第444章 『ええ、ひとつだけあるんですが、その、竹村さんの治療の終了にもよるんですけどね・・・・・・』
『あぁ、例の基金の候補者選びですよね?』
『それです』
『あの選定のタイムリミットは、何時だったかしら?』
『第一回は、期間10か月で終了しますので、三月が区切りなんですよ。絶対に無理そうな期間だなと思っていました・・・・・・』
『そうですか・・・・・・、意志表示は出来ると思うのですけど、選考書類に全部目を通す余裕があるかどうか、ちょっと自信はありませんね』
『そうですね、選考こそが、理事長の専権事項ですからね。竹村氏の遺志を継ぐ主たる業務ですから・・・・・・』
『金子さんだって、私以上に、竹村のことはご存知な筈ですけれど・・・・・・』
『ある程度は理解していますが、竹村さんの遺志は、必ずしも自分と同じ基準を要求はしていなかったと思います。異なる視点で、応援するシングルマザーを選べば良いという考えでしたから・・・・・・』
『あまり関与したくないと?』
『弁護士にも、それなりの矜持がありますからね。基金から支援を受ける人物と事務的なやり取りもあります。つまり、あくまで事務局であるべきなんです。事務局が基金の選択権にまで関わる事は、様々な不透明さを抱えてしまいますから。私の私情が入り込む余地はなくしておかないと、そういう意味です。仮の話、理事長側の選択であれば、選択に不透明さがあろうがなかろうが、法人格上問題はありません。けれど、その選択が、事務局のお手盛りでは、霞が関の審議会と同じになってしまいます。それは、避けるべきですよ』
金子弁護士の意思は断定的だった。そして、弁護士の枠を逸脱しない行動原理ははっきりし過ぎるくらいだった。この際、これ以上のごり押しは、妥当な結果を生まないと、直感で理解した。
『そうなると、私に代わる正当な代理人が必要ということになりますね?』
『そうなります。副理事長ポストを新設しておくのがベストだと思います。理事長が選択不能の場合には、副理事長が、その業務をおこなう、と云う一文を追加すれば済みますから・・・・・・』
『副理事長ね・・・・・・。私と似たような感性がある人間ですよね?』
『そのほうが、連続性があるでしょうから、ベターですね。正直、アドバイスを求められたら、指名できる候補者はいます』
『その候補者って、滝沢有紀ということですね?』
『そうです。何か問題でもありますか?』
『有紀を副理事長にすることこと依存はありません。ただ、女優としての立場とか、劇団の座長としてとか、支障がなければいいのですけど。出来たら、少しくらい手数料のようなものも、支給出来たら、頼みやすいとか、そう云うこともあるんでしょうね?』
『それは、僕も考えていました。たまたま、第一回の選定は竹村氏が行ったので問題はなかったのですけど、奥さんが理事長になった以上、一定の報酬を設定するのは当然ですから。いつか言おうと思いながら、ついつい言う機会を外していただけです。副理事長を設けると云う改正時に、役員の報酬を決めておいた方が良いのだと思います』
『そう云う理屈で行くと、事務局への報酬も考えないといけませんよね』
『いや、それは奥さんから頂く顧問料の中に含めておきましたから、この件を特別扱いする必要はありません』
『それにしても、役員が報酬を取ると云う事は、支援できる対象者の数が減ってしまうわけでしょう?』
『ええ、理屈上は、そうなります。ただ、現状の信託している資産の運用益は、我々が予定していた利回りを1%近く上回っていますので、当面、対象者が減る心配はありません。将来的には、利回りゼロと云う事態も、可能性としては残されてはいますが……』
『わかりました。それでは、予定利回りを上回った時だけ、報酬が発生すると云うことも出来ますよね』
『いや、それは邪道です。一定の報酬額を決めておくべきです。どうしても、受け取るのが心苦しいと云う事でしたら、その時は、寄付をすると云う形式をとりましょう』
『わかりまし。では、その辺のことは金子さんに任すとして、有紀に、副理事長就任の件を承諾させておけば良いわけですね?』
『そう云うことになります。出来るだけ早く、役員の報酬額を決めて、ご連絡します。ところで、肝心なことを聞き忘れていましたが、いつ入院されるのですか?』
『あら、まだ言っていませんでしたか。入院は明後日なんですけど、数日は、検査だけだと思いますので、連絡は可能ですけど……』
『いや、早急に決めてしまいますよ。明日中にご連絡しますから、有紀さんの方に話を通しておいてください』
金子弁護士との長い電話が終わった。“竹村ゆき”は長電話に呆れたのか、涎を垂らして、桃源郷を彷徨っているような眠りに就いていた。
つづく
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