第499章私の不安は、消えていなかった。有紀の遊び心は、時に、度を過ぎることがあった。
有紀の悪魔的遊び心の中に、腹違いの子供たちの間で、私たちが経験したような相関図を期待しているのではないかという疑念を、聞き出す勇気はなかった。
問いただして、あっさりと、有紀が、その遊び心を認めた場合のリアクションに、自信がなかった。
無論、私には、その企みを、悪魔的だと糾弾できるほど、厚かましい神経もなかった。
結局、その企みを追認してしまう自分がいることを自覚していた。
問題は、竹村の遺した凍結保存精子の量は、8回分に限定されていることだった。
その8回分を使い切る間に、有紀が妊娠しなければ、永遠に竹村のDNAは枯渇する。
このよう場合、櫻井先生の意見では、顕微授精や体外受精が選択されるのが通常のようだったが、その施術には、それ相当の不妊治療病院であることが必要だった。
その選択が無理な以上、有紀は、8回分の自然妊娠に近い方法によって妊娠するしか選択肢がなかった。
私は、その事実を、有紀に意図的に伝えていないかった。
有紀が、その事実を乗り越えてでも、妊娠するのであれば、それは、運命的なファクトとして、心から引き受けるつもりだった。
いつから、私が運命論者になったのか判らないが、竹村が、自分の人生に私を引き摺り込んだ時に始まり、病魔に襲われることで、決定的な転換が起きたのだろうと理解していた。
その変化は、嫌なものではなかった。どちらかと言えば、心地よく、自分の運命の海に浸ることが出来た。
その運命の海は、北極海のような荒々しさもなく、冷たくもなかった。
その海は、南洋の島々にある、島影の入江のようだった。
ただ受け入れるだけで、生きていくことが出来る。
あれこれと、選ぶことに迷う必要もない。そして、その結果に幸福を感じるのも、不幸を感じるのも、運命と云う絶対的力によって支配されるのだから、私は免責される。
有紀に伝えなかった事実は、特に、私が意図して作りだしたものではない事実だった。
だから、伝えても、伝えなくても、その事実は変らなかった。
有紀の場合、排卵誘発剤を使わないので、排卵日を、基礎体温と排卵チェッカーで確認する必要があった。
超音波による、排卵日の特定などの不妊治療施設では行われるが、それも実施できないので、自己管理が必須だった。
“一か八かだね”
有紀が、大まかな私の話を聞いて、呟いた言葉が印象的だった。
私も、有紀と同じ気持ちだった。
運命に身を任せると云うことは、そう、常に“一か八か”なのだと……。
つづく
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