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終着駅ー2

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第2章

 その出来事は五年前、二人の間に偶然訪れた。人一倍明るい性格の弟が、いつになく沈み気味だった。数日は見て見ぬ振りをしていた。どうせたいした事じゃないだろうと誰もが思っていた。それから十日近くが過ぎても、圭の落込みは酷くなる一方だった。さすがにアネゴ気取りで圭を子分扱いしていた私は責任を感じてしまった。
 家には誰もいなかった。そういう状況の方が、私も気楽に尋ねられるし、圭も答えやすいと思った。いつも通り、私は圭の部屋をノックした。ノックと同時にドアを開けるのだから、ノックの意味があるのかどうか判らない。ただ、突然開けたわけじゃない程度のエクスキューズに過ぎなかった。
 「圭、コーヒーでも入れようか?」圭は、高校時代から使っているシングルベッドの大きな体を横たえていた。
 「うん、俺少しで良いかも」
 「飲まなくても良いってこと?」私は無頓着な姉を演じるように努めた。
 「いや、飲みたい。でも、少しで良いような感じ」
 「フーン、変な注文だけど、飲みたくないと云うよりマシだね」兎に角、私はいつものようにコーヒーを淹れた。
 ドリップ式のお手軽器具だが、香りだけは十二分に美味しい感じの仕上がりになっていた。せっかちな私は、誰も帰って来ないうちに、取りあえず、圭の落込みの原因だけは聞き出しておきたかった。180度違う態度になっているのだから、本人だって、その影響が家族に及んでいるくらい知らない筈はなった。
 「涼ねえさんのコーヒーはいつも美味しいよ。」圭が一口啜って答えた。
 「あんたさ、随分悩んでいるようだけど、悩んだら解決しそうな問題なの」私は単刀直入に聞いた。
 「うん、悩めばわかると云うより、コツのようなものが判れば解決する、そんな感じの問題だよ」
 「じゃあ悩むより、そのコツを見つければいいだけでしょう。彼女とのこと?」
 「彼女のことと言えば、最終的にはそうなンだけどさ、もっと一般的な問題なんだよな」
「なによ、ハッキリしない話ね、どういう意味?」私にとって、圭の言葉はその時点で意味不明だった。圭がなんのコツを知りたがっているか知っていたら、それ以上の相談に乗らなかったかもしれない。
 「まあ、自分でなんとかするよ。出来るだけ、これからは普通に振舞うからさ。気を遣わせてゴメン」相変わらず神妙に受け答えする圭に、私は幾分苛立っていた。
 「自分でなんとか出来ることなら、さっさと調べたり、試してみたり、エクササイズするしかないでしょう」私の苛立ちは、いつも通りに乱暴に圭を扱った。
 「涼ねえさんに相談できるような事だったら、俺だって悩まないさ。それが出来るなら、真っ先に話しているさ、涼ねえさんに相談できないから悩んでるンだよ!」圭にしては反抗的な口調だった。しかし、反抗をしていると云うより、激白しているような、悲鳴が含まれていた。私は、どうにかその場を繕っておきたかった。しかし、弟の親分的存在の片りんも見せずに、その場を去る勇気もなかった。
 「ねえさんに話せないほどヤバイ話なの?いいわよ、滅多なことでは驚かないから、話してみなよ。私の出る幕のない話なら、ねえさん速攻でギブアップするからさ。話すなら今のうちよ。いまに皆帰ってきちゃうよ」私は、意味もなく、圭を追い立てた。
 「笑うなよな。笑ったら、二度と涼ねえさんと話さないからな」
 「笑うわけないでしょ。アンタの大切な悩みだもん、真剣に聞くよ」私はこの時初めて、圭の悩みが、性的なこと?と云う危惧を持った。でも、矢を放ってしまった以上、元に戻すことは出来そうもなかった。
 「じゃあ話すよ。もし、問題外の悩みだったら、黙って部屋から出ていって、頼むよ」
 「了解、さあ話して」この時点で、圭の悩みが性的に違いないと確信した。でも、今更引き返す勇気もなかった。親分ねえさんのメンツの問題だった。
 「笑うなよ、絶対に笑うなよ」圭が深刻な口ぶりで、ひどくおかしなセリフを口にしていたが、私は真剣な顔つきを保った。
 「俺さ、経験ないンだよ。エッチのさ…」圭がぶっきらぼうに話した。やっぱり、そういう悩みだった。ヤバイなあ、と思ったけど、そこで、圭が望んだように、部屋を後にする勇気もなかった。聞くしかない、私は自分に強く命じた。
 「そうなンだ、でも最近の男って、意外に多いって聞いてるよ」私は衝撃を受けていない顔つきを保っているつもりで、一般論を口にした。
 「そうかもしれないけど、皆がそうでも、今の俺には慰めにもならないよ。現に、俺の目の前には、美絵って彼女がいるわけだからさ。彼女と上手く行かないことは、致命的なンだよ」
 「そういえば、そうね。一般論関係ないか。で、彼女とは未だってこと?」
 「いや、三回トライした」
 「でも、すべて上手くいかなかった」
 「上手く行かなかったのかどうかもわからない。自分でも、良くわからないけど、ちゃんと入っていた感じはあるし、出た感じもある。でも、何もなかったような感じもする」
 「はい?どういう意味なの?ちょっとさ、禅問答みたいでわかりにくいな」
 「たしかに。自分でも、どんな風に話して良いのかがわかんないから自分がおかしくて笑えてしまう。」
 「笑い事じゃないのはたしかね。でも、もう少し、その過程のようなもの、具体的に話してみない?」
 「その方が良いのかな。ラブホに入ったところから話してみようか」
 「シャワーとか浴びて、ベッドに二人が入った時点からで良いんンじゃないの」
 「それもそうだね。で、取りあえずキスしたり、胸を触ったりしながら、あそこに手をまわしてみた。指先で濡れているのもたしかめたので、挿入しようとしたンだよ」
 「そう、そこまでは大きな間違いはないわね」
 「俺も、これなら大丈夫だろうと、俺のアソコの先を、美絵のアソコにあてがったンだ」
「そこも間違いじゃないね」
 「で、入り口に侵入しようとしたンだけど、阻まれるンだよ」
 「阻まれるって、彼女が嫌がるってこと」
 「いや、そうじゃなくて、そこから、どんな角度で進んでいいのか分からないから、戸惑ってしまうンだよ」
 「入り口まで達したら、後はグイグイ入って行けばいいンじゃないのかしら」
 「いや、痛がられたら困るから、出来るだけ負担を減らした方が優しいのかなって思うと、無闇に突入って気になれないンだよ」
 「変だな~、勃起したペニスの先が入ったら、勝手に道なんて出来る筈だけど…」
 「問題の一つは、その勃起かもしれないんだよ。なんだか、オナニーしている時よりも、ぼんやりとデカイだけなンだよ。絶対に硬いって言いきれない」
 「そうなンだ。多分緊張で勃起が不十分なうちに、挿入しようとするからじゃないの?」
私は、もう逃げられないと覚悟したので、思いっきりリアルな表現で、事態を把握しようと思った。
 「正直、美絵を相手にすると、勃起が行ったり来たりしている感じなのさ。出来るだけ、硬いうちにと思うけど、思っているうちに、硬度不足になっているのかもしれない」
 「圭、アンタさ、自分でオナニーしているときも、同じこと起きてるの?硬度が増したり減っちゃったり」
 「多分ない。最後まで硬いままだと思う」
 「だったら、悪いけど、彼女のバギナで、オナニーするつもりになってみたら。相手の状況がどうなっているとか、これで良いのだろうかとかさ、そういうこと忘れて、とにかく一回オナニーをしてしまう、そういう気持ちになったら」
 「相手の人格を無視しちゃうわけだ」
 「そんな難しく考えたらダメだよ。そこまで行っているンだから、彼女は何をされるかなんて、覚悟はできているのよ。相手がどう思うか、それは二度目に考えるべきよ」
 「獣のように、ただ、入れて出しちゃえばイイってことかな」
 「決まってるよ。一回目から、見事なセックスする男なんていないよ。だんだん、馴染んできて、その女性がどのようなことを好むか、嫌がるか、そういうのは、それからよ。頭でっかちなセックスはダメだよ」
 「初めての時、そうしておけば良かったンだろうけど、今更、好き勝手にってのも、なんだかさ」
 「今からでも遅くないから、ソープだとかデリヘルとかで、経験しちゃったら」私は実際問題、圭の悩みに困惑していた。微に入り、男性が女性のバギナに挿入する過程や、挿入した後のことを説明できる知識は持っていなかった。幸運にも、されるがままに快感を得ていた私には、どのように行ったから良かった、と云う説明が出来なかった。
 「まさかあ、美絵がいるのに、そういうところで知識を得てくるってのも、なんだか不純だろう」圭は、演技とも思えない健気さをみせた。美絵さんが聞いたら、きっと嬉しくて感激するに違いなかった。
 「それにしても、三回とも入り口だけで終わったの」
 「それがさ、美絵も初めてらしいンだよ。だから、余計話がこんがらがって、ふたりで途方にくれるンだよな」
 「どっちも初体験か、あり得る話だよね。美絵さんって結構積極的だから、遊んでいたと思っていたけど、違うのね」
 「そうなンだよ、俺も当てが外れたっていうか、ああして、こうしてって言ってくれるのを期待してたンだけど…」
 「情けない人ね、今からでもイイから、デリヘル呼んで一回ちゃんと試しなよ。こういう場合、そういうのって許されるわよ。絶対に裏切りとかじゃないから」
 「そうかな、一度は考えたンだけど、やっぱり拙いかなってやめたンだよね」
 「やめた方が間違いよ。そして、一回でも成功体験しちゃえば、問題ないことよ。いまからでも遅くないわ。ラブホテルに入って、ベテランのデリヘル嬢をお願いしますって言ってごらんよ」
 「ねえさんよく知ってるよね、そういうこと」
 「馬鹿ね、週刊誌とか読めば書いてあるわよ、そのくらい」
 「やっぱり、そういう手段しかないか?でも、デリヘルってのは、やっぱりな…」
 私は、圭が素直な子供であった理由は、単に愚図だったのかもと疑った。そして、逆らわない男の子は、誰かが強烈なリーダーシップで引っ張られないと、自己決定出来ないのだろうかと疑った。
つづく

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読み応えありそうです

小説もエロ小説ではないようなので、読み応えありそうですね。なかなか、文章もチャンとしていて読みやすい。
アルバムを見たのですが、私の好みの下半身をお持ちのようなので、好色な気持ちも盛り上がります。頑張って書いてくださいね!
プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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