第79章「美絵さんから相談を受けた母親が、自分の体験談を話し始めることは、充分あるでしょう。“貴女、私なんかはね……”って感じでね」
「ふん、あり得そうな流れだね。被害者に同調することから話を始めるのは、良い戦略だわ」
「それで、“私も、お父さんの女癖には、ほとほと参ったものよ。どれ程泣かされてきたか、記憶していられないくらいにね”そんな風に話し始める」
「その話が一段落したら、美絵さんは、母さんは、どうやって、その苦痛を逃れたの、と聞くかもしれないわね」私も、幾分有紀の想像する構図が見えてきた。
「そうでしょう、そう云う流れになるわよね。そうして、美絵さんのお母さんの経験談が語られる」
「そうね、無闇に高価な物を買って憂さ晴らしするとか、お酒に溺れるとか、ホストクラブ通いするとか…」
「そこよ、買い物やお酒に溺れるとかは、その場限りで終わるか、身体を壊すか、その程度のものでしょう。自己完結するから、連想ゲームも終わっちゃう。連想する時は、続きがある出来事じゃないと困るわけね」
「ふ~ん、そうなるとホストクラブになるね」
「なにもホストクラブである必要はないのよ。夜には、貞淑な妻として被害者でいたいわけだから、昼間の行動が最適なわけでしょう」有紀の調子が上がっていた。
「たしかに、被害者の立場を維持して、憂さ晴らしとか、復讐するなら、昼間に限るわね」
「それに、ホストクラブ通いするには、あのお母さんは暗すぎるわよ。あとを引く問題を抱えるとしたら、不倫には不倫で対抗すると云うのは、結構単純に浮かぶ発想だよね」
「不倫ね。あのお母さんが不倫。それと、美絵さんも、それを参考に不倫と云う連想なの?」私は、そこで有紀の連想に異を唱えるように、立ちどまった。
「そうなるけど、単純すぎる?」
「うん、一気呵成過ぎるんじゃない?」
「一気呵成かどうかは別問題よ。単に、自分の母親の憂さ晴らしの体験談を聞かされただけかもしれない。でも、美絵さんの頭の中に、そのような憂さ晴らしと云うか、気を紛らわす方法もあるんだな、とインプットはされるよね」
「そうね、仮にそういう体験談を身近に聞けば、そういう解消法もありなんだなと思うかもね」
「そう、だからと云って、そういう事があったからと云って、現に自分の家庭は崩壊していないし、両親の夫婦仲も特に悪い感じではない。そう美絵さんが思っても不思議はない。そこまでが、私の連想の限界点」
「そうか。実はね、私、全然違う形で、美絵さんの辛さを想像したのよ」
「どういう想像?」
つづく
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