第493章煙草の先から、灰が落ちた。灰は、形を崩さずに、時がとまったようにシーツの上に落ちていた。
「深い意味はないの。ただ、それなら、浮気にもならないと思ったから……」
「あの精子を、どうしようって思っているの?」
「“ゆき”を見ている間に、どうしようもなく子供が欲しくなったのかな」
「でも、だからって、わざわざ竹村の凍結精子なんて、使わなくても……」
「はじめは、凍結精子のことは思い出さなかったわ。ただ、子供が欲しいって欲求は強くなるばかりだったの。
それで、姉さんには内緒だったけど、人工授精の相談をしに、その方面で有名なクリニックに行ったけど、断られたの。
未婚女性の人工授精には協力出来ないって。
それでも、他に引き受けてくれる所がないか探したけど、病気とかの事情があれば別だけど、簡単に、独身女性の妊娠に協力する専門家は見つからなかった……」
「そんなに、子供が欲しいの?」
「そう、少なくとも、私のDNAが入っている子供が…ね。色んな男と寝ることも考えたわよ。でも、それって、酷く出鱈目だし、姉さんと云う人がいるのに、浮気をしたことになりそうだし……。
だから、考えた挙句に、例の凍結保存精子を思い出したの……」
「あの、凍結精子がどうなろうと、私には興味はないけど、あれで、有紀が妊娠するって、かなり背徳な気がするんだけど。産まれてきた子供は、いとこ同士なのに、実は腹違いの、姉妹とか兄弟ってことになるでしょう?」
「それは、思ったよ。でも、そのことが背徳だって気持ちにはならなかった……」
私は、自分で背徳と云う言葉を、噛みしめた。たしかに、圭と私の関係が、あれほど簡単に成り立ったのだから、今さら、背徳を口にするのは、身勝手なのかもしれない。
しかし、あの時は、偶然の勢いが背徳を生みだしたわけで、意図的に近親相姦を望んだわけではなかった。ただ、偶然の勢いにしては、何度も同じ行為は繰り返されたのだから、偶然だけの出来事という、言い訳は通用しなかった。
その後、圭と私の関係を嗅ぎつけた有紀に、半ば強制的に三人の関係に持ち込まれたのも、自分の秘密を守ろうとした、私の身勝手な自営本能に似た判断だった。
今さら、有紀の凍結精子提供の話を、私が、背徳だと云う理由で、拒むことは矛盾していた。
それに、その行為が背徳になるのは、私の産んだ“ゆき”と、竹村の凍結精子と有紀の卵子で授精して産まれるのが、男の子で、その上、“ゆき”と、その男の子が、関係を持って初めて背徳な関係になるわけで、”背徳”と云う言葉を振りかざしても、あまり説得力はなかった。
「背徳じゃないかもね……」私は、考えがまとまり切らない内に、呟いた。
「背徳って、もっと凄いんじゃないのかな?ただ、よりによって、竹村さんの精子を利用することが、”背徳”と言われれば、背徳かもしれないんだけど……」
「それは、背徳という程のことではないかもね。でも、有紀は、あの人の精子でも構わないと思うわけ?」
「全然、別の精子の方が良いのかもしれないけど、竹村さんの精子の方が、出自が確かと云うこともあると思ったの……」
つづく
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