第494章竹村の凍結保存精子が、日の目を見るのも悪くはないのかもしれない、私の考えも、有紀の考えに傾いた。
竹村と有紀がセックスをして、子供を妊娠する話とは、まったく別の感覚だった。
仮に、私に万が一のことが起きても、どちらに転んでも、竹村の血は引き継がれる。そして、彼の財産を引き継いだ私の役目も、確実に引き継がれる。
そうなれば、竹村の意志表示はないけれど、シングルマザー基金の運営を有紀に任せても、竹村夫婦の遺志は成就する。そして、私は、舞台俳優に打ち込める。
有紀は、妊娠出産した後、シナリオ作家と子育てに専念するに違いない。おそらく、私の“ゆき”と云う子供の子育ても、有紀なら、併行的にしてくれるに違いなかった。
すべてが、収まるべきところに収まるような安定感があった。
いつ、どのようなきっかけで、入れ代わったのか判らないのだが、有紀と私の立場が入れ代わっていた。
それが、どう云う意味を持つのかも判らなかった。
ただ、悲劇にはならない感じがした。
背徳でもなかった。
「わかった、良いよ。でも、その手続きと云うか、その辺は、考えてみたの?」
「まだ……」
「ただの思いつきだったの?」
「違うよ。姉さんがいる以上、浮気は嫌だったの。でも、子どもは欲しい。
その考えを突き詰めていくと、竹村さんの精子に行き着いただけ。
その後は、金子さんと、櫻井先生に任せれば、何とかなるのかな、何となく、そこまでは、考えてみたんだけど……」
「それで、金子さんや櫻井先生と接触したの?」
「まさか、そんなことしないよ。姉さんの了解がなければ、成り立たない話くらい判っているから……」
「私が、金子さんや櫻井先生に、この話をしなきゃならないってことになるのね?」
「凍結保存の手続きの解約と云うのかしら、姉さんが、金子さんに話すことが必要でしょう。
そして、良く判らないけど、その凍結保存された精子を櫻井先生の手元に届くように差配する権利を持つのは姉さんだから……」
「そうね、そういう事になるのかしら。金子さんに聞いてみないと、何ごとも始まらないけど……、櫻井先生が引き受けてくれないと、凍結状態を維持できなくなるから……」
「そうか、仮の話で、金子さんに確認しないと、判らない……」
「それしかなさそうだね。私たちが考えるほど、簡単に扱えるものかどうか、そこが判らないからね……」
凍結保存された精子の権利者は、更新料を支払っている私であることは、想像がついたが、その精子を、どのように使おうと、権利者の勝手かどうか、そこまでは確認していなかった。
「ねぇー、面倒だろうけど、金子弁護士に確認して」
「そうするけど、国内では難しいのかもね。
記憶が正しければ、その病院の倫理委員会とか、そういうところで、承認が必要だった気がする。
今の倫理観に沿った結論だから、アンタの、義兄の精子による人工授精は認められない気がするよ」
「女が、誰の精子で妊娠しようと、それって、個人の自由だよね。北欧なんかだと、南欧のイケメンのタネ仕込みに行って、シングルでも自由に子供作れるって言うのにさ。面倒くさい国だね」
「まあ、議論の余地ある話だけど、今の解決には関係ないからね・・・・・・。
明日、金子さんに聞いてみるよ。櫻井先生に話すべきか、まったく別のルートを探すか、彼の意見を聞いてからだね」
「わかった、姉さんの交渉力に期待するよ。
どこの馬の骨かわからない子供は無理。竹村さんのなら、安心だし、リスクも少ないはずだから・・・・・・」
有紀が、竹村の精子を欲しがる理由は曖昧だった。
有紀の中では納得しているようだけど、私の胸にストンと落ちてはいなかった。
つづく
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