第19章そのタバコは、奇妙な味がした。酷く甘ったるいバナナの匂いがした。フルーティとも言えるが、どこか外人さんのニオイだった。
「タバコの香のしない煙草だね」俺は、礼儀だと我慢して、数回吸いこんでもみ消した。
「たしかに、貴方には似合わないタバコね。でも、マルボロが似合う筈なのに、どうしてキャビンなわけ?」
「その通りだね。一年前までは、仰るマルボロ派だったから、指摘は正しいよ」
「それを、なぜ止めたのかしら?」
「どうしてだったかな・・・・・・」俺は、女に指摘されて、一年前のことを思い出そうとしていた。
女は、忍耐強く、俺の記憶が戻るのを、バニラの香りをふりまきながら、待ち続けた。
「たしか気管支炎になった。ニコチンが強いからと云うわけではなく、ブレンドした香の成分が、合わないと思ったのかな・・・・・・」
「繊細なのね」女は、特別嫌味なニアンスを含まずに確認するように、口にした。
「繊細かどうか別にして、喉に合わなかったのは事実だね」
「でも、それまでも、マルボロだったんでしょう?」
「メーカーからの公表した情報にはなかったけど、おそらく、成分の割合とかを変えたんじゃないかな」
「メーカーが勝手に、そう云うことするかしら?」
「陰謀論的だけど、メーカーは、空とぼけて、結構変えているよ。都市伝説だけど、アメリカのタバコメーカーが、依存症になる成分を混ぜこんでいた話は有名だからね」
「そんな、それって犯罪じゃないの?」
「まあ、微妙だよね。そもそも、ニコチンが依存症のある物質だから、プラス依存症の物質を加えるか、増量したからと云って、イコール犯罪とは言いにくいのかもね」
「ふ~ん、そういう理屈になっちゃうわけね。それって、屁理屈みたいよね」
「そうだけど、案外、ディベートなんて、そういう感じだからね。アメリカなんて、国中が、こぞって、その屁理屈で世界を牛耳っているわけだから・・・・・・」
「そうなの。ちょっと判りにくくなったけど、貴方がアメリカ嫌いということかしら?」
「好きじゃないね」
「上手いこと胡麻化したわね」女は酷く楽しそうに笑った。
つづく
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