2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

長編連載 『終着駅』を書き終えて


ーーご挨拶ーー

『終着駅』は予期せぬ長さになってしまい、自分でも呆れています。
約1年半ですから、長すぎて、皆様は飽きたのではないかと心配しております。
今後は、中編や短編を書こうと、心に誓っています。
現時点は、達成感と疲労で、次の作品に取り掛かる準備が整っておりません。
出来れば、一週間以内に、次作品掲載したいな、と思っております。
今後とも、よろしくお願いいたします。

鮎川かりん



いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)

アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking


終着駅507(最終回)


第507章

「福田さん、もっとシナリオを読み込んで、自分なりの解釈をシッカリ持ってよ。
そうじゃないと、この状態では、稽古にならない。いや、混乱だけが膨らんじゃうわよ」

 私は、福田君と二人になった時、優しく語りかけた。

「僕も、そう思います。
ですから、ホント、百回近く読み返したんです。
でも、その都度、登場人物の人物像が変わってきてしまって、何が何だか判らなくなっているんです」

福田君は、素直に、その事実を認めた。

「そうなの、困ったわね。
実は、私も、何度か読み返したけれど、自分の役どころのイメージがハッキリしないまま演じているの。
多分、他の人たちも同じだと思う。
一つの問題への答えが、常に、否定と肯定が同時に出てくるでしょう。
きっと、このシナリオには仕掛けがあるのよ。
でも、どこにも、それを解明する手掛かりは書かれていない。そう云うことになるのよ」

「そうですね。多分、そう云う事なのでしょうね。
でも、演じている役者も、演出している僕も、意味不明で上演するなんて、これ、無謀ですよ。
まして、観客の方は、もっと悲惨かもしれない。何からかにまで、狂った舞台って散々な目に遭いそうです……」

「そうだよね、作者に、ストレートに聞いてみたら?」

「座長にですか?」

「そう、滝沢ゆきさんに教えを乞うのよ」

「教えてくれるかな?」

「さあ、そこは、福田君の追求とか、懇願次第じゃないの。
これじゃあ、どんな風に演じると、作者の意図に沿うのか判らない。
最終的に、このシナリオは、肯定なのですか、否定なのですかって聞いてみればいいのよ」

「やっぱり、聞くのは僕でしょうか?」

「貴方しかないじゃない。貴方が演出家なんだから」

「たしかに、その通りなんですけど……」

福田君は、私にたしかめて貰いたい風だった。

しかし、私や福田君や劇団全員に対して、挑戦状を突きつけているようなシナリオを書いた有紀に、俳優の私が、教えを乞うのは筋違いだった。

やはり、演出家の役目になるのは仕方のないことだった。

二人の間に、かなり長い沈黙があった。

「聞きに行ったら、座長は教えてくれるでしょうか?」福田君は、力なくつぶやいた。

「教えない。いや、教えられないわよ、きっと……」

「えっ!座長も、このシナリオの意味が判っていない。そう云うことですか?」

「たぶんね。行き先が判らない内に、貴方にシナリオを渡したような気がする。
迷いながら書いたシナリオなのよ。
だから、結論らしいものが見えてこないわけよ。
どちらに転んでも、特に困らないシナリオなのよ」

「そうですか、だったら、聞いても無駄じゃないでしょうか?」

「そう、無駄かもね」

「だったら、聞かない方が良いかもしれませんね」

「そうね。聞く必要はないのかも……」

「そう云うことか。誰も、答えが判らないドラマですか……」

「そう、終着駅だと思っていても、それは、ある人にとってであって、も一方のある人たちにとっては、始発駅なわけでしょう。
だから、始発駅から見える風景、終着駅から見える風景。それぞれ、見ている風景が違う。
そのことを、作者は言いたいと云うか、迷っていると云うか、そう云うことよ」

私は、有紀と自分のこれからを脳裏に持ったまま、福田君に語りかけていた。

「わかりました、踏ん切りますよ。
それぞれの役どころの人々が、自分なりの解釈で演じてゆく。
目に見えている答えは、常に一定だけど、観客の心次第で、どちらにでも咀嚼できる劇、それを求めてみますよ。
それが、散々な出来でも、構いやしない。
それが、人間だ。それが人生だなんて開き直ってやりますよ。命までとられる話じゃない筈ですから」

福田君は、明るい声で話すと立ち上がり、ジーンズのお尻を叩いて笑った。

私も、同じように、立ち上がり、福田君を真似て、ジーンズのお尻を叩いた。

そして、“一か八かよ”と福田君に、いや、自分に言い聞かせて、福田君の背中を思いっ切り叩いてやった。
 
                                                             完

いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)

アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking

P1010293parts.jpg



終着駅506


第506章

“案の定、疑似セックスが功を奏した”と自慢する有紀の言葉を、何となく聞いていたが、人工授精前夜のディルド行為の事を指していることだけは、たしかだった。

そして、有紀は続けて“あの閃きは本物だったのよ”と手放しで歓ぶのだが、私は、その時点で、有紀の妊娠が、彼女にとって、或いは私にとって、どういう意味があるのか、判定に迷っていた。

有紀は、当然のように、“姉さんの精子が妊娠させてくれた”と、何度となく口にした。

理屈の上では、中身は竹村の精子だが、たしかに、その凍結保存精子を、どのように扱うかは、私の裁量内だったが、あくまで、精子は竹村のものであり、私の精子であるわけがない。

母ではなくても、有紀の頭が狂っているのではと、正直不安になった。

単に、劇中の人物のような感覚で、“姉さんの精子”と表現するのか、私の所有物だった“モノ”を指しているのか、判定が出来なかった。

仮に、有紀が、どこかで、何かを倒錯的に捉えているのだとなると、これは厄介だった。

まさか、そんなわけはない、私は、そう思いこもうとしたが、どこかに不安が残された。

この、私の杞憂は、内部で膨らんだ。

出来ることなら、有紀のお腹の子が女であることを望んだ。

女の子であれば、“圭”と名づけることはないだろう。そして、“ゆき”と“圭”が関係を持つことがないことを祈った。

しかし、仮に女の子だった場合、“りょう”と云う名前をつけられても、文句が言える筋合いではなかった。

そして、有紀は、必ず“りょう”と云う名前を選択するに違いないと、私は確信していた。

しかし、考えてみると、私たちが見本のようなもので、男の子でも、女の子でも、性的関係は成り立つのだから、どちらでも杞憂は現実になる。

いや、そうなる可能性の問題だけど……。

有紀は、そこまで計算づくに企んで、竹村の精子が欲しいと言ったのだろうか。

どこまでが、悪戯心であり、どこからが、本気なのか、私は疑心暗鬼に陥っていた。

有紀と私の関係だけなら、竹村の凍結保存精子で、有紀が妊娠することには、姉妹の愛情とか、同性愛の確認と云う意味で、納得できたのだが、その子供たちの関係にまでは、気が回らなかった。

この棘々しい(おどろおどろしい)想像が、私の杞憂であれば良いのだが、そこまで、有紀が考えていたとなると、少し異常に思えた。

ただ、どのような厄介や、困難が訪れるのか、想定してみたが、具体的な問題が浮かんだわけではなかった。

私たちが、そうであるように、何も起きないのかもしれない。

粘着性の強い関係が生まれるわけだけど、それが不都合な関係かどうか、私は判断できなかった。

結局、その関係は、忌むべきものでもないし、怖れる必要もなかった。

私の杞憂の原因は確かだったが、杞憂なことが起きたからといって、必ずしも、悲劇が起きるわけでもなかった。

当事者たちが、不幸になるわけでもなかった。

逆に、とても、心地よいぬるま湯の中で生きられるし、常に、母親の胎内で、羊水に包まれ、眠っているような安らぎさえあった。

私は、踏ん切りのつかない気持ちを抱えたまま、次の舞台の稽古に突入していた。

珍しく、何度となく、福田君から演技への注文がついた。

実際は、福田君自身が、劇中の私の役への解釈が、コロコロ変わってしまうのが原因だったが、本人に自覚はなかった。

周りの連中も、福田君の演出に惑わされ、迷い道を彷徨っていた。

私は、五回目の彼の“駄目出し”に切れた。

私が切れたことで、周りの連中も、それぞれの不満を演出家に突きつけた。
つづく

いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)

アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking

P1010563jj.jpg


終着駅505


第505章

「あぁ、閃きね。それは、秘密…じゃなけどね。例のカテーテルが入ってくるまでは、いつも通りだったのよ。何となく、深夜の儀式で、何かが変わるかも、と云う非科学的な期待があったんだけど、何だ、変りないのねって、ガッカリしていたの……」

「それから、何かが起きた?」

「そうなの」

「どんな、何か?」

「あのね、苦しかったのよ」

「アソコの中が?」

「アソコと言ってもバギナじゃなく、子宮の方がね。
生理痛とか、排卵痛とかあるじゃない、それよりも、もう少し、チクチクと痛んだの。
なんだかさ、鋭利な精子の尻尾が、子宮の内側から、チクチク刺している感じなのよ」

「そんな馬鹿な……」

「そう、そんな馬鹿なよ。浜田先生に、チョッと、チクチクするんですけどって言ったら、気の所為か、もしかすると、子宮の状態が変化しているのかもって」

「子宮の状態が変化する?」

「いや、浜田先生も、当てずっぽうに言っただけよ。でも、数分くらいジッとしていたら、子宮内が熱く感じられたの」

「なんか、変な薬剤混入させたんじゃないの?」

「いや、いつも通りの消毒薬が一緒に注入されただけらしいの…」

「で、今は?」

「もう、痛くも、熱くもないから大丈夫。でもね、私は、リアリティーを感じたのよ」

「どんな風に?」

「“涼”という女の精子が入ってきている。
ああ、私は犯されている。
処女受胎だって、そして、処置室で横になりながら、エクスタシーが疾風のようによぎって消えていったの……」

「そんな馬鹿な……」

私は、あくまで冷静に対応した。しかし、有紀は、夢でも見るように、恍惚と、その時の情景の中にいた。

「おそらく、私の子宮の中で、姉さんの精子が着地点に足場を作っている最中なの。
必ず、いえ、きっと今回は成功よ。
もし、今回で成功しなかったら、私は、人工授精を止めるから……」

「今回駄目だったら、体外受精か顕微授精をするって言ってたよね」

「いや、それもしない。
今回限りで、私の、“未婚の母計画”はオシマイ。私は“石女(うまづめ)”に徹して生きるの」

「なによ、舞台に上りたくなったの?」

「まさか、あんな辛い生活に二度と戻る気はないよ。姉さんは、辛いとは感じないの?」

「そうね、無神経なんだと思う。
雑誌の評論とか、福田君なんか、凄く気にしているけど、私は、何を言われても気にならないの。
多分、私の方が変なのだろうなって思っているけどね」

「面白いもんだよね。何時からか、姉さんと私、入れ替わった感じだよね。ああ、せめて、妊娠くらいは姉さんと肩を並べたかったのにさ……」有紀は大袈裟に、演じてみせた。

三週間後、有紀の妊娠を知るまでは、私は、絶望に苦しむ有紀を、慰めるシミュレーションだけをしていたので、祝福を表す言葉も行動も起こせず、呆然と立ち尽くした。
つづく

いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)

アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking

P1020117j.jpg


終着駅504


第504章

その夜、我々は、劇団事務所で内輪の打ち上げ会をしていた。私を含め、全員が体力の限界に挑戦させられるような舞台に翻弄されていた。

欠席の座長に代わって、副座長の挨拶が済み、全員の乾杯の声が響き、そのまま散会になった。

私は、事務局長の父と一緒に、タクシーに乗った。

「有紀は顔出さなかったね」父が、なぜだと言わんばかりに呟いた。

「数日前から、少し体調が悪いの。ベッドの上で、何となく過ごしているみたいよ」私は、嘘も方便だと思いながら、父の呟きに答えた。

「単なる体調不良なら良いのだが、母さんが言うには、有紀の様子がおかしいのだけど、どうしたものかって電話があったよ」

「様子がおかしいって、例えば?」

「いや、母さんの話も要領を得ないので、ハッキリしたことは言えないのだけが、鬱のような症状じゃないのか、そんな風に心配しているようだったね」

「あぁ、そう云うこと。だったら、違うよ。いま、有紀は、シナリオ作家として、一皮剥けようと藻掻いていると云うか、脱皮の真っ最中なのよ。だから、傍から見ると、少し変に見えるんじゃないの」

私は、父に、少なくとも、有紀の状態は病的でないことだけは伝えておきたかった。

「それなら良いんだが。まあ、涼も、時々気をつけておいてくれよ」

「わかった。ところで、父さん、最近毎日母さん、我が家にいるんだけど、父さん、一人で大丈夫なの?」

「あぁ、問題ないね。どちらか言うと、人生で最高の期間かもな」父はニコニコしながら、車窓を覗き込んでいた。

「そう、なら良いよね。それなら、独り身をエンジョイして貰っていて好いんだけど、何か問題が起きたら、いつでも構わないから、吉祥寺の家の方で暮らしても構わないからね。老婆心な言いぶりだけど……」

「ありがとう。その言葉を貰うだけで、終身保険に入った気分だよ、ふふふ」父も、それなりに、同居の誘いは嬉しかったようだ。

家は静かだった。

母も“ゆき”も既に眠っていた。あれ程、母に、“ゆき”を養育されることを毛嫌いしていた私が、一身上の都合で、母を便利に使っている心苦しさはあったが、現状ではベストな選択だった。

週に二日、田沢さんが顔を出してくれた時に、母は高円寺のマンションに帰宅して、洗濯物などを片づけているようだったが、今のところ、不平不満は聞かれなかった。

彼女の性格から、嫌なことを我慢する積りはないだろうから、母が、何か言ってこない限り、現状を維持しておけば良いのだろうと、親心に胡坐をかいた。

母の部屋を横目に見ながら、私は、階段を昇った。そして、コートを脱がずに、有紀の部屋のドアを開けた。

私が顔を覘かせると、“待った!”と、手の平を向けて、話すなと、機先を制した。

私は、有紀のオマジナイのような瞑想が終わるまで、ジッとベッドに横たわる、36歳の独身女を見つめ、立ち尽くしていた。

「ああ、もう良いよ。どうだった、楽日は?」

「大入りの500円玉配られたから、まあまあじゃないのかな?」

「そう、今度は動きの少ないのにするから、帳尻合わせて」有紀は、自分のシナリオが、演技者に過大の肉体的疲労を与えていることを知っていた。

ただ、有紀が、なぜ、あのように動きの激しいシナリオを用意したのか、何となく理解していた。副座長の福田君が、繊細な演出で立ちどまらずに済むようなシナリオを書いていた。

演技者には過酷だったが、演出担当にとっては、意外に楽な展開のシナリオだった。敢えて聞く必要もないが、有紀の自然体から出てくる、優しさなのだと理解していた。

「今日は楽日だから、行くつもりだったんだけど、途中で閃きがあったから、サボっちゃった。怒っている人いたかな?」

「いないけど、福田君には、ひと言かけてやっても良いんじゃないの」

「大丈夫、もう電話でフォローしておいたから」

「ところで、その“閃き”って、何なのよ?」
つづく

いつもクリックありがとうございます!
ブログ村 恋愛小説(愛欲)

アダルトブログランキングへ
FC2 Blog Ranking

P1020108j.jpg

プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

最新記事
rankig
応援してくださいね!

FC2 Blog Ranking

目次

cover-1.jpg

人妻のからだ 』(中編)

終着駅 』(長編連載中)

リンク

最新コメント
月別アーカイブ
カテゴリ
カレンダー
03 | 2024/04 | 05
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 - - - -
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

アルバム
RSSリンクの表示
検索フォーム
QRコード
QR