第69章その夜有紀は、“寝る時間がないよ”と言いながら、何度となく浅く眠り、目覚めては、ビアンな愛撫を要求した。
私が抱く、圭への疑惑の話は中途半端なまま、有紀は歪んだかたちで性欲を満たそうとしていた。昔の有紀に対してなら、いい加減にしなさいと言っていただろうが、彼女の過度な状況を思うと、好きなようにさせるしかなかった。
数回に一度、有紀は思い出したように、私へのビアンな行為は忘れなかったが、有紀のように積極的に、その快感の中に埋没は出来なかった。
34歳と32歳の姉妹が半裸でセミダブルのベッドで眠っている光景をカシニョールの版画の女が見つめていた。彼女の表情には、なんて虚しい行為に走っているの、と冷めた目で見つめているようでもあり、出来たらキャンバスから抜け出して仲間に入りたいと言っているようでもあった。
結局、有紀が本格的に眠りについたのは、午前4時を回っていた。
そして午前6時、飛び出すように部屋を出ていった。芸能界で売れると云う事は、時間に追われる事であり、あれでよく自分を見失わないものだと、送り出しながら私は考えた。
圭への疑惑に何らの解決も見られなかったが、それよりも、有紀が安らぐ場を提供したことに満足した。
二人のビアンナ行為は、急場の代用品であり、有紀が本格的にレズビアンの世界に埋没している女だとも思えなかった。きっと、彼女はノーマルな行動様式に、何らかの恥じらいを感じてしまう感性の持ち主なのだと思った。
それよりも、時々マンションに泊まりに来ていいか、と有紀が出がけに言った言葉の方が重みを持っていた。有紀のことだから、時間が出来たら、連絡もなくエントランスの集中案内板を押す可能性があった。
圭と鉢合わせする事態になることもあり得ると私は思ったが、その時はその時だ、見知らぬ関係でもないのだから、それはそれで良いのだろう。
時々、圭を有紀に奪われる杞憂も感じないわけではなかったが、裏切られ続けている美絵さんに比べれば、充分に救いがある感じがした。
時計は午前7時を回っていた。今さら僅かな睡眠をとるよりも、シャワーを浴びて、ゆったりと朝の時間を愉しんでみることにした。
圭の心の中に、どのような複雑なものが隠れているのか、私に把握できることには限界があった。正直、直接本人を問い詰めたとして、圭が、自分の心の中を、適切に表現できるかどうかも疑問だった。
圭がペンネームで使っていた「鬼塚啓二」と意味不明な手紙を送ってきた「鬼塚みやこ」が同一人物、つまり、圭であったとして、私にどんな損があるのだろう。現実に実害はゼロなのだから、疑惑の虜になるだけバカバカしいのかもしれなかった。
有紀にも話さない方が良かったのかもしれない。変に動きすぎた結果、話が複雑になるだけのようにも思えていた。現に、再び圭を有紀と共有するリスクまで抱え、有紀のバイセクシャルな生き方につき合わされる羽目に陥っているのだから、私のどこかに、冷静さを欠いた神経が拡張しているのを感じていた。
もうこれ以上、圭への疑惑を追及するのは止めるべきと、私の中で結論が生まれた。
ただひたすらに、圭のペニスが勃起して、その怒張で、私を官能の世界にいざなってくれる事だけを享受すれば良いわけなのだから。
圭が何を思って、私のバギナに怒張を挿し込んで、性戯を尽くす事実を重要視すれば良い。おそらく、継続的に続けていけば、その快楽が絶えることはないだろう。
つづく
いつもクリックありがとうございます!
FC2 Blog Ranking
アダルトブログランキングへ