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終着駅498


第498章


櫻井先生と金子弁護士との間で、凍結保存精液の移送は、無事完了した。

人工授精を行う施設は、櫻井先生の後輩に当たる内科クリニックが引き受けてくれた。

その後輩の医師は、数年前まで、櫻井の下で産科医をしていたので、技術的に問題はないとのことだった。

後は、本人の排卵日を待つだけになった。

「結局、今の段取りで行くと、私が勝手に、どこかの誰かの子供を身籠った。そういう形になるわけだよね?」有紀は緊張した顔で、尋ねてきた。

「そう、いわゆる、未婚の母ね。
シナリオライター兼女優の“滝沢ゆき”が未婚の母になるって形になるわ。
櫻井先生が秘密をバラさない限り」

「でも、櫻井先生が、その秘密を暴露するって、常識的にはあり得ないよね?」

「そう思うよ。
有紀にとってのゴシップは、未婚なのに妊娠した事実だけで、話題性があるだけで、義兄の凍結精子を使ったとなれば、尚更、話題性が強くなるだけで、特に、困るってわけでもないでしょう?」

「話題性は、私が、未婚の母になることで、誰の子か、推測記事が出ることが面白いわけで、ネタバレは、メディアにとって不都合なんじゃないかな。
だから、誰も、想像はしても、真実に迫るために取材するとは思えないから」

「その内科医の先生も、どこの誰の精子なのか知らされていないし、100万円の手数料を受け取っただけの、やっつけ仕事だからね、隠しておきたいだろうしね」

「秘密は守られるか……。神秘のベールに包まれた“滝沢ゆき”の子供か……、多少は話題になるかもね?」

「そうね、想像される男の人達には迷惑と云うか、名誉かもしれないけれどね」

「既婚者は、必死に否定するだろうし、独身者は、含みを持ってニヤニヤするだけだろうから、謎が謎を生む。
でも、話題を振り撒くのが目的じゃないから、まあ、どっちでも良いけどね……」

「でもさ。私は、有紀が竹村の凍結精子を使うことに、何となく承諾したわけだけど、竹村の精子であることに、深いわけ、そう云うものあるの?」私は、どっちでも良いような響きで、改めて、有紀の気持ちを聞きだしておこうとした。

「この前、話した程度の根拠だから、あらためて聞かれても・・・・・・」

「この間のアンタの話をまとめると、有紀は、自分の子供が欲しくなった。
しかし、男とセックスする気にはなれない。
しかし、妊娠するには何らかの方法で授精が起きなければならない。
つまり、しかるべき精子が必要になる。
そこで、凍結保存されている竹村の精子を思い出した。
思いつきの、きっかけは、そう云うことよね?」

「思いつきって言われると抵抗あるけど、まあ、言われてみると、そう云う流れには違いないよ」

有紀は、幾分、思いつきという表現に引っかかったようだが、話がご破算になることを怖れたのか、不承不承追認した。

「でも、だからと云って、浮ついた気持ちじゃないよ」有紀が付け足した。

「それは、判っているよ。そして、その思いつきの妥当性を考えたわけよね?」

「まあ、そう云う流れかな。
竹村さんのものなら、赤の他人が、私たちの間に、割り込む心配もない。
その上、残念だけど、その男性は、既に亡くなっているので、新たな人間関係で煩わされる心配もない。
増してよ、生まれてくる子が、腹違いだけど、姉妹なわけだから、分け隔てなく育てられる。
おそらく、私が育てる時間が長くなるわけでしょう?」

「そうかもね。子育てして貰えるのは助かるけど、アンタに育てられるって、良いんだか悪いんだかね」

「まあね、教育について、自慢する気はないからね・・・・・・」

「そうでもないよ。少なくとも、母さんに育てられるよりはマシだよ」

私は、母よりも、有紀の養育の方がマシだということで、複雑怪奇な、有紀の根拠追及にけりをつけた。
つづく

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終着駅497


第497章

「ええ、多分、先生の想像通りの、或る女性です」

「そうですか。それでは、少しは考える気になりますね。ただ、僕は生殖医療学会に属していますので、結構厄介な話なんですよ」

「そうでしょうね。私も、櫻井先生のお手を煩わすのは、拙いよな、と思っていました。ただ、間接的ですけど、サジェッションして頂ければ、何とかなるのでは、と思いまして……」

「まあ、僕が手掛けても、犯罪になるわけではありませんから、どうでも良いのだけど、病院と大学の立場から言うと、直接は手控えたいですね。
いま直ぐに、誰かを思い出せと言われても、思いつく人物はいませんけど、一週間も貰えれば、誰かは紹介できますよ。
ただ、体外受精とか顕微授精は、多くの人の手が入りますからね、情報漏れも起きます」

「と云うことは、人工的に体内に注入する方法ですね?」

「ええ、確率は落ちますけど、それは、自然妊娠においても同じことですから……。ただ、妹さんも、30は超えていらっしゃいましたよね?」

「ええ、35くらいになりますね」

櫻井先生は当然のように、或る女性を、簡単に特定してしまった。しかし、それは、いずれはバレることなのだから、どうでも良かった。

「個人差があるけど、確率は落ちますね。ですから、一回や二回で、シャンシャンシャンと云うわけにはいかないでしょう。5,6回はスケジュール的に組みますからね。つまり、排卵時期に合わせて行いますから、月一回のペースで、半年は必要、そう云うことになります。」

「たしか、あれって、精子も洗浄とか、するんですよね?」

「そうですけど、TH病院で凍結保存してあると云うことは、既に、遠心分離器にかけて洗浄・濃縮をした精子が保存されている筈ですので、改めて、する必要はないでしょう」

「ということは、単純に、その精子を膣の奥に入れてやると云うことですか?」

「いや、それでは、シリンジ法になります。膣内に入れるだけですが、確率は酷く落ちますし、幾分、生々しさがありますから……。なにか、膣内に射精したのと同じ状況ですから……」

「あぁ、なるほど、生々しいですね。その方法は避けたいです」私は思わず微笑んだ。

特別、竹村のペニスと、有紀のバギナが結合して、膣内に射精されるわけではないのだが、有紀の膣内に竹村の精子が、という想像は愉しくはなかった。

「ですから、不妊治療上の人工授精は、カテーテルで子宮内にまで到達させて注入します。一般的な感覚でしょうけど、膣内は不道徳だけど、子宮内なら、道徳とは関係ない。そういう感じはあるでしょうね」

櫻井先生は、私の気持ちを忖度したのか、一般人の、性的感覚に配慮した物言いをしていた。

「たしかに、子宮は内臓。膣は女の貞淑、そういう感じ、ありますね」

「そうそう、そう云う感じです。本来、人工授精と云うのは、精子の側に、子宮頚の防御壁を通り抜ける能力に欠けている場合に処置する方法なのですが、今回は、不妊治療ではありませんからね……」

「わかりました。でしたら、その方法で、本人確認をしておきます。ただ、櫻井先生の方も心配なので、ご無理はなさらないでくださいね」

「ええ、その辺は、充分に気をつけます。
ただ、TH病院にある冷凍保存精子の移送手続きは早い方が良いでしょう。
こちらの病院で引き受ける手配をしておきますので、後日、ご連絡しますよ。
ただ、あれかな、TH病院の方への手続きは、弁護士事務所経由でしたよね?」

「そうですが……」

「でしたら、弁護士さんの方に、僕の方に依頼したと云うことで、弁護士さんの方と、僕の方で直接連絡し合う方が間違いがなさそうですね」

「ええ、出来たら、その方が。今夜にでも、弁護士の方に知らせますので、明日以降、金子と云う弁護士が、先生の方にご連絡するということで、いかがでしょう?」

私は、なぜか、自分のことでもないのに、脇に汗を掻いていた。それと同時に、一仕事終わらせた安堵の気持ちで、一杯だった。
つづく

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終着駅496


第496章

学会の準備が忙しいと云うことなので、櫻井先生の研究室で会うことになった。

先生とは、村井先生と有紀と会食をして以来なので、1年半ぶりの再会だった。

「いやぁ~、まさか、売り出し中の“竹村りょうさん”からの、お呼び出しで、ビックリしましたよ」櫻井先生は、特別変わりのない童顔で、何ごとかと思いながら、第一声を放った。

「売り出し中なんて、立派なものじゃありませんわ。自分でも、まだ、自分がどうなっているのか、判らない状況の中にいますから……」

「村井先生のお父さんは、貴女の舞台、3回も観に行ったらしいですよ。僕と村井先生は一回だけですけど……」

「あら、そうだったんですか。ありがとうございます。知らなくて良かったかも。知っていたら、セリフを、とちっていたかもしれませんから……」

「いま、ここでお会いしていると、感じないのですけど、舞台上の竹村さんは、凄味のある神秘を感じましたよ。
しかし、竹村さんは、以前、舞台を経験していたのですか?」

「いえ、本格的なのは初めてです。高校時代に真似事くらいしましたけど。
それに、有紀のシナリオも演出も、私向きに作ってくれているから、そのお陰の部分も多いのだとおもいます。
それと、有紀が、マスコミ操作が上手だった、そう云うことも影響しているのだと思うんですよ」

「うん、それは言えますね。
若くして、億万長者になった未亡人。
年商百億の会社の後継者を捨てて、舞台女優に挑戦ですからね、厭でも盛り上がってしまいますよ。
看板倒れかと思って舞台を観れば、ゾクゾクするような神秘があるんですから、人気が出て当然ですよ」

「櫻井先生は褒めすぎですよ。でも、褒められるのって、とっても嬉しいものです。
特に、櫻井先生に褒められるとは、期待していませんでしたから」

私は、それこそ妖艶な笑みを精一杯作って、櫻井先生をみつめた。

「そうそう、その件は別にして、何か、折り入ってのお話でしたね?ところで、珈琲、紅茶、お茶、どれも自動販売機のヤツですけど……」

「それじゃあ、珈琲を…、でも、私が買いに行きますけど…」

「いや、僕の方が慣れていますから……」

櫻井先生は、私の返事も待たずに、部屋を出ていった。

「それでは、お聞きしましょうか、折り入ってのお話を」

「少し、話が込み入っていますので、時系列に沿ってお話します」

「ええ、それで結構です」

「私の夫は、亡くなる前に、TH病院の方で、精子を冷凍保存していました。
更新の手続きは、亡くなった後も夫名義のまま実行していました。
本来であれば、廃棄しても構わない精子なのですけど、その精子を使いたいと云う、或る人物が現れまして……」

「なるほど。それで、その或る人物が、亡くなったご主人の冷凍保存精子を使用して、妊娠したいと?」

「えぇ、そう云うことです。
ただ、所有権の曖昧な冷凍保存精子で、妊娠に協力してくれる医療機関があるのかどうか、その辺が判らないものですから、櫻井先生のお知恵をお借りしたいと思いまして……」

「そうですか。その妊娠なさりたいのは、貴女自身ではないわけですか?」

「ええ、違います」

「ということは、貴女が協力したいと言っている、或る女性と云うのは、僕が想像している女性なのでしょうか?」

櫻井先生の話しぶりは、彼が知っている、もう一人の女性を頭に浮かべたようだった。
つづく

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終着駅495


第495章

「う~ん」

金子弁護士は、私から、有紀の話を聞かされて、唸った。

「いえ、金子さんのご意見を聞けば、否定的お返事が返って来るだろうなと、想像していました。
法的には、将来厄介な問題を抱えることも承知しています。
万が一ですけど、そう云う問題が起きたら、”ゆき”と、次に生まれた子供とで、財産を分けて貰っても構わないと、思うところまでは、覚悟してます」

「いや、その前に厄介な問題があります。
実は、例の凍結保存精子の所有権は、竹村氏にありましてね、更新料も竹村氏が支払っている形になっています。
つまり、竹村氏が死亡したと判明した時点で、破棄される運命の精子なわけです。
まあ、病院の側にしてみれば、妙なトラブルに巻き込まれたくないというのが、本音でしょうけどね・・・・・・」

「相続権のような意味合いはないわけですね」

「えぇ、表向き竹村氏が死亡した時点で、所有権は消滅します。
ただ、現時点では、竹村氏が死亡した事実を病院の方は知らないので、手の打ちようはあるかもしれませんね。
違法な手続きとは、必ずしも言えないので、移送の手続きは可能でしょう。
ただ、移送先は、妥当な病院やクリニックになります。吉祥寺の自宅と云うわけにはいかないでしょう……」

金子は、考えながら話しているようだった。おそらく、このような入組んだ話を経験するのは初めてなのだろう。経験が浅いと云うよりも、私たちのようなケースを経験することが、稀なのは当然だった。

「凍結保存精子の受付先を示さなければならない・・・・・・。それって、人工授精するクリニックでないと、拙いのでしょうか」

「いや、保存する施設があれば、問題ないでしょう」

「ただ、あれですね、マタニティー関連である必要がある?」

「まあ、第三者として、保存に適した送り先だと判断する根拠が明確な点が肝心なのでしょうね」

「なる程、エクスキューズをしたいわけですね」

「そう云うことです」

金子弁護士との電話を終えて、私は、考えた。

最も妥当な線は、櫻井先生に頼みこむことだろう。

しかし、彼は大学病院の助教授と云う立場がある。学会の倫理委員会などから査問されたくはない筈だ。

村井先生のお父さんと云う手もあるけど、人脈としては、線が弱い。

国内で、どこの馬の骨か判らない精子の人工授精を引き受ける医師はいるのだろうか。移送先は、海外でも可能なのだろうか。

私は、無い知恵の範囲で、竹村の精子を有紀に注入する手立てを、あれこれと考えていた。

有紀の突飛もない提案を受け入れた私が、どうして、ここまで考え込むのか不思議だった。

気がつくと、竹村のさまよう精子の終着駅を探している自分がいることを自覚していた。さも、自分の生命の行き先でも探すようで、奇妙な感覚に襲われていた。

なぜなのだろう?

あの精子がこの世に存在している限り、私は、竹村から自由ではない、と思いこんでいるのかもしれなかった。

そういう感覚が、どこかで眠っていたから、あの精子を、自分の肉体で引き受けるという有紀の申し入れを受けていたような気がした。

潜在意識と云うものは、こういう形で行動に表れるのかと、興味深く感じた。

有紀の妊娠・出産は、それなりに世間を騒がすだろう。“誰が父親なのか?”

女優活動を一時中断して、姉である“竹村りょう”を売り出した、舞台演出家・シナリオライターの滝沢ゆきは、誰の子を妊娠したのか、世間はそれなりの興味を示すだろう。

その父親が誰であるか、ミステリーであればあるほど、世間の注目を浴びる。結果的に、舞台にも、好影響があるだろう。

まさか、姉である“竹村りょう”の亡き夫の凍結精子で妊娠したなどと妄想することはあり得ない。

しかし、内部通報と云うか、密告があれば話は違ってくる。

と云うことは、極力介在する人間の数を少なくすることが必要だった。

金子弁護士は、準当事者のようなものだから、内部通報するメリットはない。現在、精子凍結保存中の病院関係者も、事実経緯が判らない以上、自ら内部通報する動機がない。

やはり、内部通報する可能性が一番高いのは、凍結保存中の精子を使って人工授精乃至は顕微授精させた張本人だろう。

私は、そこまで考えて、結局、櫻井先生に頼み込むのがベストな選択だったと結論づけた。
つづく

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終着駅494


第494章

竹村の凍結保存精子が、日の目を見るのも悪くはないのかもしれない、私の考えも、有紀の考えに傾いた。

竹村と有紀がセックスをして、子供を妊娠する話とは、まったく別の感覚だった。

仮に、私に万が一のことが起きても、どちらに転んでも、竹村の血は引き継がれる。そして、彼の財産を引き継いだ私の役目も、確実に引き継がれる。

そうなれば、竹村の意志表示はないけれど、シングルマザー基金の運営を有紀に任せても、竹村夫婦の遺志は成就する。そして、私は、舞台俳優に打ち込める。

有紀は、妊娠出産した後、シナリオ作家と子育てに専念するに違いない。おそらく、私の“ゆき”と云う子供の子育ても、有紀なら、併行的にしてくれるに違いなかった。

すべてが、収まるべきところに収まるような安定感があった。

いつ、どのようなきっかけで、入れ代わったのか判らないのだが、有紀と私の立場が入れ代わっていた。

それが、どう云う意味を持つのかも判らなかった。

ただ、悲劇にはならない感じがした。

背徳でもなかった。

「わかった、良いよ。でも、その手続きと云うか、その辺は、考えてみたの?」

「まだ……」

「ただの思いつきだったの?」

「違うよ。姉さんがいる以上、浮気は嫌だったの。でも、子どもは欲しい。
その考えを突き詰めていくと、竹村さんの精子に行き着いただけ。
その後は、金子さんと、櫻井先生に任せれば、何とかなるのかな、何となく、そこまでは、考えてみたんだけど……」

「それで、金子さんや櫻井先生と接触したの?」

「まさか、そんなことしないよ。姉さんの了解がなければ、成り立たない話くらい判っているから……」

「私が、金子さんや櫻井先生に、この話をしなきゃならないってことになるのね?」

「凍結保存の手続きの解約と云うのかしら、姉さんが、金子さんに話すことが必要でしょう。
そして、良く判らないけど、その凍結保存された精子を櫻井先生の手元に届くように差配する権利を持つのは姉さんだから……」

「そうね、そういう事になるのかしら。金子さんに聞いてみないと、何ごとも始まらないけど……、櫻井先生が引き受けてくれないと、凍結状態を維持できなくなるから……」

「そうか、仮の話で、金子さんに確認しないと、判らない……」

「それしかなさそうだね。私たちが考えるほど、簡単に扱えるものかどうか、そこが判らないからね……」

凍結保存された精子の権利者は、更新料を支払っている私であることは、想像がついたが、その精子を、どのように使おうと、権利者の勝手かどうか、そこまでは確認していなかった。

「ねぇー、面倒だろうけど、金子弁護士に確認して」

「そうするけど、国内では難しいのかもね。
記憶が正しければ、その病院の倫理委員会とか、そういうところで、承認が必要だった気がする。
今の倫理観に沿った結論だから、アンタの、義兄の精子による人工授精は認められない気がするよ」

「女が、誰の精子で妊娠しようと、それって、個人の自由だよね。北欧なんかだと、南欧のイケメンのタネ仕込みに行って、シングルでも自由に子供作れるって言うのにさ。面倒くさい国だね」

「まあ、議論の余地ある話だけど、今の解決には関係ないからね・・・・・・。
明日、金子さんに聞いてみるよ。櫻井先生に話すべきか、まったく別のルートを探すか、彼の意見を聞いてからだね」

「わかった、姉さんの交渉力に期待するよ。
どこの馬の骨かわからない子供は無理。竹村さんのなら、安心だし、リスクも少ないはずだから・・・・・・」

有紀が、竹村の精子を欲しがる理由は曖昧だった。

有紀の中では納得しているようだけど、私の胸にストンと落ちてはいなかった。
つづく

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終着駅493


第493章

煙草の先から、灰が落ちた。灰は、形を崩さずに、時がとまったようにシーツの上に落ちていた。

「深い意味はないの。ただ、それなら、浮気にもならないと思ったから……」

「あの精子を、どうしようって思っているの?」

「“ゆき”を見ている間に、どうしようもなく子供が欲しくなったのかな」

「でも、だからって、わざわざ竹村の凍結精子なんて、使わなくても……」

「はじめは、凍結精子のことは思い出さなかったわ。ただ、子供が欲しいって欲求は強くなるばかりだったの。
それで、姉さんには内緒だったけど、人工授精の相談をしに、その方面で有名なクリニックに行ったけど、断られたの。
未婚女性の人工授精には協力出来ないって。
それでも、他に引き受けてくれる所がないか探したけど、病気とかの事情があれば別だけど、簡単に、独身女性の妊娠に協力する専門家は見つからなかった……」

「そんなに、子供が欲しいの?」

「そう、少なくとも、私のDNAが入っている子供が…ね。色んな男と寝ることも考えたわよ。でも、それって、酷く出鱈目だし、姉さんと云う人がいるのに、浮気をしたことになりそうだし……。
だから、考えた挙句に、例の凍結保存精子を思い出したの……」

「あの、凍結精子がどうなろうと、私には興味はないけど、あれで、有紀が妊娠するって、かなり背徳な気がするんだけど。産まれてきた子供は、いとこ同士なのに、実は腹違いの、姉妹とか兄弟ってことになるでしょう?」

「それは、思ったよ。でも、そのことが背徳だって気持ちにはならなかった……」

私は、自分で背徳と云う言葉を、噛みしめた。たしかに、圭と私の関係が、あれほど簡単に成り立ったのだから、今さら、背徳を口にするのは、身勝手なのかもしれない。

しかし、あの時は、偶然の勢いが背徳を生みだしたわけで、意図的に近親相姦を望んだわけではなかった。ただ、偶然の勢いにしては、何度も同じ行為は繰り返されたのだから、偶然だけの出来事という、言い訳は通用しなかった。

その後、圭と私の関係を嗅ぎつけた有紀に、半ば強制的に三人の関係に持ち込まれたのも、自分の秘密を守ろうとした、私の身勝手な自営本能に似た判断だった。

今さら、有紀の凍結精子提供の話を、私が、背徳だと云う理由で、拒むことは矛盾していた。

それに、その行為が背徳になるのは、私の産んだ“ゆき”と、竹村の凍結精子と有紀の卵子で授精して産まれるのが、男の子で、その上、“ゆき”と、その男の子が、関係を持って初めて背徳な関係になるわけで、”背徳”と云う言葉を振りかざしても、あまり説得力はなかった。

「背徳じゃないかもね……」私は、考えがまとまり切らない内に、呟いた。

「背徳って、もっと凄いんじゃないのかな?ただ、よりによって、竹村さんの精子を利用することが、”背徳”と言われれば、背徳かもしれないんだけど……」

「それは、背徳という程のことではないかもね。でも、有紀は、あの人の精子でも構わないと思うわけ?」

「全然、別の精子の方が良いのかもしれないけど、竹村さんの精子の方が、出自が確かと云うこともあると思ったの……」
つづく

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終着駅492


第492章

それから、一年が経過した。吉祥寺の竹村家では、誰一人として、現状を不思議と受けとめる人もいないような生活が繰り返された。

普通の家庭とは、相当に違っていたが、それに異を唱える人もいない、平穏な日々があった。

演出家である、有紀の要求は、日増しに強まったが、有紀のシナリオで作りだされる女は、私にも理解出来る資質を持った女だったので、その舞台上の女になり切ることは苦痛ではなかった。むしろ、快感に近いものがあった。

劇団も、有紀がシナリオと演出に専念することで、凄味を見せるようになってきた。舞台上、ギリギリのきわどい演出の要求にも、私は俳優として応えた。

劇団の規模も、父の事務局長の裁量で、拡大路線を突っ走っていた。“ゆき”も順調に育ち、満一歳を過ぎていた。簡単な単語は口にするし、良いこと、悪いことの理解もはじまり、一歩、人間に近づいた。

意外だったことは、有紀が私以上に、子供好きだったことだ。私の方が、子どもは子供、私は私という感覚があったが、有紀には、その区切りが曖昧だった。

「あの子が、子供好きとは、想像もつかなかったわよ」母が、大発見でもしたように、私に告げてきた。

たしかに、意外な側面の発見だったが、環境次第で、表に現れる資質は、誰だって、ひとつやふたつあると、特別気にはしなかった。

しかし、それは誤りだった。

二つ目の舞台の千秋楽に、軽く打ち上げをして、有紀と私は久しぶりで、二人一緒に帰路についた。

「この次の舞台から、演出を福沢君に任せることにしようと思うんだけど、どうかな?」有紀は、設立以来、副座長として有紀を助けてきた福沢君に演出を任せると言い出した。

「どうして?」

「一番は、もう現場に出ないようにしたいかな?」

「現場に出ないって、座長を辞めるってこと?」

「そうね、ゆくゆくはそうしたいけど、それは、福沢君の器量次第よね。場合によっては、姉さんが座長になっても良いわけだしね」

「なに言ってんのよ。そんなの無理よ。アンタが座長だから、私はついて行っているだけなんだから」

「そんなことないよ。姉さんは、独自の人生観で演じているよ。だから、誰が演出しても、大丈夫なの。私、自信があるのよ」

「変に自信持たれても困るけど、駄目だったら、直ぐに出てきてよ」私は、座長の決意に異論を挟むことはなかったが、安全弁の話だけは念を押した。

公演のある間は、生き帰りも面倒だからと云うことで、母は泊まり込みで“ゆき”の世話を焼いてくれていた。

一階の和室は、いつの間にか、母と“ゆき”の寝室に変っていたが、特別、そのことで、問題は起きなかった。

帰宅すると、母が寝ぼけ眼で迎えてくれたが、挨拶もそこそこに、自分の部屋に戻って行った。

風呂上がりに、ワインを軽く飲んだ二人は、二階に上がった。

私は、自分の部屋に向かおうとしたが、有紀に誘われるまま、夢遊病者のように有紀のベッドに押し倒された。

最近のふたりのビアンな関係は、常に一方的だった。私は、常に、有紀の責めにのたうち、歓喜の声を放っていた。

二度目の強いオーガズムを迎えて、私はまどろんでいた。

有紀は、窓を開け放って煙草をくゆらせていた。

夜風は、全裸で快感と共にまどろんでいる私の肌を撫ぜていった。

タオルケットを身体に巻きつけて、起き上がると、有紀の吸いかけの煙草に手を伸ばした。

「あのさ、冷凍保存している精子、私に譲って貰えないかな?」

私は、一瞬、有紀が何を言っているのか、理解出来なかった。

そう言えば、目的もなく、竹村の冷凍保存精子の更新料は、毎年支払っていた。

でも、なぜ、有紀がその精子なんて欲しがるのか、意味が判らなかった。
つづく

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終着駅491


第491章

初舞台の日が来た。どのような情報がマスコミ各社に流れたのか知る由もなかったが、『神秘の女優誕生 滝沢ゆきの実姉・竹村りょう』そんな感じの見出しが週刊誌を賑わした。

おそらく、有紀が手を回して、前評判を盛り上げたのだろうが、なぜか、私には無関係な記事にしか思えなかった。

そんなことよりも、初舞台に上がる緊張感で、周りの景色はまったく目に入らなかった。お陰で、満員になっている客席も見えなかった。午後と夜の、二回の舞台だったが、どちらも、あっという間に過ぎていった。

上手く演じることが出来たのかどうか、私には判別不能だった。ただ、幕が閉じる時の観客の拍手だけは聞こえた。その拍手が、どのようなレベルのものか、それを判断することも出来なかった。

ただ、「アンコール、もう一度勢揃いして!」有紀の鋭い声だけが耳に残っていた。

私は、当日、吉祥寺まで帰った道のりが記憶から消えていた。

無論、ワープしたわけではないので、普通にタクシーに乗り帰宅したのだろうが、自分を取り戻したのは、ダイニングで“ゆき”を母からバトンタッチされた時だった。

「お疲れさま。大成功だったらしいじゃないの?」母の声が聞こえた。

「えっ、どうして、母さんわかるの?」

「父さんが、万雷の拍手だったぞ。俺には、どこまで行っても、娘が舞台にいるだけだったがって電話したきたのよ」

「父さん、観にきていたの?」

「そうよ。家族が行かないわけにはいかんだろうって」

「そうなんだ。でも、父さん、舞台観るなんて初めてじゃないの?」

「私も、あれって思ったけど、有紀からチケット渡されたみたいよ」

「へぇ、有紀の手回しか……」

「しかし、変れば変るものよね。あんなに無軌道な生き方をしていた有紀が、大きなエネルギーを動かしているのよね。
アンタを引き摺りだしてね。挙句に、我々まで動員されちゃっているからね。
半分は腹が立つんだけど、半分は自分の自業自得と云うかね。アンタの教育は間違っていたのよ、と諭されているみたいでね。
不思議だけど、でも、あの子を産んだのは私なんだから、どんなもんだ。そう云う風に開き直ることも出来るのよね」

母が、思いもよらぬ感慨を口にした。不詳の娘にねじ伏せられたことを、歓んでいる気配さえあった。

理屈の上からは、彼女の観念論に徹底的にさからった有紀に、嬉々として降参しているように見えた。

底知れないパワーが有紀に乗り移ったと考えるのも妥当ではなかった。

有紀が、特別に変わったと云うよりも、我々の方が変ったのかもしれない。

たしかに、私の境遇は大きく変化した。“ゆき”を産んだこと。白血病に罹患して、闘病生活を送ったこと。そして、天職だと思いこんでいた会社を辞めてしまったこと。それだけで、充分に激動だった。しかし、はじまりは、竹村から声をかけられた時なのだろう。

竹村が、命を削ってまで“ゆき”を妊娠させる努力を実行したこと。それを、望んだのは、誰あろう、私だったこと。

あの辺から、私の人生の歯車は狂い出していたのかもしれない。

その間、有紀の人生には変化がなく、彼女の目は冷静だった。悪く言えば、獲物を見つけるハンターだったのかもしれない。

私は、ほんの少し前まで、自分の裁量で、自分の周りを動かしている積りだった。現に、自分の思い通りに、物事は進んでいた筈だった。

しかし、そう、有紀の性戯に翻弄されながら、劇団の事務を引き受けてしまった時から、有紀と私の立場は逆転していた。

いや、有紀の性戯に翻弄された時点が転機になったように思えた。

夢中で、有紀の愛撫に身を任せていただけだが、有紀の劇団を手伝うと、曖昧に答えた時から、有紀と私の上下関係が逆転した。

有紀が、そのことを無自覚で行っていることも、何となく理解できた。

有紀の意志でもなく、私の意志でもない。まして、父や母の意志などが影響していることはあり得なかった。

しかし、有紀の意志力が発揮できる環境が、次々と、異なる有紀を生みだしている、恐怖?畏怖?憧れ?

或る意味で、私には想像も出来ない世界へ有紀によって誘われる(いざなわれる)のではないかと、期待と慄きが綯い交ぜになって、私を包んだ。
つづく

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終着駅490


第490章

父は、深く考えることもなく、有紀の提案を引き受けた。

「ところで、母さんだけど、毎日、何してるの?」

驚いたが、有紀は母に対しても、父に対してと同じ質問を投げかけた。母は、目を丸くして、キョロキョロとうろたえた。

「私は、合唱サークルの会があるから、これで結構忙しいのよ」それでも、精一杯の抵抗を示した。

「あのさ、私も姉さんも舞台で目一杯なのよ。私たち、“おさんどんさん”探そうと思っているの。出来たら、この家に、他人はあまり入れたくないの。まあ、奈津子さんは、育児のエキスパートだから、仕方ないんだけど。出来たら、引き受けて貰えると、凄く嬉しいんだけど……」

「母さん、我々も、いつボケて、有紀たちの世話にならんとも限らんからね。ここは、ひと肌脱いでおいた方が賢明かもしらんよ」父が、先ほどの仕返しのように、有紀の企ての応援に回った。

こうして、父と母も、有紀の配下になった。

おそらく、身を持余していた二人にとって、それなりの仕事が割り振られたことは、生甲斐にもなっただろうし、健康にも良い筈だった。

そして、思いもよらぬ、年金以外の収入が、舞い込むのだから、理論的な提案と妥当な結論だった。

父の経理は、月曜から金曜の間、フレックスタイムで4時間勤務という具体的条件まで、有紀は用意していた。給料は15万円だと云うと、父が10万で良いと、断固主張したので、その額になった。

母の方の“おさんどん”は、基本、一日おきくらいで、簡単な煮物やカレーやシチューなど、日常的料理を好きなように作っておいて貰うことで、話がついた。有紀は10万円と提示したが、母も父同様の受け答えで、7万円で良いと、断固主張した。

私は、どこで、どのような事情が作用して、有紀に主導権が移ったのか自覚がなかった。

おそらく、有紀を含めた家族全員が、有紀のリードで動きだすとは、夢にも思っていなかった筈だが、その動きは加速した。

「あれって、アンタ考えて言ったことなの?」私は機嫌よく帰って行った両親を見送った後、有紀に尋ねた。

「あぁ、あれね、瞬間芸だよ」有紀はこともなげに答えた。

「でも、瓢箪から駒で、大助かりじゃない?」有紀は勝ち誇ったように微笑み、私の背中を抱き、押し込むように部屋に戻った。

キッチンで後片づけをしながら、有紀は、将来設計を語り出した。

「私は、姉さんを無理やり舞台に引き摺り出した感じだけど、ある程度の勝算はあったのよ」有紀は、振り返りながら話し始めた。

「私は、女優として限界を感じていたけど、演出家の目には自信があるの。私は、ずっと涼という人を見つめてきたのよ。生まれた時からね」

「その結果、姉さんは、生まれつきの演技者だと気づいたの。私の何倍も才能があるってね」有紀は続けて話した。

「その上、年齢的に、私は演じる役に限界が来ていた。その点、姉さんは、40歳、50歳と演じることの出来る役者になれると見込んだのよ」

「だから、劇団の将来のためにも、姉さんを舞台に昇らせ、成長させるためなら、何でもしなければならないと気づいたわけ。現に、私の見込み通りの才能の片鱗を姉さんは見せ始めてくれたしね」

有紀は、そこまで一気に話すと、私の手を取り、引きつけると“私を信じてついてきて”と耳元で囁いた。

有紀は、考える女だった。私も、両親も、彼女の破天荒な生き方にばかり目が行って、本当の有紀を見ていなかった気がした。

私は、思わず、ウンと肯くだけだった。
つづく

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終着駅489


第489章

初舞台に向けて、稽古は順調に進んでいた。大まかにオーケーを出していた有紀から、細かな顔の表情などの注文がついたが、何とか切り抜けた。

一週間後に初日を迎える頃、劇団に一日の休みが入った。私は、ズルズルと休みを過ごすつもりだったが、有紀が父さんと母さん呼ぼうと言って聞かなかった。

私も気にはしていたが、公演が終わってから、ゆっくり呼べばいいと思っていた。しかし、父さんに頼みたいこともあるから、明日の昼間に来て貰おうと、断固主張した。

いまや、私の雇い主であり、舞台監督でもある有紀に強く逆らう気はなかった。

有紀は疲れている筈なのに、朝早くからキッチンに立っていた。私が起きてきたころには、殆ど、昼食の用意まで整えていた。

用事が入っていると言っていた母も、最終的には、そちらをキャンセルして、夫婦で昼過ぎに、吉祥寺の家を訪れた。

二人は、かしこまって広すぎるリビングに座っていたが、“ゆき”を間に置くことで、雰囲気はなごんだ。

「しかし、豪華な家になったね」父は呆れたように話し出した。

「金子弁護士に頼んだら、こんなものが出来上がったのよ。チェックはしたつもりだったけど、治療前だったから、上の空だったのよ。でも、大きいなりに良いこともあると思うの」

「でも、涼、暖房費とか大変になるかもよ」母が所帯じみた心配をした。

「母さん、良いのよ。姉さんは大金持ちだから、心配しなさんな」有紀が、珍しく、母に対して親しみのある言葉を口にした。

「金持ちは大袈裟だけよ。それに、いつもは、ダイニングの方で暮らしていて、このリビングは滅多に使わないから……」

「さあ、みんな、そのダイニングの方にきてくれる」有紀が立ち上がった。

母は、“こっちの方が落ち着くね”と言いながら、料理に舌鼓を打っていた。

「しかし、涼、いつの間にこんなに料理上手になったの?」母は、当然、私が作ったと思っていた。

「私じゃないよ。全部、有紀が作ってくれたの」私は、そう言いながら、少し母が傷つくかもしれないと危惧した。

手元において、料理の手ほどきをした私の腕が上がったものと解釈していたのだろうが、家出同然に母から逃げていった娘の方が、料理上手だと云う事実は、ショックに違いないと、ハラハラした。

しかし、初めての訪問で、幾分上がっているのか、母は、その不都合な事実に気づかず、“へえ、女優さんも、料理が出来るんだね”と単純に応対した。

「ところで、父さんさ、毎日、何しているの?」藪から棒に、有紀が父に向かって尋ねた。

私は、有紀が何かを企んでいる時の藪から棒発言に気づいた。有紀が、何を企んでいるかまでは、想像する暇がなった。

「別に、何もしていないけど?」

「退屈じゃないの?」

「そのなのよ。私も、お父さんに、俳句の会とか、なにか趣味を探したらって言っているのよ」母が、すかさず合いの手を入れた。

「良いんだよ。二、三年かけて、本当にやりたいものを探す。それまでは、浮き草の生活を味わいたいってことだよ」

「その内、勉強するって言っている生徒と同じだわよ」母は、父に対してだけは、あいかわらず舌鋒鋭かった。

ただ、娘たちに対する態度は、相当に和らいでいた。どのような、心境の変化があったのかまでは判らなかったが……。

「でね。父さんさ、劇団の経理手伝って欲しいんだけど」有紀が、核心に触れた。

そう云うことだったのか。しかし、父に劇団の経理を任せると云うことは、私はクビと云うことになる。

有紀が、勝手に暴君のように、差配し始めたのを、私は呆れて眺めていたが、あまり深く考えようとはしなかった。
つづく

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プロフィール

鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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