第83章“ソバ湯ください!”と、私はかなり大きな声を出していた。押し黙った感情がプツンと切れ、知らずに声が大きくなってしまったようだ。私は、今さら言い訳のしようもない気恥ずかしさを感じながら、蕎麦湯を飲み、喉につかえた違和感を飲み込んだ。
その時、また携帯が鳴りだした。“母さんもしつこいな”と思いながら画面を見つめたら、圭からだった。
『もしもし、いま店だから、五分後にかけ直すから』私は、携帯に囁くと、残りの蕎麦湯を飲み干して店を出た。あまり、歩きながら携帯を使わない私も、今はかけるべきだと思った。
『あっ私、さっきはゴメンね。美絵さんが返ってきたの?』
『それはまだ。たださ、妙な事が起きたんだよ、姉さん直ぐには会えないよね』
『すぐは無理だけど、定時に退社は出来るわ。5時半ジャストには出られるけど』
『そう、だったらさ、会社の近くまで車で迎えに行くよ。どの辺で待てば良いかな』
『だったら、明治通りじゃなく、新宿通りの方で待ってて。ハッキリした位置は、後でメールに入れておいてよ。45分にはつけるから』
私は、妙なことが何なのか聞きたい気持ちと、聞きたくない気持ちが交錯していた。少なくとも、素敵な話ではないのだから、知るのは、少しでも後の方が良いという気分だった。
予定通り定時で退社した私は、ハザードランプを点けている圭の車に乗り込んだ。
「勝手言っちゃってすみません。ただ、あまりにもショックなので、姉さんにも一緒にみて貰いたくて」
「どういうこと?」
「これ…」圭はプチプチ付の封筒を手渡してきた。
「なにこれ、CDかなんか入っているの?」
「そう、今朝届いたんだよ。チョッと見たんだけど、じっくりは見られなかった」
「それで、私にも見て欲しいってこと?」
「いや、姉さんには関係ない問題なんだけど、ただ、一緒にいて欲しいって思ったんだよ」
「少しは見たわけね」
「うん、ほんの少しだけ。美絵が映った動画だった…」圭は言葉少なく、動画の性質を伝えようとしていた。
「そう、じゃあ一緒に見てあげるよ。どうする?私の部屋に行く?」
「いや、やめておいた方がよさそうだよ。変な意味抜きに、ラブホに入って良いかな?」
「良いよ。たしかに、今は慎重に行動すべきだろうからね。だったらさ、新宿とかじゃないほうが良いんじゃないの」
「そうだね、府中辺りのホテルの方が危なくないかもね」
そうして、圭と私は、有紀と初めて三人の関係を結んだホテルの一室に落ち着いた。
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