第81章「そういうこと。そうそう、それよ」有紀はパズルが解けた瞬間のように目を輝かせ、私に抱きついてきた。
「馬鹿ね、変な気になっちゃうでしょう。離れて、私逆上せるから出るよ」私は邪険に有紀の腕をほどき、バスタブから逃れた。
しばらくして、有紀もワイングラスと灰皿を持って、ベッドの端に腰を下ろした。
「でもさ、そんな程度で自殺なんてするかな?私なら、まな板の鯉って気分になっちゃうけど…」有紀は、私に吸いかけの煙草を渡して、ワイングラスに口をつけた。
私は、その煙草を何の抵抗もなく吸いながら、私ならどうするだろうかと考えた。
「そうね、私も自殺はしないけど、会社は辞めるかもね。日々第三者の奇異な目に晒されるのは嫌だから」
「私の場合は、いつも第三者の目に晒されるのが職業だから、それ程、抵抗はないかな。ただ、芸能関係のプロダクションは嫌がるだろうね。でも、そうなったら芸能の方の活動やめちゃえば良いわけだし…」
「そう云う考え方で行くと、美絵さんは、日々第三者の奇異の目に晒される苦痛はないわけでしょう。しらばっくれていれば済むことかもしれないのに。場合によっては、整形しちゃう手だってあるのに…」
「だよね。てことは、美絵さんは見込み発車してしまったことになるよね」
「それは違うんじゃないの。彼女にとって、浮気の真似事したのも、圭への愛の変形でしょう。つまり、圭が、そのビデオを見て、どう思うかが、最重要課題だったのよ。その意味では、相手の男を殺して、事前にビデオを回収するか、それとも、自分が恥を掻かずに消えてしまうか、どちらかと云う選択に煮詰まってしまったのだと思うな」私は、そう云う事を口にしながら、美絵の圭への愛の深さを思い知った。
「愛しすぎた悲劇か…」有紀が呟いた。
「そうね、愛情の深さが、逆に取り返しのつかない結果に結びついた。悲劇だよね、その悲劇の発端に、私もいたわけだ。そういう意味では、罪作りなことをしていたってことね」
「それなら、私も罪人の一人だよ。圭も姉さんも、私も罪を犯したことになるね」
「でも、美絵さんに対して、私たちは、ワンクッション置いた関係だから、彼女の死に、直接的には関係していないのよ。圭も、より直接的であったとしても、まさに直接的だとは言えない。やはり、もろに直接的だったのは、その脅迫していた男でしょう」私は、業務上の逆境から抜け出すような理屈を振り回した。
「美絵さん、そいつを殺しちゃえば良かったのに…」有紀は飲み足りないらしく、グラスを持ってベッドを離れた。
つづく
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