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第112章
それから一時間ほどして、お隣さんは揃って帰宅した。
敦美の情報によると、帰宅後一時間は風呂タイムなので、始まるのは、それからだというので、しばらくは読みかけの本をめくった。
「私ってさ、考えてみると、そんなにエッチが好きだったわけじゃなかったみたいなのね。会った頃の私が言っても噓っぽいけど、本当なの」
「そういうことはあるだろうね。何かの重圧から逃れる手段が必要だった。その手段が手っ取り早くセックスだった。或いは接触欲とか、そういうもので重圧から逃れようと行動した、そういうこともあるよ。だから、いまの状態を気にする必要なんて不要だよ。俺自身、今のような関係で、特別不満はないからさ」
「でもさ、イカナクなった女なんてつまんないかと思うんだよね。そんなことしていると、誰かに取られそうで不安になるの、大丈夫?」
「大丈夫だよ。もうそんな歳じゃないからね。考え方によると、体力温存の時間だと思えば、有難い時間なのかも……」
「その体力温存が気になるよ。他の誰かに使う体力だったら、ムカつくもの、やっぱり嫌よ。ね、私以外にも、つきあっている人いるの?」
敦美は、寿美と俺の関係に気づいていなかった。このことは、良いことなのか都合の悪いことなのか、曖昧だった。
寿美の申し入れを、資産運用に組み込むためには、寿美個人を表沙汰に、ことを進めるのは微妙だった。
おそらく、今の敦美の心境からすると、自動的に疑惑を抱くに違いなかった。敦美との関係の始まりの経緯から考えると、敦美に対して貞淑であっる必要はないはずだった。
しかし、気がつくと、俺は、敦美にたいして貞淑な愛人であることが当然の様になっていた。
なぜなのか、よく判らなかったが、仕事上、敦美がオーナー的立場になったせいかもしれなかった。
考えてみると、敦美から依頼されただけの資産運用なのだから、止めてもいいわけだが、やめると、敦美との関係も寿美との関係も切れてしまう様子が見えていた。
無論、そういう流れを受け入れることに異存はなかったが、二人の女を同時に裏切る、そんなに感じになるのは、気が重かった。
「ねぇねぇ、なに考えてるの?」
「いや、早く始まらないかと思ってさ」
心の定まりがないなままに、敦美と同じ時間を共有するのは苦痛だった。早く始まれよ、心の中で罵った。
つづく