第62章 寿美のリンパマッサージは徹底していた。両脚のマッサージが終わると、腹部から上半身、脇、首筋と全身のマッサージに渡った。
寿美は話し続けていた。
俺は、その昔話を子守歌にしてまどろんでいた。いや、まどろみ以上の眠りに就いていたのかもしれなかった。
たしか、寿美と結婚を前提につき合っていた男が、突然、別れ話を持ちだした。
そして、結婚は政略結婚のようなものだから、寿美を捨てるわけではない、今まで通り関係を続けたいと、とんでもないことを言い出した。
寿美は、そんな都合の良い女になる気はないので、頬っぺた引っ叩いて別れてやった。
その辺までは聞いていたが、寿美がどう云う目的で、そんな昔ばなしを始めたのか、不思議に思いながら寝てしまったようだ。
特に、俺の意見が欲しくて話している雰囲気もなかったのだから、寿美自身が自分の考えを纏めるための会話ということだと思った。
リンパマッサージの行程が終わった。俺の出番なのだろうと上半身を起こすと、寿美に押し戻された。
漸くと言うべきか、寿美の指がペニスを摘まみ上げた。意志を失っている肉片は心許ない姿で寿美の指の中にあった。
勃起した時に、その肉片は、命の息吹でも吹きこまれたように力みかえる。持ち主である自分の意志とは別人格で、凶悪な姿で動き回る。
身勝手な言い方をしていると聞こえるだろうが、まさしく、勃起した時の股間の肉片は、別なる生き物で、且つ別なる人格さえ備えているように感じるものだった。
俺と云う人格が、相手が疲労困憊しているのだから、そろそろ休息を取るべきだと思っているのに、その硬直して怒りに満ちた勃起は、俺の意志を無視して、女陰に向かって突き進んでいく。
そして女は、自分の快感を超えた、苦痛に満ちた奇妙な快感の世界でのたうち回り、我を忘れる。
そのような快感を強制しているのは、俺ではなかった。勃起の限界超え、痛みを伴う麻痺症状に至った海綿体と亀頭部は、狂気に包まれていた。
女が嬌声を発する余裕を失い、過呼吸な息づかいになっても、容赦する動きを見せない異様さを見せる。
これは、どう考えても、俺の考えているセックスではなかった。俺の考えているセックスを乗り越え、俺のペニスを乗っ取った意志ある生き物の仕業に相違なかった。
怒張という言葉があるが、その通りなのだろう。ペニスの勃起が、怒張に変った時、ペニスは、その持ち主の肉体から遊離して、別なる生き物として行動している。
そんなことを考えながら、俺のペニスは勃起に向かって動きだした。
「ああ変ってきたわ。この瞬間が、わたし好きなの……」
寿美は探究者のように、俺のペニスの変化を見つめていた。見事だと思ったのは、勃起の変化に躊躇いが生じないように、間歇的な刺激を亀頭部周辺に与えていた。
そのリズムは、単調なものではなく、複雑な旋律とリズムを刻み、一時の緩みもなく、完璧な勃起状態のペニスを作り上げていた。
口にこそ出さなかったが、寿美のペニスへの愛撫は、フェラチオをするといった単純で乱暴なものではなく、金糸銀糸を織り交ぜながら、優雅な西陣織を完成させていく職人のような技に思えた。
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