第413章「いやぁ、櫻井先生、見事な腕前でしたね。竹村さんもおめでとうございます。」
「いやぁ、ご本人のポテンシャルに助けられただけですよ。それにしても、村井先生の眼力も見事でしたね。竹村さんが、”滝沢ゆきさん”そっくりだって言っていたでしょう。あれ、現実に近かったんですよ」
「えっ! どういうことですか?」
「いえね、いまお話していたんですけど、滝沢ゆきさんは、竹村さんの妹さんなんですよ」
「なんだ、そう云うことだったのか。どおりで似ている筈だ。それにしても、双子と思うくらい似ていましたからね・・・・・・」
「村井先生も、滝沢さんのドラマ観ていたわけですね?」
「いやぁ、親父がファンだったので、ついつい一緒に観ることになったんですけどね。親父は、竹村さんが初めて診察に訪れたとき、驚いたらしいですよ。あまりのショックに、触診を省いたそうですから、ハハハ」
「ほう、あの先生の度肝を抜いたわけですね」
「そのようですよ。竹村さんを初めて診察した夜に、家で例の滝沢ゆきさんが出演していたドラマの録画を再生して、確かめたくらいですから・・・・・・」
「それはそれは、筋金入りのファンですね。それで、村井先生に直に依頼されたわけですね。偶然が重なっているんだな、竹村さんのケースは・・・・・・」
「竹村さんの日頃の行いが、余程良いんですよ。今日確認しましたけど、がん細胞の数も変化ありませんから、治療に入るまでの猶予はじゅうぶんですからね。体力を回復する期間は充分取れそうです」
「あの、今回の出産入院と治療の間ですけど、どんな感じのスケジュールを考えておけば良いのでしょうか?」
「出産後、一般的には一週間程度の入院ですけど、竹村さんの場合、二週間程度が良いのかなと思っています。まあ、竹村さんのご都合にもよりますけど、一日おきに診察に来て頂いても構わないのですけど、逆に面倒じゃないかと思いましてね。それと、出来れば毎日お母さんの母乳を飲ませてやりたいんですよ。成長の中身が違いますから・・・・・・」
「それは、問題ありません。それと、病室も、この際ですから、このままで良いのかなと思いまして・・・・・・」
「それでよろしければ、そのように手配しておきましょう。ところで、村井先生の治療スケジュールのご予定は?」
「あぁ、それを話し来たのですが、話し出すチャンスを逃してしまいました」村井先生が、櫻井先生のペースに巻き込まれていた。
「櫻井先生の方が二週間程度と見てられるとすると、僕の方は一カ月先を治療開始の目途を立てていましたから、2,3週間は間が空くことになります。竹村さんの方のご予定は如何ですか?」
「そうですね。治療の開始が、1か月先でも大丈夫と云うことなら、少し、休養と云うか、体力を戻しておけるとか、そう云う事も出来そうですから、気持ち的にも余裕が出来ます」
「それが良いのかもしれませんね。1か月で、赤ちゃんを保育器から出せるかどうか微妙ですが、母体の回復と、保育器から出たあとの、保育環境とかを手配するにもベストでしょうね」
私は、二人の医師と状況判断の話に加わっている事が楽しかった。無論、医学的知識は持ち合わせずに、医学上の部分を除いてでも、同世代の三人がディスカッションしている雰囲気が心を和ませた。丁度、竹村をリーダーに、プロジェクトを立ち上げている時の雰囲気を、思いもよらない形で味わえたのは幸運だった。
「そうすると、現時点のスケジュールとしては、約二週間、産科に入院した上で、一旦退院。そうして、2週間前後、竹村さんは保養した上で、血液内科の方に再入院、治療開始。だいたい、そう云うスケジュールと云うことで良いですね」村井先生が、上手にまとめた。
「異議なし」櫻井先生がおどけた口調で発言した。
「意義ありません」私も、櫻井先生に倣って、同じように声を上げた。自分が、当該患者であることを一瞬忘れられる、キャリアウーマン滝沢涼のアグレッシブな一面が再来した。
つづく
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