第414章「あの、櫻井先生、赤ちゃんが保育器から出られる時期って、だいたいですけど、どの辺を目安にしておけば良いのでしょう?」
「そうですね、最速で1か月、遅くとも2カ月、その程度の目安しか、現時点では言えないんですよ。うちの設備だから、問題はありませんけど、1800グラムの赤ちゃんは、色んな問題を抱えているのは事実ですから、慎重に判断したいですからね」
「いえ、急いでいるわけじゃないのですけど、育児を引き受けてくれる方への連絡もあるものですから……」
「結局、このあいだお話していた、候補者の方に決まったんですね?」
「ええ、赤ちゃんを預ける条件は揃っている方のようでしたから。ご家庭も信用できそうでしたし……」
「それは良かった。特別、期間とかは決められたのですか?」
「ええ、最低でも4カ月くらい。場合によっては半年とか迄はお話して、了解をいただいていますので……」
「それなら充分ですね。これから、8カ月くらいの目安が見えてきたのですから」村井先生が、自分の担当治療の期間も、考慮した期間に満足したように、言葉を挟んだ。
「あっ、そうでした。櫻井先生に先日お預けした住所の近くのクリニック紹介の件は、どうなったでしょうか?」
「あぁ、妹さんの方に電話でお話しておきましたよ。交通の便が良いから、あそこで構わないと申し上げましたが、治療状況がスッキリしない時は、僕の方に連絡を入れて貰って構わない。そのように話しておきましたから」
「そうだ、もう一つ質問があるのですけど、イイですか?」
「無論です」
「私は、明日にでもNICUの方で赤ちゃんと会えるようですけど、私の家族の訪問とかの目安のようなもの、その辺の時期を知らせろって、母からの催促があるものですから……」
「あぁ、ご両親の方ですね。そうですね、今でも、駄目と云うつもりはないのですが、現状はかなりの管に繋がれて、いかにも瀕死の状況に見えますからね、それを考えると、一週間後くらいの方が妥当じゃないかと思いましてね……」
そんな話を交わし、私の病気治療の方が終わった時には、全員で祝勝会をしようなどとノー天気な話で、三人は話を切り上げた。
彼らの希望的観測には、滝沢ゆきが含まれているのは当然だったが、敢えて、そのことは確認しなかった。
おそらく、有紀も、村井先生と同じ席で話すことは、望まないわけもないだろうから、あっさり実現すると思いながら、ベッドで横になった。
常に、スケジュール管理で生活をしていた私にとって、櫻井先生と村井先生との打ち合わせは、一時のカンフル効果をもたらしていた。
今夜、有紀が顔を出してくれるかどうか、まだ連絡はなかった。
有紀に対しての依存が強くなっていく自分に気づくと、白血病と云う病で、気弱になっている自分を自覚していた。
当然、具体的には考えないようにしているが、抗がん剤治療の過酷さが、知らず知らずに、自分自身を気弱にさせている自覚はあった。
そして、連動するように、有紀への依存が強まっているのだが、自重しなければと云う気持ちと、孤独の中で見出した依頼心の間で、心は揺れ動いた。
有紀は、充分に多忙な身である筈なのに、いとも容易く時間を作っている顔をしているが、相当の無理を強いている自分がいることが辛くもあった。
そんな理性的な気持になりかけていながら、どこかで、有紀が顔を出すことを望んでいる自分がいる情けない気分に陥るのだが、どうしようもない感情だった。
つづく
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