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終着駅507(最終回)


第507章

「福田さん、もっとシナリオを読み込んで、自分なりの解釈をシッカリ持ってよ。
そうじゃないと、この状態では、稽古にならない。いや、混乱だけが膨らんじゃうわよ」

 私は、福田君と二人になった時、優しく語りかけた。

「僕も、そう思います。
ですから、ホント、百回近く読み返したんです。
でも、その都度、登場人物の人物像が変わってきてしまって、何が何だか判らなくなっているんです」

福田君は、素直に、その事実を認めた。

「そうなの、困ったわね。
実は、私も、何度か読み返したけれど、自分の役どころのイメージがハッキリしないまま演じているの。
多分、他の人たちも同じだと思う。
一つの問題への答えが、常に、否定と肯定が同時に出てくるでしょう。
きっと、このシナリオには仕掛けがあるのよ。
でも、どこにも、それを解明する手掛かりは書かれていない。そう云うことになるのよ」

「そうですね。多分、そう云う事なのでしょうね。
でも、演じている役者も、演出している僕も、意味不明で上演するなんて、これ、無謀ですよ。
まして、観客の方は、もっと悲惨かもしれない。何からかにまで、狂った舞台って散々な目に遭いそうです……」

「そうだよね、作者に、ストレートに聞いてみたら?」

「座長にですか?」

「そう、滝沢ゆきさんに教えを乞うのよ」

「教えてくれるかな?」

「さあ、そこは、福田君の追求とか、懇願次第じゃないの。
これじゃあ、どんな風に演じると、作者の意図に沿うのか判らない。
最終的に、このシナリオは、肯定なのですか、否定なのですかって聞いてみればいいのよ」

「やっぱり、聞くのは僕でしょうか?」

「貴方しかないじゃない。貴方が演出家なんだから」

「たしかに、その通りなんですけど……」

福田君は、私にたしかめて貰いたい風だった。

しかし、私や福田君や劇団全員に対して、挑戦状を突きつけているようなシナリオを書いた有紀に、俳優の私が、教えを乞うのは筋違いだった。

やはり、演出家の役目になるのは仕方のないことだった。

二人の間に、かなり長い沈黙があった。

「聞きに行ったら、座長は教えてくれるでしょうか?」福田君は、力なくつぶやいた。

「教えない。いや、教えられないわよ、きっと……」

「えっ!座長も、このシナリオの意味が判っていない。そう云うことですか?」

「たぶんね。行き先が判らない内に、貴方にシナリオを渡したような気がする。
迷いながら書いたシナリオなのよ。
だから、結論らしいものが見えてこないわけよ。
どちらに転んでも、特に困らないシナリオなのよ」

「そうですか、だったら、聞いても無駄じゃないでしょうか?」

「そう、無駄かもね」

「だったら、聞かない方が良いかもしれませんね」

「そうね。聞く必要はないのかも……」

「そう云うことか。誰も、答えが判らないドラマですか……」

「そう、終着駅だと思っていても、それは、ある人にとってであって、も一方のある人たちにとっては、始発駅なわけでしょう。
だから、始発駅から見える風景、終着駅から見える風景。それぞれ、見ている風景が違う。
そのことを、作者は言いたいと云うか、迷っていると云うか、そう云うことよ」

私は、有紀と自分のこれからを脳裏に持ったまま、福田君に語りかけていた。

「わかりました、踏ん切りますよ。
それぞれの役どころの人々が、自分なりの解釈で演じてゆく。
目に見えている答えは、常に一定だけど、観客の心次第で、どちらにでも咀嚼できる劇、それを求めてみますよ。
それが、散々な出来でも、構いやしない。
それが、人間だ。それが人生だなんて開き直ってやりますよ。命までとられる話じゃない筈ですから」

福田君は、明るい声で話すと立ち上がり、ジーンズのお尻を叩いて笑った。

私も、同じように、立ち上がり、福田君を真似て、ジーンズのお尻を叩いた。

そして、“一か八かよ”と福田君に、いや、自分に言い聞かせて、福田君の背中を思いっ切り叩いてやった。
 
                                                             完

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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