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終着駅87 美絵だよ…圭が呟いた。


第87章

「美絵だよ…」圭がひと言呟いた。

「そう、美絵さんなのね」私も、感情を押し殺して、圭の言葉に反応した。

すべてが止まった時間が続いた。どのような感情や思いや考えが、圭の体内を巡っているのか、私には判らなかった。ただ、今は、そういう時間が必要なのだろうと感じていた。

私に、今できることはなかった。出来ることは、圭の近くにいてやることだけだが、それで良いのだろう。こういう時に、言葉と云うものは、ほとんど役に立たない。いや、逆に物事を悪い方向に向けてしまう方が多いのだろう。

「俺、ビール飲むけど、姉さんどうする」圭が、動画のことを忘れたように立ち上がった。

「ビール?車で来たのよ、大丈夫?」

「大丈夫、そんなに飲まないし、まだ帰りたくないしさ」

「それなら良いけど、じゃあ私も一杯くらい飲もうかな」

「姉さん、遅くなっても大丈夫?」

「私は大丈夫だけど、アンタの方こそ、大丈夫なの。藍ちゃんは、どうしているの」

「美絵の実家で預かってくれているよ。ママは病気で病院にいることになっている。遺体が戻ってきたら、死んだって話をするしかないんだけど…」

「そう云う難題があったね。そうか、話すの辛いね」

「うん。そう思ったのかどうか判らないけど、あっちのお母さんが、それは私の役目だから、アンタは、あまり説明しないようにって言ってくれたんだよ」

「そう、それで済めば良いけどね。なんか、藍ちゃんのこと考えると、ため息が出ちゃうね」

「そう、死んでしまった美絵のことを考えて苦しいときは、いま目の前で生きている藍のことを考えるようにしていた。それなのに、皮肉だよな、こんなものが送られてくるなんて」

「この動画って、どういう意味があるのかしら?」

「うん、考えてみたのだけど、この送り主と云うか、撮影した奴は、美絵の自殺を知らないんだと思う。だから…」

「そうよね、美絵さんの事を知っている人って限られているものね」

「そう、身内以外はだれも知らない…」

「そう云うことか。それで、その誰かが、美絵さんがメールに返事も寄こさないので、腹立ちまぎれに…」

「嫌がらせをしてきたって考えることは出来る…」

「つまり、美絵さんに対して、俺は本気だぞっていうメッセージを出したわけか…」

「もし、恐喝だったら、次に、このビデオを流されたくなかったら、金を出せってのが普通だけど…それなら、美絵に送りつけるのが筋なんだよな…そこんところが判んない…」

「あのさ、あの日の夜、有紀が止まりにきて、話したのよ」

「そうだったのか。それで、有紀ねえさんが、お得意の推理力を働かせたわけだね」

「そうそう、私も頑張ったけどね」

「それで、このような流れも想定されていたの?」

「盗撮でもされたんじゃないのかって推理まではいったわ。でも、それ以上はグタグタな推理で、推理って程じゃなかった…」

「いずれにしても、俺に送りつけて来たっていうことは、関係があからさまになっても構わないって事だよね。だったら、これは恐喝ではないことになる」

「そうね、アンタ達の家庭が崩壊することを意識しているとも言えるね」

「そうなんだよ。この撮影者は、金が目的ではないってことだよ」

再び、沈黙の時間が流れた。

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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