第80章「バカバカしい妄想よ」私は、有紀に笑われそうな妄想を思い出して、苦笑いした。
「短絡的想像が一番あり得るのよ。話してみて」有紀が、私の妄想を話せと催促した。
「いえね、美絵さんが家に押し込んできた強姦魔に暴行され、その一部始終を動画に撮られていたのかしらって頭に浮かんだのよ。でも、それって、出来の悪いエロビデオのような話なので、すぐ打ち消したわ」
「そうか、それだよ!いいこと、流れは相当違うけど、浮気の相手との情事の様子が、盗撮されていたのよ」
「美絵さんが、浮気していたかどうかも判らないのに、そこまで想像するのは、チョッと飛躍じゃないの」
「いいのよ。私たちは刑事でも検事でもないのだから、証拠なんていらないの。美絵さんに起こったかもしれない事件を想像して、彼女の死に納得できればいいわけでしょう。少なくとも、現時点では自殺を疑う状況なんてないんだから」
「そうね、考えてみると、私たちが考えていることは、美絵さんが、なぜ死んだかであって、犯人が誰かって問題じゃないものね」
「そう、圭の姉たちとして、奥さんだった美絵さんの自殺の原因を想像しているだけよ。でも、そうしている事で、美絵さんの自殺の衝撃が、なんとなくワンクッション加わることで、冷静に受けとめられるように思うからだと思うの」
「なるほど、心理的には、そういう事を私たちはしているわけね」
「だと思うよ。だって、彼女は自殺したんだから、犯人なんていないわけでしょう。自殺の原因になる、或る出来事はあったかもしれないけど、その出来事が犯人なんて主張も出来ないんだし…」
有紀の頭は、私より断然冷静だった。美絵さんの自殺の原因が何であるか考えているのは、自分たちの心を落ち着かせるためのもので、特に正義感とか、探偵根性から生まれていることではなかった。突き詰めれば、気休めのようなものだった。
ただ、気休めと云うと不謹慎なわけで、一種の弔いの一形態に過ぎないのかもしれなかった。
「ねえ、お風呂入って、また話の続きしようよ」私はバスタブのお湯が冷めきっているのを思い出し、立ち上がった。
流石の有紀も性欲がないらしく、迫ってくる雰囲気はなかった。無論、私もなかった。
バスルームの中でも、美絵さんの話題に終始していた。やはり、身近な人間が死んでしまう、それも自殺となると、一歩離れている筈の我々も巻き込まれずに済むことはなかった。
「だってさ、盗撮でもされて脅かされていたんじゃないと、彼女の“辛さ”を説明できないんじゃないの」有紀は、盗撮説に拘っていた。
「でも普通、盗撮をネタに脅すって、金銭を要求するんじゃないの?」
「そうね、金銭になるのが普通だわ。でも違う要求だってあると思うの」
「たとえば?」
「たとえば、美絵さんが別れようとしたけど、相手が別れたくない。だったら、この動画を旦那に送りつけるとかさ」
「そういうこともあるだろうけど、当面は、時々関係を続ければ済む話じゃないの、別に緊急性があるとは思えないけど…」
「もしかしたら、売春とか強要されたんじゃないのかな?」
「売春を強要されるって、それどういう意味?」
「だからさ、動画を晒されたくなかったら、売春しろとか…」
「まさか幾らなんでも、そんな変な男を選ばないでしょう。彼女が決心するとしたら、圭を裏切っているって実感の湧く相手を選ぶんじゃないの。仮に、面当てで不倫したとしてね」
「そうか、裏切っていると実感できる男と寝る。それ良いね、凄く私好み」有紀は途中から、美絵になり切った感じで推理を愉しんでいた。有紀と美絵さんは違うだろうが、女の怒りの性質みたいなものを知るのには役立ちそうだった。
「馬鹿ね、そんなアグレッシブな気持ちで、彼女は不倫に走ったわけじゃないと思うけど…」
「それはそうかもしれないけど、そんなことさ、選ばれた相手は、気づくわけないじゃん」有紀は乱暴に言い放ったが、その発言は核心に迫っていると思った。
「そうか、旦那への面当てに利用しただけと、美絵さんが、ストーカーの様になりだした男に告げてしまった。それで何となく趣味で隠し撮りをしていたビデオを持ちだし、関係の継続を強要した」
つづく
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