第15章「なら、君が一人で残るんだな、それは勝手だ。電話しておくからさ」
「いやっ!アンタも一緒」敦美は急に落ち着きを失い叫んだ。
「うるせ~!」俺は平手で敦美の頬を一発、思い切り引っぱたいた。
「さあ、着るんだよ。さっさと着ないなら、もう一発」俺が腕を振り上げると、敦美が逃げるようにベッドから飛び降りた。
「さっさと着るんだよ」ノロノロと下着を着ける敦美を怒鳴りつけた。
そうして、俺は漸く、敦美をホテルの外に引き摺りだした。
「今夜はお仕舞だ。俺は電車だけど、君はタクシーか」
「ねえ、ホントに駄目なの、もう一回」
「薬をやめるんだな、本当の君なら抱きたい。でもな、今の君は、本当の君じゃないからな」
「何言ってんの、チャンと私だよ……」
「違うんだよ、兎に角、薬をやめろ。俺が言う言葉はそれだけだ」
「ねえ、悲しいよ……」
敦美が道端でしゃがみ込んだ。
俺は必死で無視した。
これ以上、敦美と云う麻薬中毒者とつき合うことは、危険すぎた。
しゃがみ込んだ敦美の背中は、気の毒なくらい憔悴していた。
見捨てて立ち去る踏ん切りがつかずに、俺は立ち往生していた。
しかし、一時の感情が命取りになることがあることも判っていた。
自分の女房を引き留めておくために、薬漬けにしようとする亭主のいるような女とのつき合いは、危険の抱え過ぎだった。
「じゃあな、やめろよ」
俺は言い放つと、乗ってきたGTRを横目に、新宿駅の南口に足早に向かった。
・・・・・・クソ!何てこった。女を置き去りにして、逃げるようにするなんて、俺じゃないよな・・・・・・。
・・・・・・もう少し優しく宥めるべきだったのかもしれない。しかし、アイツを車に乗せるのは絶対にヤバイのだから、仕方がないじゃないか・・・・・・。
俺はブツブツ心の中で呟いた。
理屈上は、俺の取った行動は妥当だった。ただ、自分らしい選択だったかと言えば、そうではない事が、気持ちの中でわだかまっていた。
いく当てもなく、俺は、人の波の中に身を沈めた。
二度と会うこともない女に、後ろ髪を引かれているのが、腹立たしかったが、今さら振り返るわけにもいかなかった。
つづく
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