第456章退院後、1週間くらいは、湯船を使うのは我慢して、シャワーだけにしておくように、と注意を受けていた。
聞いた時は、どうして?と思ったが、上半身を起こしているだけなのに、疲労感があった。
「有紀、少しベッドで横になってくるから……」
私は、返事を待たずに、ベッドルームに向かった。リビング同様の形状の空気清浄機が作動していた。たしかに、ベッドルームも無臭だった。眼で確認は出来ないのだが、埃なども、いつもの状態に比べれば、少なくなっている感じだった。
ベッドカバーが変っていた。以前、何度か買い替えようと思いながら横着をしていたものだが、そのことを、有紀に話したかどうか覚えていなかった。
そのことを、有紀に尋ねるよりも、横になることを、身体が要求していた。
疲労感があるだけで、特に、どこがどうという症状はなかった。4カ月以上、ベッドで横になっていたのだから、おそらく筋力がなくなっているのだろう。
筋力だけではなく、内臓も含めた肉体全体が、虚弱になっていると実感できた。
“湯船に浸かるのは1週間後くらいに”と村井先生が言った言葉に納得した。
着ているものを、脱ぎ捨て、枕元に用意されていた、ジャージを着こんで、ベッドに潜る込んだ。
寝てみて気づいたのだが、寝具一式が新品になっていた。ベッドそのものは同じだったが、マットも新しいものになっていた。
“有紀って、もう……”と思いながら、その新しい寝具の中に身を潜り込ませ、眼を閉じた。
枕に違和感がなかった。懐かしい、そば殻枕の感触が、私の頭を懐かしく迎え入れてくれた。
枕を変えなかった、有紀の細心の心配りに脱帽しながら、洗い立ての枕カバーの僅かな香りに包まれ、私は浅い眠りに就いた。
どのくらいの時間眠っていたのか判らなかったが、ベッドルームの空気が動いた。
気配を感じた時点では、夢か現(うつつ)かの区別がつかなかった。
「大丈夫?」誰かの声が聞こえた。私はまだ、夢の中にいた。
布団から出ていた腕が持ちあげられ、布団の中へと誘導されて行った。看護師が見回りをしているのだろうか、幾分、現実に戻りかけていた。
しかし、動いていた空気は、再び静寂を取り戻し、私は、再度眠りに就いていた。
なぜか、櫻井先生が骨髄から髄液を採取するのだと言って、うつ伏せになっている私のお尻を挟むように跨っていた。
……あぁ先生、そこは脊髄じゃありませんけど……
私の必死の抗議は、声になっていなかった。
……そこは、ア×ルです。もう少し、下の方です……。あぁ、そうじゃなくて、おまたの間には脊髄はないんですけど……。もっと、ずっと上なんですけど……。
私の無言の抗議は、櫻井先生には届いていなかった。だからと言って、櫻井先生は、股の間に執着することもなく、本来の脊髄の辺りに指を這わせていた。
「姉さん!」私は、有紀に揺さぶられ、目を覚ました。
つづく
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