新年 あけましておめでとうございます 今年もよろしくお願いいたします。
2016.01.01 鮎川かりん
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第399章まったく可能性がゼロではない問題だが、可能性が少ない状況なので、話は意外に軽い感じで、口から流れた。
「遺産の方は、“竹村ゆき”に残ることになるんだけど、その管理は金子さんに任せるとして、その遺産を動かす決定者は、子供が成人するまでは、有紀になるから。そして、養育に見合う手数料のようなものも、有紀に渡るように金子さんに話してあるから……」
「そこまで考えたの?」
「そう、暇を持余していたからね。現実には、子供の面倒は、当面、田沢君のお母さんのような人に任せられるだろうけど、ある時期からは、有紀にも、かなり迷惑が掛かると思うんだよね……」
「大丈夫だよ。何とかなるよ。父さん達に触らせないわけでもないから、手分けして、何とかなるもんでしょう」
「そうね。死んだ後は、どうなっても、実際は判らないんだから、死人が口出すことじゃないしね。ただ、私が、一番信頼している人間は、有紀だってこと」
「わかりました、お引き受けします。でも、多分、そんなことにはならないよ。到底、姉さんが死ぬとは思えないもの」
「私も、まさか死ぬとは思っていないけどさ、白血病って聞かされた瞬間から、じわじわと、自分の死って意識せざるを得なくなったのは、事実だよ。現実は、色んな事故に遭遇することだってあるんだけど、それは事前情報がないから、手の打ちようがないけど、事前情報を突きつけられると、やはり、考えちゃうよ」
「参考までに聞いておくけど、姉さんは、子供の教育とか、将来とかに、何か夢でも持っているの?」
「特別に考えたことないよ。多分、私たちだって、親たちの考えている子供たちには育たなかったろうしね……」
「そうかな、姉さんなんか、数年前までは、あの人たちの理想通りの娘だったんじゃないの?」
「どうかな、あんまり勉強されたくもなかったようだし、キャリアウーマンになって欲しいとも思っていなかった感じだったよ。平凡に、さっさと結婚して、お母さんになって欲しい。少なくとも、母さんは、そうだったから、失敗作でしょうね」
「だったら、圭が一番うまく育った、そう云うことになるのかな?」
「だと思う。でも、途中であんなことになっちゃったから、今では、思い出したくもない、アクシデントなんだろうね」
「考えてみると、うちの両親って、面と向かって嘆かないけど、かなり不幸な人たちになっちゃうのかな?」
「どうなんだろう。父さんも母さんも、あんまり子供になにかを期待する、そういう親じゃなかったからね。母さんは、一般論を口癖のように口には出していたけど、本気度は怪しかったから……」
「それにしても、圭の自殺ってさ、今でも、私、納得出来ていないんだよね。時々、夢に、アイツ出てくるんだよ。いつもニコニコな健康優良児みたいな顔つきでね」
「まさか、間違いなく死んではいるんだけど、私たちとの関係が複雑に絡んでいた感じは残っているけど……」
「それもある。でも、自己反省の形が、あそこまで極端に振れる必要もなかった筈なのに、どこか腑に落ちないんだよね」
「そうね、私たちが知っている範囲だけなら、腑に落ちないけど、他にも知らない事実が重なっていたような気もするしね。それで、収拾がつかなくなった、そう思うことにしているの……」
「そうか、腑に落ちない部分は、その未知の秘密がまだまだあることで、穴埋めしてしまうんだ」
「その方が、リアリティがあって良いでしょう。じゃないと、哲学的自殺、そんなのは太宰治だけで良いよ。普通の人間じゃ、ついていけなくなるからね」
「たしかに、劇には出来るけど、舞台はかなり厄介だし、観客を納得させる手法に苦労しそうだよね。私たちが知らない、幾つかの事実を書き加えないと、筋道が出来ないものね……」
「あっ、有紀、そろそろアンタ出かけないと間に合わないよ」私は、圭が取りつけてくれた壁の時計に目を走らせた。
つづく
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