第461章“竹村ゆき”を胸に抱きしめた。
瞬間的に、忘れかけていた、乳房のはりを覚えた。しかしと、一瞬動きかけた手を戻した。
「まだ、飲ませてあげるのは駄目なんでしょうか?」田沢君のお母さんは、自分のことのように哀しい顔をした。
「良いのかもしれないんですけど、ハッキリ確認を取っていなかったので、今日は我慢します。万が一があったら困りますから」
「姉さんも、忘れずに聞いておけばよかったのに……」有紀が、軽く咎めるような言い方をした。
「じゃあ、今日のところはミルクで我慢しないとね。たしかに、安全を確認してからの方が安心。それに、ゆきちゃんは、ミルクも大好きですからね、大丈夫ですよ」田沢君のお母さんは、話題を変えようと、彼女なりの工夫で、その場をつくろった。
「えぇ、いずれ、厭になるくらい飲ませてあげますから」私も、授乳の話題を打ち切るように、笑顔を浮かべた。
「それで、今後のスケジュールのようなものは、予定されているのですか?」
「えぇ、あと、ひと月半くらいは、体力の回復にあてるよう、言われています。自分が考えている以上に、筋肉が落ちているようで、すぐ、横になりたくなったりするんです」
「私も、私なりに、お姉さんのスケジュールを想像してみたんですよ。すこし、父の知恵も借りましたけど。父は、治癒しても、免疫の回復や体力の回復に、二か月は最低必要だって力説していました」
「そうでしたか、何からかにまでご心配かけてしまいまして……」
「いえ、私自身の為にも、お姉さんのスケジュールを想像する必要性みたいなものがあったんです。いつまで“ゆきちゃん”と一緒にいられるのかな。居なくなるまでに、私の心づもりもチャンとしておかないと。そんな風に思っていましたから……」
「あの、田沢さんのご想像でいくと、姉の静養が終われば、“ゆき”は、田沢さんの手を完全に離れると云う結論なわけですか?」有紀が聞いた。
「えぇ、お母さんが元気になったら、自然、そうなりますから……」
「実は、田沢さん。私たち、その点のことも含めて、ご相談したいと思っていたんです。これから、二カ月くらい経ったら、姉は復職します。でも、姉が復職することは、働いている日中は、誰が、“ゆき”の面倒を見てくれるのだろうか。そんな当然の心配を、すっかり忘れてスケジュール描いていたんですよ。だから、姉の復職後の育児の部分が、ぽっかり抜け落ちていたんです。田沢さんから見たら、一番肝心な問題だったんですけど……」
「お姉さんの勤務中の“ゆきちゃん”の育児と云う心配ですね。でしたら、私で良ければ、引き続き見られますよ。送迎のバスはありませんけど」
田沢君のお母さんは、明るい表情で、有紀の悩みに反応した。
「でも、それでは、余りにも、ご親切に甘え過ぎていますから……」私は、視界が開ける歓びを抑えて、大人の対応を繕った。
「もし、田沢さんが、ご迷惑でなかったら、原則、平日の育児を願いできたらと……」有紀は、ここが正念場のような顔つきで、グイグイと交渉に当たった。
「勿論、問題なんてありません。私の方からも、そのお仕事、申し出たいくらいでしたから。主人も、そんなこともあるだろうけど、引き続き育児の仕事買って出た方が良いんじゃないのか、そんな冗談を言っていたくらいですから……」
つづく
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