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終着駅490


第490章

父は、深く考えることもなく、有紀の提案を引き受けた。

「ところで、母さんだけど、毎日、何してるの?」

驚いたが、有紀は母に対しても、父に対してと同じ質問を投げかけた。母は、目を丸くして、キョロキョロとうろたえた。

「私は、合唱サークルの会があるから、これで結構忙しいのよ」それでも、精一杯の抵抗を示した。

「あのさ、私も姉さんも舞台で目一杯なのよ。私たち、“おさんどんさん”探そうと思っているの。出来たら、この家に、他人はあまり入れたくないの。まあ、奈津子さんは、育児のエキスパートだから、仕方ないんだけど。出来たら、引き受けて貰えると、凄く嬉しいんだけど……」

「母さん、我々も、いつボケて、有紀たちの世話にならんとも限らんからね。ここは、ひと肌脱いでおいた方が賢明かもしらんよ」父が、先ほどの仕返しのように、有紀の企ての応援に回った。

こうして、父と母も、有紀の配下になった。

おそらく、身を持余していた二人にとって、それなりの仕事が割り振られたことは、生甲斐にもなっただろうし、健康にも良い筈だった。

そして、思いもよらぬ、年金以外の収入が、舞い込むのだから、理論的な提案と妥当な結論だった。

父の経理は、月曜から金曜の間、フレックスタイムで4時間勤務という具体的条件まで、有紀は用意していた。給料は15万円だと云うと、父が10万で良いと、断固主張したので、その額になった。

母の方の“おさんどん”は、基本、一日おきくらいで、簡単な煮物やカレーやシチューなど、日常的料理を好きなように作っておいて貰うことで、話がついた。有紀は10万円と提示したが、母も父同様の受け答えで、7万円で良いと、断固主張した。

私は、どこで、どのような事情が作用して、有紀に主導権が移ったのか自覚がなかった。

おそらく、有紀を含めた家族全員が、有紀のリードで動きだすとは、夢にも思っていなかった筈だが、その動きは加速した。

「あれって、アンタ考えて言ったことなの?」私は機嫌よく帰って行った両親を見送った後、有紀に尋ねた。

「あぁ、あれね、瞬間芸だよ」有紀はこともなげに答えた。

「でも、瓢箪から駒で、大助かりじゃない?」有紀は勝ち誇ったように微笑み、私の背中を抱き、押し込むように部屋に戻った。

キッチンで後片づけをしながら、有紀は、将来設計を語り出した。

「私は、姉さんを無理やり舞台に引き摺り出した感じだけど、ある程度の勝算はあったのよ」有紀は、振り返りながら話し始めた。

「私は、女優として限界を感じていたけど、演出家の目には自信があるの。私は、ずっと涼という人を見つめてきたのよ。生まれた時からね」

「その結果、姉さんは、生まれつきの演技者だと気づいたの。私の何倍も才能があるってね」有紀は続けて話した。

「その上、年齢的に、私は演じる役に限界が来ていた。その点、姉さんは、40歳、50歳と演じることの出来る役者になれると見込んだのよ」

「だから、劇団の将来のためにも、姉さんを舞台に昇らせ、成長させるためなら、何でもしなければならないと気づいたわけ。現に、私の見込み通りの才能の片鱗を姉さんは見せ始めてくれたしね」

有紀は、そこまで一気に話すと、私の手を取り、引きつけると“私を信じてついてきて”と耳元で囁いた。

有紀は、考える女だった。私も、両親も、彼女の破天荒な生き方にばかり目が行って、本当の有紀を見ていなかった気がした。

私は、思わず、ウンと肯くだけだった。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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