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終着駅63 「鬼塚啓二・プロフィール」が気になった


 第63章

 『 すみません、二人とも慌てていたので、姉さんほっぽり出して、留守番までさせちゃって。義父さんは、家の鍵を持っているので、内鍵かけて、寝ていても問題ありません。二階の突当りの部屋が俺の個室だから、自由に使ってください。冷蔵庫の、ビール、酎ハイ、オレンジジュースの新しいのが入っています。それから、俺の部屋は喫煙室ですので、ご自由に。何かあったらメールで知らせてください 』

 なるほどと思った。流石、愛する弟、圭である。私は、メールに満足して、『了解』と一文字打って送信した。

 私は、内鍵をおろし、冷蔵庫から、圭が書いていなかったコーラの缶を持って、二階に上がった。二階には廊下がのびていた。左右にドアが一つずつあり、突当りに、圭が指定したドアがあった。

 左右の扉を開くと、どのような部屋が目に入ってくるのか、好奇心が湧いたが、すんでのところで思い留まる理性があった。

 圭の部屋は、実家の圭の部屋をそっくり其の儘移動したように、馴染のある景色だった。

 これはたしかに落ち着く。

 安住の棲家を提供された私は、圭のシングルベッドに座り込んで、コーラを開けた。そして、一本だけ吸い殻の入った灰皿を見つめた。

 おそらく、家では極力吸わないようにしているのだろう、部屋が煙草臭くなかった。入り口側の壁には、エアコンと並ぶ形で空気清浄機が付いていた。

 私は、すかさず空気清浄機のパワーを入れ、そして窓も開いた。コーラを二口飲んで、煙草に火をつけた。退屈な視線が、いやが上にも圭の部屋を観察していた。

 そして気づいた。小さなデスクの上に置かれたノートPCの電源が点いていた。

 ほっておいても、特に支障はないのだろう。もしかすると、エクセルのデータでも入力している最中に、藍の異変が起きたのかもしれないのだから、切らない方が良いだろう。

 私はそんなことを考えながら、圭は、今でも私の水着姿の写真を持っているのかしらと、ふと思った。

 引き出しに、不用意に入れてある筈もないと思いながらも、腕が勝手に小さな引き出しを引っ張ってしまった。

 当然のことだが、そこにそれらしいモノを隠している類のものは見当たらなかった。私は、ほっとすると同時に、少し寂しい気持ちで、引き出しを閉めた。

 その時、マウスパッドが誤作動したのか、ノートPCの画面がスリープから目覚めた。やはり、想像した通り、エクセルかどうか別にして、罫線グラフが目の前に入ってきた。

 ≪上記のグラフでも示している通り…≫と云う部分で、画面は終わっていた。圭が書きかけのまま、慌てて出ていった状況が、歴然と示されているPCの画面だった。

 しかし、その下の方に、かなりのスペースが残されていることに気づいた。スクロールしてみたい私の衝動は、考えることもなくパッドを操作していた。

 どうも、開いているのはエクセルではなく、ブログサイトの編集画面のようだった。圭の職業である、為替取引のコツや情報を発信しているブログのようだった。

 私は、為替取引に従事している者が、FX取引の情報を流して良いものかどうか、まずそこを訝った。

 どのような立場で、圭は情報を発信しているのだろう。そして、その情報は、有料なのか無料なのか、私は正義感とか関係なしに知っておきたかった。

 スクロールした最後の行に、「鬼塚啓二・プロフィール」と云うコンテンツがあった。

 プロフィールを読み限り、圭が為替取引のプロとして発信しているわけではない、と知った。国立大学経済学部卒は本当だった。その他は、かなり脚色されているので、滝沢圭だと特定できる内容ではなかった。

 しかし、そのサイトが有料だと云うことが判ると、どこか圭と云う弟に、私の知らない側面があるようで、胸騒ぎがした。

 特別、具体的にどうこうというわけではないのだけど、知らない圭の人格を盗み見た、嫌な気持ちに支配されていた。それに、「鬼塚啓二」と云う圭と縁もゆかりもないペンネームが気になった。

 私は、スリープ状態になっていたページまでスクロールさせ、PCから遠ざかった。なぜかもう、その机に近くには行ってはいけない強迫間に満たされ、ベッドの上で小さくなっていた。

 その時、チャイムが遠くに聞こえた。多分、義父さんだろう。
 つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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