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終着駅416


第416章

入り口から、遠慮深いノックの音が聞こえた。こういう神経の使い方をするのは、父か、お義父さんくらいしか思い浮かばなかった。

「ハ~イ!」私は、歯切れよく、大きな声で、その思慮深いノックに応じた。

覗きこむように入ってきたのは、社長だった。

いつもの社長から発せられるオーラが消えていた。少なくとも、私は、その時感じた。

そして、まさか社長までが、末期の癌を告白するんじゃないだろうかと、不安に包まれた。

「おめでとう。突然、顔を出してスマン。実は、ここの院長と知り合いでね、君の状況がどうなっているのか確認した所、心配だったら、自分の目でたしかめに行けば良いだろうと言われちゃってね。それで、面会しても大丈夫なのかと聞くと、本来は駄目だが、この際許してやろうって言われたものだからね……」

「わざわざ、申し訳ありません。それにして偶然です。さっき、映子さんと電話でお話したばかりなんですよ」私は、うっかり流れの中で、社長と映子さんの関係を示唆するようなことを口走った。

「そうだったのか。アイツも、色々と滝沢君のことを気にかけていたからね」案に相違して、社長は、映子さんとの関係を、周知の事実のように受け流し、吸い取り紙のような顔つきで、病室全体を眺めていた。

「しかし、滝沢さんの選択は正しかったようだね。どう考えても、今回のケースは、帝王切開が常識だと云うのに、貴女は、自分の考えを断固貫き通した。その理由は、男の僕には判りようのない意志なんだろうが、映子は判ると言っていたのだから、そう云うものなんだろう」

「映子さんと私のことで、心配してくれたのですか?」

「あぁ、君は、私たちの間では、接着剤にふさわしいアイドルみたいなものでね。君が、幸か不幸か、話題を提供してくれるお陰で、倦怠期を逃れているようなものだよ。いまさら、滝沢君に、私たちの仲を隠しても意味がないからね。それに、近い将来、会社を君に預けるとして、映子の件も、多少は面倒見て貰いたい気持ちもあるから……」

「私も、映子さんから、概ねのことは聞かされていましたから、ある程度は承知していました。でも、近い将来、会社を預ける、その話は、初めてお聞きしますけど?」

「そう、そこなんだよね。ドサクサ紛れに言ってみたが、やはり、チェックが入ってしまったか、ハハハ」

「そりゃチェックしちゃいますよ。私は、会社の経営なんて、考えてもいませんから……」

「現実はそうもいかんのだよ。まあ、私の気持ちを話させてくれ。無論、これから、滝沢君は、重大な治療期間に入るのだから、答えを求めて話すのとは違う。
ただ、事前情報としてインプットしておいてほしいと云うに過ぎない。ただ、君の決意を確認した上で、私自身の選択も変わるわけだから、是非聞くだけは聞いて欲しんだな」

「どうして、急にこう云うお話になるのですか。まさか、社長までもが末期がんに罹患なさっている、そういう事じゃないですよね?」

「あぁ、それはない。ただ、人生に、一定の区切りをつけるべき時期が近づいているのは事実なんだよ」

「少し、意味が判り難いのですけど……」

「うん、そうだね。私の話し方は、いつもこうで、周りに迷惑を掛けている。竹村氏に、だいぶ言われたよ。彼がいる間は、注意していたが、居なくなってしまうと、タガが外れてしまって、元に戻ったようだ、ハハハ」

「それで、お上手に説明していただくと、どう云うことになるのですか?」

「うん、女房の状態が思わしくなくてね。これから何年生きるかどうか、それは判らないのだが、日常生活のすべてで介護が必要になってきている。
事実としては、介護自体は、ひと様にお任せ出来るとして、そこに、私が居るかいないか、そう云う点で、悩ましい気持ちになってきている、それが、私の、今の心境なんだね」

「つまり、奥様の近くにいてやりたい、そういう事でしょうか?」

「そう、そう云う気持ちが、日々増すばかりでね。
この機会を逃すと、私は永遠に心残りな生き方を強いられる。いや、現実に、女房の面倒を見ててやりたい、そういう心境に、どんどんなっていると云う事実があるんだよ。
なにも、自分に対するエクスキューズとか、そういう次元ではない積りなんだがね」

「奥様の病気が、そのまま進行なさると、最終的には、意思の疎通も出来なくなるとか、そう云うことなのですか?」

「まあ、簡単に言えばそうだね。医学上は、色んなケースがあり得るらしいが、意識がなくなるのだけは、たしからしい……」

「でも、と云うのも変なのですけど、現在の社長の立場でしたら、出社しないくても、充分指示は出せる状況だと思うのですけど。それに、たまに、会合とかがあっても、1,2時間、チョッと時間を取れば、済むことだと思いますけど……」

「理屈上は、その通りだ。私も、女房の介護を考えた時、君の言っているように、まずは考えた。しかし、その理屈通りで日常を過ごしても、やはり、心が晴れ晴れとなって、女房に寄り添っている感覚を味わえない、そういう気持ちの方が強くなるんだね。なにか、小手先で人生を弄んでいるような、そういう思いだけが、強く印象づけられてね……」

「そう云うものなのですか、私は現時点で、社長の心理を、理解出来るとも、出来ないとも言えないんですけど、人生の区切りのようなものに立ち向かう時に、余計な不純物を取り除いた上で、と云う心理は理解できます。
私自身、竹村の、死に際の準備万端な行動に、幾分呆れたくらいでしたけど、自分が、生きるか死ぬかだよと、現実を突きつけられたとき、やはり、心境は大きく変わりましたから……」

「どう云う風に変わったのかな?」

「社長に驚かれると困るんですけど、仕事なんか辞めても良いかも、そういう心境にまでなっていました。
それに、私の場合、俄か株主なわけで、実質的に、経営者として何もしていないわけだから、大株主であってもなくても、或る意味で同じだったんです」

「そう言われれば、君の方の心境が、そのようになっても、不思議はないんだね。う~ん、しかし、それは、非常に困る心境だな。理解は出来るんだが、同意は出来ないかな……」

「でも、私だけが、そういう状況にあるわけじゃないんだ、社長の話聞きながら、竹村の死に際の意志とか思い出すと、私の、心境は、まだまだ、真似事な部分があると思っています。
辛い治療かもしれませんけど、最近では、私の年齢なら、先ずは完治する病になりつつあるわけで、ママゴト的な死に際なのかなって感じる部分もあります。まだ、充分に、現状が咀嚼は出来ていないのですけど……」

「なんだか、お祝いに来て、トンでもなく厄介な話をしてしまったね。
申し訳ない、どうも最近、こらえ性がなくなってきているんだな。あきらかに歳だよ。まあ、軽い気持ちと云うのはなんだが、一つのアイディアとして、君の選択肢の一つに加えておいて欲しい、今夜は、そう云うことにさせてくれ」

その後、社長は、自分の青写真を語り、映子さんとの関係をどのようにしようかとか、聞かれても返答に困るような話を幾つも投げかけて帰って行った。
つづく

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鮎川かりん

Author:鮎川かりん
小説家志望、28歳の女子です。現在は都内でOLしています。出来ることなら、34歳までに小説家になりたい!可能性が目茶少ないの分ってっているのですけど、挑戦してみます。もう、社内では、プチお局と呼ばれていますけど…。売れっ子作家になりたい(笑)半分冗談、半分本気です。
初めての官能小説への挑戦ですけど、頑張ってみます。是非応援よろしくお願いします。

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