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第155章
その夜、顧客である敦美は、狂ったように俺を求めてきた。
敦美が本当に欲情していたのかどうか、それをたしかめる術はなかったが、俺に対して射精を求めてきた。
敦美がピルを飲んでいる話は聞いたことがない。しかし、その夜、今までは膣外に射精していた行為を阻んだ。
俺は、それがどのような意味持つのか、聞きそびれた。
いや、子供が出来たとしても構わないと、心のどこかで考えていたような気もしたが、その辺は不明瞭だった。
その夜、俺は二度目の射精を済ませて、敦美のマンションを出た時には、新聞配達員のバイクが活動する時間だった。
車に戻って、俺は初めて考えた。
敦美は、何を思って、俺に射精を要求したのだろう。一時の感情の噴出だったのか、意図した行動だったのか。
俺は前者を選択して、自分を落ち着かせた。
しかし、仮に、一時の気まぐれだとしても、意図的であったとしても、妊娠の可能性を否定するものではなかった。
君が要求したから射精した、という言い訳は通用しない。
仮に、敦美が妊娠した場合、腹の中の子は俺の子ではないという主張は、子供が産まれてから言えることだが、事実関係からして、おそらく俺の子である可能性は、ほぼ確実だった。
つまり、敦美が今夜の出来事で、妊娠したという仮定で、事実関係を整理しておく方が合理的だった。
敦美が妊娠したとして、俺に認知を求めてくる可能性はあるのだろうか。敦美には、経済的に認知の必要はないが、何らかの事情で認知を求めてくる可能性はあった。
であれば、認知を請求された時、俺は、どうすべきかという問だった。
まさか、おまえが射精を要求した結果に過ぎないと主張できるだろうか。そんなことは言えないだろう。どうも、敦美の要求が通りそうだ。
となれば、敦美の子供を認知するとして、女房に、どのように話を切り出すか考えた。
あっさりと容認する可能性が高い。しかし、案に相違して、激高して離婚だと騒がないとも限らない。
離婚……、それはないだろう。そこまで、貞操観念を求めるような言動がなかったのだから、今さら、そのような要求は筋が通らない。
いや、離婚を持ちだされて、慌てるのは醜悪だ。その時には、潔く離婚に応じれば良いだろう。
財産分与を要求されたら、彼女の望むようにしてやれば良いだけだ。
半分以上の財産を要求したなら、妥当な限り、その要求に応じるだけだった。
俺のような職業は、才能までは分与の対象にならないのは嬉しいことだ。
洗いざらい奪われても、稼ぐ才能までは分与されないので幸運と言えば幸運だ。
ここまで考えて、なんと小心な心配をしているのかと、己を呪った。
そもそもが、敦美が認知を要求してくる可能性があるかどうかも判っていないわけで、杞憂そのものだった。
いや、杞憂以前の話で、二度、膣内に射精したくらいで、受胎後の心配までする男に酷く腹を立てた。
何度かハンドルに頭を打ちつけたが、痛みはクッションに吸収されて、俺にショックを与えてはくれなかった。
それでも何回か打ちつけていくと、けたたましいクラクションの音で我に返った。
つづく