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第108章
寿美から解放された俺は、まどろんでいた。
おそらく、寿美もまどろんでいた筈だが、指を絡ませた態勢が崩れていなかったことを考えると、まどろんではいなかったのかもしれなかった。
「ねぇ、龍彦さん、私と組まない」
寿美は、呟くような声で、唐突なことを言い出した。
「組む?何を組むわけ?」
「私の家族と対峙するためにかしら」
「君の家族と対峙する…。それって、目的からすると、敦美さんの財産を狙う、そういうことになるのかな」
「財産を狙うというほど大袈裟じゃないわよ。それじゃぁ、泥棒になるでしょう」
「そうなるね」
「だから、そういうんじゃなく、敦美の資産の安全を確保しつつ、貴方と私が組んで、私の家族らの悪巧みを阻止する。そんな感じのパートナーかしら……」
「それほど具体的案はまだない、そういう感じかな」
「そうよ。だって考えるのは貴方だもの」
「そうか、寿美さんが、家族が敦美さんの財産を狙う計画を事前に知らせてくれれば、専守防衛は出来るだろうね」
「そうすれば、私は家族の犯罪を未然に防ぐことも出来るかなって……」
「たしかに、方向性は間違っていないけど、貴女は、家族を裏切ることになるよ」
「裏切り、そうかしら。彼らは経済的な思惑は外れるけど、犯罪者にならないんだから、裏切ではないと思うけど……」
「たしかに、理屈上の正義は成り立つけど、家族の人たちからは、裏切られたと思われる危険は残るでしょう。その時、寿美さんの身に何が起きるか、そこが心配だよね」
「彼らが、私をどうかするってことね」
「そう」
「それなら、大丈夫だと思うわ。だって、彼らは、計画が失敗すればするほど、私の存在が大きくなるもの。良く考えてみるけど、そうなるはずよ」
「そうだよね。寿美さんの稼ぎに頼って、ご家族が生きている状態ならね」
「そう、そういう意味では腹立たしいけど、身の安全は確保できているわ」
「たしかな安全保障だね」
「そうか、日米の安全保障みたいなものかも……」
「そうなるね。アメリカの軍産複合体の重要な顧客になることで、少なくとも脅威の国扱いはされないのと似ているな」
こうして、寿美と俺は敦美の資産運用に関するパートナー契約が成立した。無論、中身は相当に曖昧なものだから、敵か味方をハッキリさせる約束にも似ていた。
つづく