第462章有紀と私、そして田沢君のお母さんは、三人三様の明るさで、挨拶を交わし、田沢家を後にした。
「一件落着だね」有紀は、タクシーに乗り込むと、シートに座りかけながら口を切った。
「ありがとう。アンタの押しの強さに助けられたよ」
「あれは、押しの強さとは言わないわよ。チャンスを果敢に捉えただけよ」
「そうだけど、私には出来なかったから……」
「当事者には言い難い話だからね。あれで良いわけよ。彼女も望んでいた事なのだから……」
「本気で、子供を育てるのが好きなのね」
「そうだと思うよ。あれは、天賦の才だね。彼女は、育児に心が奪われることで、自分のアリバイ証明が出来る人なんだと思う。育児を通じて、自分の自信が高まり、その他のことにも、アドレナリンが放出される、そう云うタイプの女性なんだと思うよ」
「勝手に決めつけるのね。でも、それが、真実である可能性は、相当の確立なのも事実だからね」
「八方丸くおさまったのは良いけど、姉さんの朝晩の送り迎え、かなり大変そうだけど、大丈夫かな?」
有紀は、私が最も不安に思っている事を、軽く口に出した。
「そうね、正直、辛くなりそうな予感はあるかな」
「だよね。朝晩はラッシュと重なるはずだから、タクシーを使うにしても、時間は大きなロスだから……」
「片道40分、会社までも40分。80分の早起きだね」
「帰りも同じことが起きるわけだから、160分間のロスか……」
よくよく考えてみると、一日当り、3時間近いロスが生まれる。
「漠然とだけど、その辺は大きな悩みよね」
「いや、もう具体的な問題でしょう。なにか、良い手はないのかしら?」
「まさか、そのためにマンションの買い替えも馬鹿らしいからね。でも、吉祥寺からなら、都心を通らないから、15分程度で行けるでしょう。そこから、普通に電車で会社に行けば、それ程の負担ではなくなるから……」
「あっ、そうか。年内には吉祥寺の家が出来上がるかもね」
「そうだ、家のこと、金子さんに任せっきりだったんだっけ……。チョッと電話入れておくわ」私は、慌てて、金子弁護士に電話を入れた。
「ええ、お陰さまで、無事帰還しました」
…………。
「えっ、10月に竣工予定ですか?」
…………。
「意外に、あっさり壊れて、あっさり建つものだと思って、吃驚しちゃいました」
…………。
「そうですね。今日、明日なら、有紀も一緒ですので、話が早いと思うんですけど……」
…………。
有紀が、話の内容を理解したらしく、オーケーサインを送ってきた。
「ええ、それでは、事務所の方に夜の七時に伺うようにいたします」
…………。
「いえ、ご足労なんて、とんでもない。そちらに、図面や色んなものがあるわけですから……。ええ、それでは、七時に」
つづく
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