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終着駅503


第503章

有紀のバギナにも、一方の疑似ペニスが挿し込まれていた。薄明りの中で、有紀はオーガズムに到達しようと、独りで努力していたようだ。

なぜ、こんな状態になっているのか、考えている余裕はなかった。自然に身体が動いた。

パートナーがイケなくて苦悶しているのであれば、それを手助けしてやるのは相方の優しさだった。

私は、半分寝ぼけた身体を起こし、有紀に代わって正常位の態勢で上になった。シリコン製のWディルドは、その点で自在だった。

“ゴメンね、ゴメンね”と有紀は意味不明に謝罪の言葉を、小さく連発していた。

「謝る必要ないよ。イイの?」

「うん、イイ。イケそうだよ」

「よし、ガンガン責めるからね、イクのよ」私は、乱暴に、互いのバギナに刺さっていたディルドを圧しこめるように強く動き、何度か繰り返した後、有紀の最後の瞬間を待った。

有紀の指が、私の二の腕に食い込んだ。

そして、有紀の最後を示す弓ぞりの態勢を維持し、貪欲に、4,5回頂点を味わい、ディルドを挿したまま、ドサリとベッドに倒れ込んだ。

下腹部が大きく波を打ち、時折、思い出したように、オーガズムの波が打ち返していた。

私は、夢中で有紀をイカセている内に、完全に目覚めた。

自分の股間からディルドを抜き取り、有紀のディルドも抜き取った。抜き取る時に、有紀は、もう一度小さな快感を憶えてようだが、其の儘、眠りに就いていた。

此のまま寝かせてしまっても、構わない。しかし、朝になれば、“ゆき”がオハヨウ!とドアを覗く。

多くの場合、母が付き添っているので、余計に厄介だ。私は、取りあえずディルドをベッドの下にタオルで包んで隠した。

いつもの有紀なら、小一時間ほどで目覚める筈だった。

私は、デスクのスタンドを点けて、読みかけのジョージ・オーウェルの『動物農場』を読みだした。

この小説は旧ソ連の社会を皮肉った全体主義に対する批判小説だ。

でも、オーウェルの政治的メッセージを乗り越えて、今では、全体主義や国家主義的権力が、どのような場合でも時間とともに腐敗してゆく様を、知らせている。

だいぶ昔、アニメ・動物農場が公開されていたが、社会主義も資本主義も、結局は同じく、権力者が現れ、支配構造が出現すると云う感じに変えられていた。

私たちの舞台に乗せることは難しそうだが、同じ作家の『1984年』の方が、同じテーマでも、断然舞台劇の原作になりそうだ。

ただ、有紀が得意とする分野とは相当に異なるジャンルの話なので、舞台に乗せるつもりなら、いつの日か、自分で書いてみるしかなさそうだった。

私は、そんなことを考えながら、有紀が起きるのを待っていた。数回、寝返りを打ったので、そろそろ、“イッちゃったよ”と気怠い呟きとともに、有紀は目覚める筈だった。

「イッちゃったよ」案の定、有紀はシーツに包まれたままの裸身を寝返らせながら呟いた。

「珍しく、前向きだったね?」

「明日の為に、奮い立たせたの……」

「明日のために?」

「そう。明日の授精に、リアリティーを注入しておきたかったの。

もし、明日成功したら、それって、姉さんの精子で妊娠したようなものだからね」

有紀の話している理屈はメチャクチャだったが、私も、同じように共感できた。
つづく

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終着駅502


第502章

「話が横道にそれたけど、妊娠したかどうか、どのくらいで判るの?」

「2,3週間したら、妊娠検査薬でもたしかめられるって。今回、着床している保証はないから、次回の為に、排卵チェッカーも使うだろうから、別々の容器でたしかめてって」

「自力で確認するのね?」

「着床を確認できる超音波エコー装置とか、浜田先生のとこにはないから、そう云うことになるね」

「あぁ、内科クリニックだものね」

「そう、敬老会の会場に迷い込んだみたいだったよ。それでね、妊娠検査薬で反応が出たら、空とぼけて、櫻井先生の診察を受けろって言っていたよ」

「へー、そう云う話は聞いてなかったけど、ただ単に、妊娠したと云うことだから、櫻井先生でも大手を振って処置は出来るってことね……」

「そう、人工授精の処置は出来ないけど、妊娠出産の処置に、何の支障もないから、そう言っていたよ」

二人は、今にも有紀の人工授精が成功して、それからの話にまで及んだのだが、思うような結果は得られなかった。

4回目の人工授精処置をしに行く前夜、私が寝ついてからだから、午前2時を回っていたと思うが、有紀が、私のベッドに潜りこんできた。

「下半身だけにして……」私は、寝ぼけた声で、有紀に下半身だけを預けた。

脳に近い方を触られると苛立つ感じがあったが、不思議と腰から下の方は、睡魔に襲われると、切り離された肉体のようになっていた。メカニズムは判らないが、上半身と下半身が個別の生き物になっていた。

現実には、有紀の舌先によるバギナへの愛撫が、快感を伴っているのだから、脊髄を通じて、大脳にまで伝わっているのだろうが、快感を伴う睡眠に入ることが出来た。

下半身への愛撫は、執拗だったが、私は、下半身を有紀に貸したまま、眠っていた。

いつもなら、目覚めて、有紀にお返しの愛撫をしているタイミングだったが、舞台での動きが多い劇だったので、体力を消耗していた。

有紀が、突然、ベッドを離れ、部屋から消えた気配がした。

一瞬、その気配に私は目覚めたが、再び睡魔の虜になった。

次の気配で目覚めた時には、既に、私のバギナに、何かが突き刺さっていた。

Wディルドだった。

あれだけの太さのものを挿し込まれても気づかなかった私の熟睡も相当なものだが、出産後、幾分バギナへの関心度が下がっている自分がいる事実もあった。
つづく

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終着駅501


第501章

「今日、例の内科の浜田って先生が言っていた事が気になっていたの……」

「何て言われたの?」

「5,6回で上手く行かない時は、残り僅かだから、次の手段を考えないとねって」

「それって、どう云うこと?」

「姉さん聞いてないの?」

「残された精子の量が、8回分だけだって……」

「どうだったかな。聞かされたかもしれないけど、どのくらいの量が残されてるのか、そもそも、興味がなかったから、覚えていなかったのかも……」

私は、嘘をついた。凍結保存精子が8回分しかないのは、櫻井先生から聞かされていた。

なぜ、その事実を有紀に伝えなかったのか。それには、私の意志が明確にあった。意地悪な意図はなかった。

私と、そして有紀の、運命の回答が出されるわけだから、運命論者である以上、ただ、その結果を受け入れれば良いだけだった。

「まあ、5回も試して、失敗だったら、私は妊娠できないって思えば良いわけだからね、それはそれで受け入れる積り」

「8回分あるんだから、残りも、全部挑戦すれば良いんじゃないの?」

「そうだよね。
ただ、浜田先生が言うには、5回の内に授精が起きない場合は、統計的には、それ以降も期待できないらしいのよ。
だから、どうしてもと云う考えがあるようなら、残りは、体外受精や顕微授精の選択が可能なように残しておいた方が、そんな話だったよ」

「常識的な結論だよね。
有紀の気持ちを別にすれば、私は、竹村の凍結保存精子で、自然妊娠に近い方法での授精だったら、心から歓べると感じていたの。
でも、体外受精とか、顕微授精となると、なんだか、強制的な受胎って感じになって、運命的ではなくなるのが、どうも納得できないかなって……」

「私も、その考えに賛成。
子宮に精子を注ぎ込む程度なら、リアルさはないけど、自然の流れに、途中省略で、横入りするようなものだからね。
それこそ、上手く行くかどうか、運命だもの。だから、そうでなきゃ駄目なのよ。竹村さんの精子が、まあ、この女の子宮でも良いかぁって思ってくれなきゃ、私の立場もなくなるし……」

「有紀が、竹村の精子を頂戴って言ってきた時は、正直、何を考えているのか、見当もつかなかったからね。
でも、不思議だけど、今になると、上手いこと、バシッと決まれば良いなって、思ってるからね」

「仮の話だけ、“ゆき”と産まれてくる子は、本当は腹違いの兄弟姉妹なのだろうけど、従姉妹関係で育てたいけど、構わない?」

「構わないけど、どうして?」

「生まれてきたことで、法的に問題が起きたりするのは嫌だなって思うから……」

「あれでしょう。死後認知とかいうやつよね。その点が、厄介になるかもしれないって、金子さんは……」

「どうして?未婚の滝沢ゆきが売りなのに、その父親が判っちゃったら、意味ないのだから、認知の要求なんてするわけがないでしょう。
それとも、彼は、私のこと欲深い女だと判定したのかな?ケシカラン!」

「違うの、私が、こう云う場合、生まれた子に、竹村の権利は相続できませんかってね。その流れで、出てきた話だよ」

「それで、こう云う場合認知可能なの?」

「不可能ではないけど、現実的には不可能に近いかな。死後認知って、その認知確認の判定を検察官がするんだって。
竹村の毛髪とかがあれば、それでDNA検査ね。本人のがなければ、近親者、我が家で言えば、“ゆき”のDNAと照合する。
それから、当該死亡者と、そういう人間関係にあったと云う証明のようなものも必要になるかもよ」

「随分と公になっちゃうし、父親が判っちゃうから、その考えはパスだね」有紀は、思った通り、竹村の財産云々に興味はないようだった。
つづく

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終着駅500


第500章

そんな或る日、稽古を終えて家に戻ると、有紀の姿がなかった。

母が“ゆき”に一階の和室で、絵本を読み聞かせていた。

「おや、早かったね」

「母さん、もう”ゆき”は、寝てるみたいよ」寝込んだ”ゆき”を抱えたままの母に小声で囁いた。

「この子は、本当に手がかからない子だよ。五分もしない内に寝てくれるんだから・・・・・・」

「有紀は、どこかに出かけたの?」

「いや、夕方帰ってきて、少し熱があるからとか言ってたから、部屋にいると思うけど・・・・・・」

「そう、風邪でも引いたのかな?」

私は、無関心を装い、あっさりと受け答えした。

そして、有紀が遂に、人工授精を受けたのだろうと察した。

しかし、寝込む程の施術ではない筈なのにと思ったが、母に疑問をぶつける話題でもなかった。

何となくキッチンの椅子に座り込んで、テーブルに出されたままの煮物の大皿を見つめていた。

特にお腹は空いていなかったが、里芋を爪楊枝で口に運んだ。あいかわらず、母の煮物の腕は落ちていなかった。

大根もほどよく柔らかく、味も浸みていた。イカが、どうして、俺のことを食べないのだと抗議していた。

「特別、よけ者にしていないよ。ただ、今は大根と里芋が食べたいだけよ」私は、自分の実を反り返らせたイカ大根の烏賊に話しかけた。

そのとき、階段を降りてくる足音が聞こえた。今夜の主役のお出ましだった。

「あぁ、お帰り。稽古順調なの?」

「そうね、今のところ注文が出ていないから、順調なんだと思うよ。今回は、新人が多いので、少し心配だったけど、大丈夫みたい。有紀のシナリオにしてはドタバタが多いから、気分転換にはいいわね」

「姉さん向きじゃないかもしれないけどね・・・・・・」

「それは、それよ。私の違った側面の発見には役立つだろうから、ちゃんと演じているつもりよ。大声を出すシーンが多いから、ちょっと声が枯れているけどね」

「やっぱり、喉枯れる?」

「でも、周りは気づいていない範囲だと思うよ」

「それなら大丈夫よ。まあ、煙草は控えめにね」有紀は、ほんの少し前まで、自分が苦労していたことを、人ごとのように話していた。

「熱は下がったの?」

「あぁ、あれは方便よ。今日は、例のところに行ってきたの」

「あぁ、あそこにね。それで、体調おかしいの?」

「違う違う。落ちこぼれないように、身体を横にしておきたいって、思っただけよ」有紀は、非科学的なことを口にしたが、その気持ちは理解出来た。

「あれって、そんなに安静にしていないとイケないわけ?」

「ううん。十分もしない内に、もうお帰りになって良いですよって、あっさりと言われたよ」

「あっけなく?」

「そう、何事もない感じでね。あんなことで、私、妊娠したら、処女懐胎なんて、シナリオ書きたくなるよ。リアルな何事も起きていないのだから・・・・・・」

「感覚、ゼロなの?」

「そうね、子宮頚を、通る時ちょっとチクリとしたかな。そのあとは、何にも感じない。時間にすると二分程度でおしまいだなら、頚ガンの検査より断然痛みはないよ」

「そうかぁ、たしかにリアリティーはないね」

「ホントよ。処女なのに妊娠してびっくりする娘の心境だよ」

有紀は、リアリティーのなさを嘆いた。

私は、こんなことになるのなら、竹村モデルの“張り型”でも作っておけば良かったと思ったが、口には出さなかった。
つづく

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終着駅499


第499章

私の不安は、消えていなかった。有紀の遊び心は、時に、度を過ぎることがあった。

有紀の悪魔的遊び心の中に、腹違いの子供たちの間で、私たちが経験したような相関図を期待しているのではないかという疑念を、聞き出す勇気はなかった。

問いただして、あっさりと、有紀が、その遊び心を認めた場合のリアクションに、自信がなかった。

無論、私には、その企みを、悪魔的だと糾弾できるほど、厚かましい神経もなかった。

結局、その企みを追認してしまう自分がいることを自覚していた。

問題は、竹村の遺した凍結保存精子の量は、8回分に限定されていることだった。

その8回分を使い切る間に、有紀が妊娠しなければ、永遠に竹村のDNAは枯渇する。

このよう場合、櫻井先生の意見では、顕微授精や体外受精が選択されるのが通常のようだったが、その施術には、それ相当の不妊治療病院であることが必要だった。

その選択が無理な以上、有紀は、8回分の自然妊娠に近い方法によって妊娠するしか選択肢がなかった。

私は、その事実を、有紀に意図的に伝えていないかった。

有紀が、その事実を乗り越えてでも、妊娠するのであれば、それは、運命的なファクトとして、心から引き受けるつもりだった。

いつから、私が運命論者になったのか判らないが、竹村が、自分の人生に私を引き摺り込んだ時に始まり、病魔に襲われることで、決定的な転換が起きたのだろうと理解していた。

その変化は、嫌なものではなかった。どちらかと言えば、心地よく、自分の運命の海に浸ることが出来た。

その運命の海は、北極海のような荒々しさもなく、冷たくもなかった。

その海は、南洋の島々にある、島影の入江のようだった。

ただ受け入れるだけで、生きていくことが出来る。

あれこれと、選ぶことに迷う必要もない。そして、その結果に幸福を感じるのも、不幸を感じるのも、運命と云う絶対的力によって支配されるのだから、私は免責される。

有紀に伝えなかった事実は、特に、私が意図して作りだしたものではない事実だった。

だから、伝えても、伝えなくても、その事実は変らなかった。

有紀の場合、排卵誘発剤を使わないので、排卵日を、基礎体温と排卵チェッカーで確認する必要があった。

超音波による、排卵日の特定などの不妊治療施設では行われるが、それも実施できないので、自己管理が必須だった。

“一か八かだね”

有紀が、大まかな私の話を聞いて、呟いた言葉が印象的だった。

私も、有紀と同じ気持ちだった。

運命に身を任せると云うことは、そう、常に“一か八か”なのだと……。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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