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終着駅405


第405章

静かな入院生活がはじまった。分娩促進剤の点滴をしている間は動けないが、それ以外は、散歩も自由だし、買い食いも自由なのだから、のんびりとした時間が流れていた。そんな時間が二日続いた。

そして、その時は突然訪れた。

有紀を櫻井先生に紹介している最中に、村井先生が入ってきたのだが、その時の有紀の表情を思い出して、私は一人ベッドで思い出し笑いをしている時だった。

唐突に、ベッドの中が湿っぽくなった。失禁と云う経験はないが、明らかに水っぽいものが、股間から流れた。

“破水だろうか?”私は気恥ずかしさが僅かにあったが、これは異変に違いないと、咄嗟にブザーを押した。

「どうしましたか、竹村さん」あいかわらず、明瞭な声が流れてきた。

「あの、破水かもしれません」

“わかりました”と云う声だけで、インタホーンは切れた。

ストレッチャーを押して、数人の看護婦が駆けつけた。

「これから、処置室に行きますからね。ベッドは、それまでに整えておきますから、これを羽織って濡れたものを脱いでいただけますか」そう言い残して、三人は一旦退室した。

“やはり破水なんだ”私は、陣痛がはじまるサインと聞いていた、破水をいま、経験しているのだと、自分に言い聞かせながら、手早くパジャマと下着を丸めて、洗濯袋に突っ込んだ。

薄いガウンのような手術着のようなものに、着替えることは着替えたが、ショーツを穿かずに、ストレッチャーに乗る勇気はなかった。

きっと、出産時には、そんな恥じらいなど忘れてしまうのだろうが、破水レベルで、ノーパン状態は憚られた。

きっと、こういうケースに馴れているのか、用意が整ったのを見ていたかのように、三人は再び入室してきた。

「ストレッチャーに、ご自分で乗れますか」

私は軽く頷いて、自ら、ストレッチャーの乗客になった。そこから、どこに連れていかれるのか判らなかったが、視界だけは遠ざけておきたかったので、硬く目を閉じ、ストレッチャーにすべてを委ねていた。

「想像以上に、破水が早く来ましたね」目を開けると、懐かしい櫻井先生の顔があった。

「促進剤も順調に効いていますからね。早ければ半日後、遅くとも数日以内には、出産の可能性が出てきましたよ」櫻井先生は、そう言いながら、産道である私のバギナの中に二本の指を差し入れて、子宮頚の状態を確認していた。

「良い感じに柔らかくなっている。余程、お腹の赤ちゃんは世に出るのを急いでいる感じですよ。お母さんの意識が伝わっているという神話でも作りたいくらい、想像以上にいい感じになっている」

櫻井先生は、饒舌だった。他の患者の触診中にも、こういう風に口走るのだろうかと訝ったが、敢えて聞く勇気はなかった。

再びストレッチャーに乗せられて、私は病室に戻った。櫻井先生は、一時間後くらいに病室に顔を出します、と言うと、再び診察の方に消えていった。

ベッドは綺麗に整え直されていた。破水が何度も起きるようなら、有紀に頼んで、もう二、三枚パジャマを持って来て貰おうかと携帯を鳴らした。

携帯を鳴らしながら思い出したが、予備のパジャマの下に、かなりの現金を隠している事を思い出した。

有紀になら、見つかっても構わないと思う反面、やはり、隠していた事実は、愉快ではないだろうと、新しいパジャマを買って来て欲しいと頼むことにした。

『あぁ有紀、私。あのさ、さっき、破水しちゃったんだよ』

『えっ、破水したの。だったら、今夜から陣痛だよね』

『そうだったかしら?その辺の流れ、記憶してないんだけど』

『困ったママだね。早ければ、今夜とか明日とかに産まれてしまうのかもよ』

『そんなに早く?まだ、陣痛らしい感じはないけどね』

『それが、突然に来るらしいよ。大袈裟な人は、飛びあがるくらい痛いとか言っているけどね』

「脅さないでよ、それでなくてもナーバスなんだから」

『しかし、困ったな、稽古が終わるのが、十一時近くなっちゃうんだよね。でも、今夜とか、明日の出産だとすると、夜中でも、入れるよね』

『多分、問題ないと思うけど、確認しておくよ。それに、産まれそうになったら、櫻井先生の方から、有紀に連絡入れて貰う話になっていたよね』

『そうだったよね。なにせ、あの時は、村井先生ショックで、私の頭は、半分飛んでいたから……』

『それにしても、村井先生って、圭に似すぎだったでしょう』

『うん、初めは、嬉しい気持ちがあったけど、段々、気味が悪くなったかな。瓜二つってあるんだって思ってね』

『駄目だよ、私の主治医をたぶらかしたりしちゃ』

『大丈夫だよ。もう二度と、圭のような男は、どれほどセックスが善くても、もう勘弁だよ、ふふふ』

『また、連絡するから、取りあえず新しいパジャマ二枚と、ショーツも2,3枚買っておいてよ』

そうして、有紀との連絡が一段落した辺りから、じわじわと鈍痛が腹部に押し寄せた。

櫻井先生がいた。看護婦が私の腰を強めに押していた。気が遠くなるほどの痛みなら、ありがたいが、記憶が薄れるほどの痛みではないので、もろに痛みを受入れるしかなかった。

しばらくすると、痛みが嘘のように消えた。痛みが消えているのだから、ほっておいて欲しいのに、助産師が、子宮頚を指で揉み解そうとするので、その不快感が嫌になったが、やめろとも言うわけには行かなかった。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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