第464章部屋に戻ったのは、12時近かった。有紀は、話の内容に関わらず、ご機嫌だった。
「もう、あの人のことは、ねえさんにお任せするよ。私も、死ぬような思いをすれば、変身出来るんだろうけどね、あいにく、病気になりそうもないしな・・・・・・」
「やめときなよ、切なくなるよ」
「そんなに切ないものなの?」
「そうね、絶望と希望が、行ったり来たりしてたね。どうして、運命が、私を選んだのか、腹が立って、点滴の管を引きちぎってやりたい衝動を抑えるのが大変だったからね」
「知らなかったけど、そういう時期あったのか。姉さんは、淡々と、治療を受けつけていたのかと思っていたけど・・・・・・」
「そう云う姿を誰にも見せたくないから、面会を拒否していたわけ?」有紀は恐るおそる尋ねた。
「泣くしか、解決法がないなんて、許せないものよ。
誰が悪い?自分が悪い、竹村が悪い、DNAが悪い、その他諸々のすべてが悪い、憎悪の連鎖。その間に、切なさが、どっしりと座り込んでいるんだから、肉体的にも、精神的にも、ムカムカの穴に嵌って抜け出せずにもがくんだから、最悪だよ」
「想像もしていなかった。そんなの聞いたら、病気にはならない方がよさそうだね。私だったら、先ず姉さんを、その苦しみの中に引き摺り込みそう。そして、どこまで自分が醜くなれるか、試すようなことになりそう」
「そう、だから、アンタは元気で長生きが似合っているのよ」
「元気で長生き。その言葉、嫌な響きだね。人間の業が凝縮されている感じ。やっぱり、佳人薄命の方が響きがいいね」
「潔しだね。私は、生きながらえてやるよ。一度、死ぬ思いさせられたんだから。それに、私がいなければ困る人間を抱えちゃったんだから、開き直らないと・・・・・・」
「本当に、姉さん、そう思うの?」有紀が、不安そうな表情で尋ねてきた。
「こういう女は怖い?」
「少し」有紀は、恐々答えていた。
「大丈夫だよ。そう云う強い女になりたいなって、思っているだけだけよ。
ただね、今までのように、他者に合わせて生きるのは、やめるようにす努めるつもり。特別、逆らうわけじゃないけど、無理に合わせない、そう思うようになっているかな・・・・・・」
「だんだんと、姉さんが、ワタシ化しているね」
「無理だよ。逆立ちしても、有紀のジコチューには負けます。と同時に、アンタが生まれながらに備えている人情体質も真似できないからね・・・・・・」
「えっ!私って、人情味豊かなの?」
「そうだよ。その人間の資質とか感受性とかは、後天性は期待できないからね。親切ブルことは出来ても、心底自然に出てこないのわかる。アンタのは、天然で、そうなるのだから凄いの。正真正銘の人情なんだよ」
「そうかな。人情味豊かも、元気で長生きと似た語感だけどね・・・・・・」
「大丈夫だよ。有紀の人情味は寅さんのとは違うから、安心して」私は思わず微笑んだ。
「なら、良いことにするか」有紀もつられるように微笑んだ。
「案外、有紀の方が母さん達の面倒見る危険があると思っているくらいだから・・・・・・」
「まさか、そんなことはあり得ないから。やめよう、この話」
有紀は、おぞましい予見を振り払うように立ちあがった。
つづく
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