第497章「ええ、多分、先生の想像通りの、或る女性です」
「そうですか。それでは、少しは考える気になりますね。ただ、僕は生殖医療学会に属していますので、結構厄介な話なんですよ」
「そうでしょうね。私も、櫻井先生のお手を煩わすのは、拙いよな、と思っていました。ただ、間接的ですけど、サジェッションして頂ければ、何とかなるのでは、と思いまして……」
「まあ、僕が手掛けても、犯罪になるわけではありませんから、どうでも良いのだけど、病院と大学の立場から言うと、直接は手控えたいですね。
いま直ぐに、誰かを思い出せと言われても、思いつく人物はいませんけど、一週間も貰えれば、誰かは紹介できますよ。
ただ、体外受精とか顕微授精は、多くの人の手が入りますからね、情報漏れも起きます」
「と云うことは、人工的に体内に注入する方法ですね?」
「ええ、確率は落ちますけど、それは、自然妊娠においても同じことですから……。ただ、妹さんも、30は超えていらっしゃいましたよね?」
「ええ、35くらいになりますね」
櫻井先生は当然のように、或る女性を、簡単に特定してしまった。しかし、それは、いずれはバレることなのだから、どうでも良かった。
「個人差があるけど、確率は落ちますね。ですから、一回や二回で、シャンシャンシャンと云うわけにはいかないでしょう。5,6回はスケジュール的に組みますからね。つまり、排卵時期に合わせて行いますから、月一回のペースで、半年は必要、そう云うことになります。」
「たしか、あれって、精子も洗浄とか、するんですよね?」
「そうですけど、TH病院で凍結保存してあると云うことは、既に、遠心分離器にかけて洗浄・濃縮をした精子が保存されている筈ですので、改めて、する必要はないでしょう」
「ということは、単純に、その精子を膣の奥に入れてやると云うことですか?」
「いや、それでは、シリンジ法になります。膣内に入れるだけですが、確率は酷く落ちますし、幾分、生々しさがありますから……。なにか、膣内に射精したのと同じ状況ですから……」
「あぁ、なるほど、生々しいですね。その方法は避けたいです」私は思わず微笑んだ。
特別、竹村のペニスと、有紀のバギナが結合して、膣内に射精されるわけではないのだが、有紀の膣内に竹村の精子が、という想像は愉しくはなかった。
「ですから、不妊治療上の人工授精は、カテーテルで子宮内にまで到達させて注入します。一般的な感覚でしょうけど、膣内は不道徳だけど、子宮内なら、道徳とは関係ない。そういう感じはあるでしょうね」
櫻井先生は、私の気持ちを忖度したのか、一般人の、性的感覚に配慮した物言いをしていた。
「たしかに、子宮は内臓。膣は女の貞淑、そういう感じ、ありますね」
「そうそう、そう云う感じです。本来、人工授精と云うのは、精子の側に、子宮頚の防御壁を通り抜ける能力に欠けている場合に処置する方法なのですが、今回は、不妊治療ではありませんからね……」
「わかりました。でしたら、その方法で、本人確認をしておきます。ただ、櫻井先生の方も心配なので、ご無理はなさらないでくださいね」
「ええ、その辺は、充分に気をつけます。
ただ、TH病院にある冷凍保存精子の移送手続きは早い方が良いでしょう。
こちらの病院で引き受ける手配をしておきますので、後日、ご連絡しますよ。
ただ、あれかな、TH病院の方への手続きは、弁護士事務所経由でしたよね?」
「そうですが……」
「でしたら、弁護士さんの方に、僕の方に依頼したと云うことで、弁護士さんの方と、僕の方で直接連絡し合う方が間違いがなさそうですね」
「ええ、出来たら、その方が。今夜にでも、弁護士の方に知らせますので、明日以降、金子と云う弁護士が、先生の方にご連絡するということで、いかがでしょう?」
私は、なぜか、自分のことでもないのに、脇に汗を掻いていた。それと同時に、一仕事終わらせた安堵の気持ちで、一杯だった。
つづく
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