった感じだよね。ああ、せめて、妊娠くらいは姉さんと肩を並べたかったのにさ……」有紀は大袈裟に、演じてみせた。

三週間後、有紀の妊娠を知るまでは、私は、絶望に苦しむ有紀を、慰めるシミュレーションだけをしていたので、祝福を表す言葉も行動も起こせず、呆然と立ち尽くした。
つづく

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終着駅504


第504章

その夜、我々は、劇団事務所で内輪の打ち上げ会をしていた。私を含め、全員が体力の限界に挑戦させられるような舞台に翻弄されていた。

欠席の座長に代わって、副座長の挨拶が済み、全員の乾杯の声が響き、そのまま散会になった。

私は、事務局長の父と一緒に、タクシーに乗った。

「有紀は顔出さなかったね」父が、なぜだと言わんばかりに呟いた。

「数日前から、少し体調が悪いの。ベッドの上で、何となく過ごしているみたいよ」私は、嘘も方便だと思いながら、父の呟きに答えた。

「単なる体調不良なら良いのだが、母さんが言うには、有紀の様子がおかしいのだけど、どうしたものかって電話があったよ」

「様子がおかしいって、例えば?」

「いや、母さんの話も要領を得ないので、ハッキリしたことは言えないのだけが、鬱のような症状じゃないのか、そんな風に心配しているようだったね」

「あぁ、そう云うこと。だったら、違うよ。いま、有紀は、シナリオ作家として、一皮剥けようと藻掻いていると云うか、脱皮の真っ最中なのよ。だから、傍から見ると、少し変に見えるんじゃないの」

私は、父に、少なくとも、有紀の状態は病的でないことだけは伝えておきたかった。

「それなら良いんだが。まあ、涼も、時々気をつけておいてくれよ」

「わかった。ところで、父さん、最近毎日母さん、我が家にいるんだけど、父さん、一人で大丈夫なの?」

「あぁ、問題ないね。どちらか言うと、人生で最高の期間かもな」父はニコニコしながら、車窓を覗き込んでいた。

「そう、なら良いよね。それなら、独り身をエンジョイして貰っていて好いんだけど、何か問題が起きたら、いつでも構わないから、吉祥寺の家の方で暮らしても構わないからね。老婆心な言いぶりだけど……」

「ありがとう。その言葉を貰うだけで、終身保険に入った気分だよ、ふふふ」父も、それなりに、同居の誘いは嬉しかったようだ。

家は静かだった。

母も“ゆき”も既に眠っていた。あれ程、母に、“ゆき”を養育されることを毛嫌いしていた私が、一身上の都合で、母を便利に使っている心苦しさはあったが、現状ではベストな選択だった。

週に二日、田沢さんが顔を出してくれた時に、母は高円寺のマンションに帰宅して、洗濯物などを片づけているようだったが、今のところ、不平不満は聞かれなかった。

彼女の性格から、嫌なことを我慢する積りはないだろうから、母が、何か言ってこない限り、現状を維持しておけば良いのだろうと、親心に胡坐をかいた。

母の部屋を横目に見ながら、私は、階段を昇った。そして、コートを脱がずに、有紀の部屋のドアを開けた。

私が顔を覘かせると、“待った!”と、手の平を向けて、話すなと、機先を制した。

私は、有紀のオマジナイのような瞑想が終わるまで、ジッとベッドに横たわる、36歳の独身女を見つめ、立ち尽くしていた。

「ああ、もう良いよ。どうだった、楽日は?」

「大入りの500円玉配られたから、まあまあじゃないのかな?」

「そう、今度は動きの少ないのにするから、帳尻合わせて」有紀は、自分のシナリオが、演技者に過大の肉体的疲労を与えていることを知っていた。

ただ、有紀が、なぜ、あのように動きの激しいシナリオを用意したのか、何となく理解していた。副座長の福田君が、繊細な演出で立ちどまらずに済むようなシナリオを書いていた。

演技者には過酷だったが、演出担当にとっては、意外に楽な展開のシナリオだった。敢えて聞く必要もないが、有紀の自然体から出てくる、優しさなのだと理解していた。

「今日は楽日だから、行くつもりだったんだけど、途中で閃きがあったから、サボっちゃった。怒っている人いたかな?」

「いないけど、福田君には、ひと言かけてやっても良いんじゃないの」

「大丈夫、もう電話でフォローしておいたから」

「ところで、その“閃き”って、何なのよ?」
つづく

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終着駅503


第503章

有紀のバギナにも、一方の疑似ペニスが挿し込まれていた。薄明りの中で、有紀はオーガズムに到達しようと、独りで努力していたようだ。

なぜ、こんな状態になっているのか、考えている余裕はなかった。自然に身体が動いた。

パートナーがイケなくて苦悶しているのであれば、それを手助けしてやるのは相方の優しさだった。

私は、半分寝ぼけた身体を起こし、有紀に代わって正常位の態勢で上になった。シリコン製のWディルドは、その点で自在だった。

“ゴメンね、ゴメンね”と有紀は意味不明に謝罪の言葉を、小さく連発していた。

「謝る必要ないよ。イイの?」

「うん、イイ。イケそうだよ」

「よし、ガンガン責めるからね、イクのよ」私は、乱暴に、互いのバギナに刺さっていたディルドを圧しこめるように強く動き、何度か繰り返した後、有紀の最後の瞬間を待った。

有紀の指が、私の二の腕に食い込んだ。

そして、有紀の最後を示す弓ぞりの態勢を維持し、貪欲に、4,5回頂点を味わい、ディルドを挿したまま、ドサリとベッドに倒れ込んだ。

下腹部が大きく波を打ち、時折、思い出したように、オーガズムの波が打ち返していた。

私は、夢中で有紀をイカセている内に、完全に目覚めた。

自分の股間からディルドを抜き取り、有紀のディルドも抜き取った。抜き取る時に、有紀は、もう一度小さな快感を憶えてようだが、其の儘、眠りに就いていた。

此のまま寝かせてしまっても、構わない。しかし、朝になれば、“ゆき”がオハヨウ!とドアを覗く。

多くの場合、母が付き添っているので、余計に厄介だ。私は、取りあえずディルドをベッドの下にタオルで包んで隠した。

いつもの有紀なら、小一時間ほどで目覚める筈だった。

私は、デスクのスタンドを点けて、読みかけのジョージ・オーウェルの『動物農場』を読みだした。

この小説は旧ソ連の社会を皮肉った全体主義に対する批判小説だ。

でも、オーウェルの政治的メッセージを乗り越えて、今では、全体主義や国家主義的権力が、どのような場合でも時間とともに腐敗してゆく様を、知らせている。

だいぶ昔、アニメ・動物農場が公開されていたが、社会主義も資本主義も、結局は同じく、権力者が現れ、支配構造が出現すると云う感じに変えられていた。

私たちの舞台に乗せることは難しそうだが、同じ作家の『1984年』の方が、同じテーマでも、断然舞台劇の原作になりそうだ。

ただ、有紀が得意とする分野とは相当に異なるジャンルの話なので、舞台に乗せるつもりなら、いつの日か、自分で書いてみるしかなさそうだった。

私は、そんなことを考えながら、有紀が起きるのを待っていた。数回、寝返りを打ったので、そろそろ、“イッちゃったよ”と気怠い呟きとともに、有紀は目覚める筈だった。

「イッちゃったよ」案の定、有紀はシーツに包まれたままの裸身を寝返らせながら呟いた。

「珍しく、前向きだったね?」

「明日の為に、奮い立たせたの……」

「明日のために?」

「そう。明日の授精に、リアリティーを注入しておきたかったの。

もし、明日成功したら、それって、姉さんの精子で妊娠したようなものだからね」

有紀の話している理屈はメチャクチャだったが、私も、同じように共感できた。
つづく

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終着駅502


第502章

「話が横道にそれたけど、妊娠したかどうか、どのくらいで判るの?」

「2,3週間したら、妊娠検査薬でもたしかめられるって。今回、着床している保証はないから、次回の為に、排卵チェッカーも使うだろうから、別々の容器でたしかめてって」

「自力で確認するのね?」

「着床を確認できる超音波エコー装置とか、浜田先生のとこにはないから、そう云うことになるね」

「あぁ、内科クリニックだものね」

「そう、敬老会の会場に迷い込んだみたいだったよ。それでね、妊娠検査薬で反応が出たら、空とぼけて、櫻井先生の診察を受けろって言っていたよ」

「へー、そう云う話は聞いてなかったけど、ただ単に、妊娠したと云うことだから、櫻井先生でも大手を振って処置は出来るってことね……」

「そう、人工授精の処置は出来ないけど、妊娠出産の処置に、何の支障もないから、そう言っていたよ」

二人は、今にも有紀の人工授精が成功して、それからの話にまで及んだのだが、思うような結果は得られなかった。

4回目の人工授精処置をしに行く前夜、私が寝ついてからだから、午前2時を回っていたと思うが、有紀が、私のベッドに潜りこんできた。

「下半身だけにして……」私は、寝ぼけた声で、有紀に下半身だけを預けた。

脳に近い方を触られると苛立つ感じがあったが、不思議と腰から下の方は、睡魔に襲われると、切り離された肉体のようになっていた。メカニズムは判らないが、上半身と下半身が個別の生き物になっていた。

現実には、有紀の舌先によるバギナへの愛撫が、快感を伴っているのだから、脊髄を通じて、大脳にまで伝わっているのだろうが、快感を伴う睡眠に入ることが出来た。

下半身への愛撫は、執拗だったが、私は、下半身を有紀に貸したまま、眠っていた。

いつもなら、目覚めて、有紀にお返しの愛撫をしているタイミングだったが、舞台での動きが多い劇だったので、体力を消耗していた。

有紀が、突然、ベッドを離れ、部屋から消えた気配がした。

一瞬、その気配に私は目覚めたが、再び睡魔の虜になった。

次の気配で目覚めた時には、既に、私のバギナに、何かが突き刺さっていた。

Wディルドだった。

あれだけの太さのものを挿し込まれても気づかなかった私の熟睡も相当なものだが、出産後、幾分バギナへの関心度が下がっている自分がいる事実もあった。
つづく

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終着駅501


第501章

「今日、例の内科の浜田って先生が言っていた事が気になっていたの……」

「何て言われたの?」

「5,6回で上手く行かない時は、残り僅かだから、次の手段を考えないとねって」

「それって、どう云うこと?」

「姉さん聞いてないの?」

「残された精子の量が、8回分だけだって……」

「どうだったかな。聞かされたかもしれないけど、どのくらいの量が残されてるのか、そもそも、興味がなかったから、覚えていなかったのかも……」

私は、嘘をついた。凍結保存精子が8回分しかないのは、櫻井先生から聞かされていた。

なぜ、その事実を有紀に伝えなかったのか。それには、私の意志が明確にあった。意地悪な意図はなかった。

私と、そして有紀の、運命の回答が出されるわけだから、運命論者である以上、ただ、その結果を受け入れれば良いだけだった。

「まあ、5回も試して、失敗だったら、私は妊娠できないって思えば良いわけだからね、それはそれで受け入れる積り」

「8回分あるんだから、残りも、全部挑戦すれば良いんじゃないの?」

「そうだよね。
ただ、浜田先生が言うには、5回の内に授精が起きない場合は、統計的には、それ以降も期待できないらしいのよ。
だから、どうしてもと云う考えがあるようなら、残りは、体外受精や顕微授精の選択が可能なように残しておいた方が、そんな話だったよ」

「常識的な結論だよね。
有紀の気持ちを別にすれば、私は、竹村の凍結保存精子で、自然妊娠に近い方法での授精だったら、心から歓べると感じていたの。
でも、体外受精とか、顕微授精となると、なんだか、強制的な受胎って感じになって、運命的ではなくなるのが、どうも納得できないかなって……」

「私も、その考えに賛成。
子宮に精子を注ぎ込む程度なら、リアルさはないけど、自然の流れに、途中省略で、横入りするようなものだからね。
それこそ、上手く行くかどうか、運命だもの。だから、そうでなきゃ駄目なのよ。竹村さんの精子が、まあ、この女の子宮でも良いかぁって思ってくれなきゃ、私の立場もなくなるし……」

「有紀が、竹村の精子を頂戴って言ってきた時は、正直、何を考えているのか、見当もつかなかったからね。
でも、不思議だけど、今になると、上手いこと、バシッと決まれば良いなって、思ってるからね」

「仮の話だけ、“ゆき”と産まれてくる子は、本当は腹違いの兄弟姉妹なのだろうけど、従姉妹関係で育てたいけど、構わない?」

「構わないけど、どうして?」

「生まれてきたことで、法的に問題が起きたりするのは嫌だなって思うから……」

「あれでしょう。死後認知とかいうやつよね。その点が、厄介になるかもしれないって、金子さんは……」

「どうして?未婚の滝沢ゆきが売りなのに、その父親が判っちゃったら、意味ないのだから、認知の要求なんてするわけがないでしょう。
それとも、彼は、私のこと欲深い女だと判定したのかな?ケシカラン!」

「違うの、私が、こう云う場合、生まれた子に、竹村の権利は相続できませんかってね。その流れで、出てきた話だよ」

「それで、こう云う場合認知可能なの?」

「不可能ではないけど、現実的には不可能に近いかな。死後認知って、その認知確認の判定を検察官がするんだって。
竹村の毛髪とかがあれば、それでDNA検査ね。本人のがなければ、近親者、我が家で言えば、“ゆき”のDNAと照合する。
それから、当該死亡者と、そういう人間関係にあったと云う証明のようなものも必要になるかもよ」

「随分と公になっちゃうし、父親が判っちゃうから、その考えはパスだね」有紀は、思った通り、竹村の財産云々に興味はないようだった。
つづく

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終着駅500


第500章

そんな或る日、稽古を終えて家に戻ると、有紀の姿がなかった。

母が“ゆき”に一階の和室で、絵本を読み聞かせていた。

「おや、早かったね」

「母さん、もう”ゆき”は、寝てるみたいよ」寝込んだ”ゆき”を抱えたままの母に小声で囁いた。

「この子は、本当に手がかからない子だよ。五分もしない内に寝てくれるんだから・・・・・・」

「有紀は、どこかに出かけたの?」

「いや、夕方帰ってきて、少し熱があるからとか言ってたから、部屋にいると思うけど・・・・・・」

「そう、風邪でも引いたのかな?」

私は、無関心を装い、あっさりと受け答えした。

そして、有紀が遂に、人工授精を受けたのだろうと察した。

しかし、寝込む程の施術ではない筈なのにと思ったが、母に疑問をぶつける話題でもなかった。

何となくキッチンの椅子に座り込んで、テーブルに出されたままの煮物の大皿を見つめていた。

特にお腹は空いていなかったが、里芋を爪楊枝で口に運んだ。あいかわらず、母の煮物の腕は落ちていなかった。

大根もほどよく柔らかく、味も浸みていた。イカが、どうして、俺のことを食べないのだと抗議していた。

「特別、よけ者にしていないよ。ただ、今は大根と里芋が食べたいだけよ」私は、自分の実を反り返らせたイカ大根の烏賊に話しかけた。

そのとき、階段を降りてくる足音が聞こえた。今夜の主役のお出ましだった。

「あぁ、お帰り。稽古順調なの?」

「そうね、今のところ注文が出ていないから、順調なんだと思うよ。今回は、新人が多いので、少し心配だったけど、大丈夫みたい。有紀のシナリオにしてはドタバタが多いから、気分転換にはいいわね」

「姉さん向きじゃないかもしれないけどね・・・・・・」

「それは、それよ。私の違った側面の発見には役立つだろうから、ちゃんと演じているつもりよ。大声を出すシーンが多いから、ちょっと声が枯れているけどね」

「やっぱり、喉枯れる?」

「でも、周りは気づいていない範囲だと思うよ」

「それなら大丈夫よ。まあ、煙草は控えめにね」有紀は、ほんの少し前まで、自分が苦労していたことを、人ごとのように話していた。

「熱は下がったの?」

「あぁ、あれは方便よ。今日は、例のところに行ってきたの」

「あぁ、あそこにね。それで、体調おかしいの?」

「違う違う。落ちこぼれないように、身体を横にしておきたいって、思っただけよ」有紀は、非科学的なことを口にしたが、その気持ちは理解出来た。

「あれって、そんなに安静にしていないとイケないわけ?」

「ううん。十分もしない内に、もうお帰りになって良いですよって、あっさりと言われたよ」

「あっけなく?」

「そう、何事もない感じでね。あんなことで、私、妊娠したら、処女懐胎なんて、シナリオ書きたくなるよ。リアルな何事も起きていないのだから・・・・・・」

「感覚、ゼロなの?」

「そうね、子宮頚を、通る時ちょっとチクリとしたかな。そのあとは、何にも感じない。時間にすると二分程度でおしまいだなら、頚ガンの検査より断然痛みはないよ」

「そうかぁ、たしかにリアリティーはないね」

「ホントよ。処女なのに妊娠してびっくりする娘の心境だよ」

有紀は、リアリティーのなさを嘆いた。

私は、こんなことになるのなら、竹村モデルの“張り型”でも作っておけば良かったと思ったが、口には出さなかった。
つづく

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終着駅499


第499章

私の不安は、消えていなかった。有紀の遊び心は、時に、度を過ぎることがあった。

有紀の悪魔的遊び心の中に、腹違いの子供たちの間で、私たちが経験したような相関図を期待しているのではないかという疑念を、聞き出す勇気はなかった。

問いただして、あっさりと、有紀が、その遊び心を認めた場合のリアクションに、自信がなかった。

無論、私には、その企みを、悪魔的だと糾弾できるほど、厚かましい神経もなかった。

結局、その企みを追認してしまう自分がいることを自覚していた。

問題は、竹村の遺した凍結保存精子の量は、8回分に限定されていることだった。

その8回分を使い切る間に、有紀が妊娠しなければ、永遠に竹村のDNAは枯渇する。

このよう場合、櫻井先生の意見では、顕微授精や体外受精が選択されるのが通常のようだったが、その施術には、それ相当の不妊治療病院であることが必要だった。

その選択が無理な以上、有紀は、8回分の自然妊娠に近い方法によって妊娠するしか選択肢がなかった。

私は、その事実を、有紀に意図的に伝えていないかった。

有紀が、その事実を乗り越えてでも、妊娠するのであれば、それは、運命的なファクトとして、心から引き受けるつもりだった。

いつから、私が運命論者になったのか判らないが、竹村が、自分の人生に私を引き摺り込んだ時に始まり、病魔に襲われることで、決定的な転換が起きたのだろうと理解していた。

その変化は、嫌なものではなかった。どちらかと言えば、心地よく、自分の運命の海に浸ることが出来た。

その運命の海は、北極海のような荒々しさもなく、冷たくもなかった。

その海は、南洋の島々にある、島影の入江のようだった。

ただ受け入れるだけで、生きていくことが出来る。

あれこれと、選ぶことに迷う必要もない。そして、その結果に幸福を感じるのも、不幸を感じるのも、運命と云う絶対的力によって支配されるのだから、私は免責される。

有紀に伝えなかった事実は、特に、私が意図して作りだしたものではない事実だった。

だから、伝えても、伝えなくても、その事実は変らなかった。

有紀の場合、排卵誘発剤を使わないので、排卵日を、基礎体温と排卵チェッカーで確認する必要があった。

超音波による、排卵日の特定などの不妊治療施設では行われるが、それも実施できないので、自己管理が必須だった。

“一か八かだね”

有紀が、大まかな私の話を聞いて、呟いた言葉が印象的だった。

私も、有紀と同じ気持ちだった。

運命に身を任せると云うことは、そう、常に“一か八か”なのだと……。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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