第98章敦美は、店を出ると駐車場の方向に踵を返した。
敦美を拘束しているであろう奴らが、駐車場の奥の方で待機しているようだった。
敦美の様子を見る限り、監禁中に乱暴な扱いを受けていた様子はなかった。犯人たちが紳士的人間たちだったというよりは、敦美の知り合いであった可能性が高かった。
監禁した連中も、片山亮介の被害者であって、敦美自身、同情的であったのかもしれない。
同病相憐れむではないが、片山が持っていた手帳の類を、監禁者に渡すことくらい、敦美は、なんら痛痒のないことだったと推理できた。だから、渡してあげたいけど、警察が進入禁止の黄色いテープを張り巡らしている間は、渡したくても渡せないと、彼らに説明したのだろう。
おそらく、彼らが欲しがっているであろう手帳などは、真っ先に押収されている筈だから、それを渡せなどと云う犯人は、結構間抜けな連中だと想像できた。
もしかすると、犯人たちは、敦美と顔見知りである可能性が高く、拉致監禁はしたものの、その後の取り扱いまでは、考えていなかった可能性さえあった。
相当に間抜けと言えば間抜けだ。それだけに、敦美の方は余裕を持って、彼らの要求に対応したのだろう。狂言誘拐された女のような余裕が感じられた。
あの調子なら、三十分もすれば、いつもの能天気な敦美が戻ってきそうだった。
そうなると、開放感に包まれた敦美の肉体は、欲情した湯気を吐いて、Oホテルのセミスイートのベッドに持ち込まれるに違いなかった。
そういうことであれば、この際、腹ごしらえをしておく方が賢明だった。
俺はあまり考えることもなく、和風おろしハンバーグを注文した。
ハンバーグが届くのと同時に、敦美が戻ってきた。
「あっさり、解放だって」
「誰だか知らないけど、少し間抜けな犯人だね。旦那の手帳なんて、真っ先に押収される代物なのに……」
「それが、そうでもないらしいの。普段使っている手帳とは違うものらしいくて、簡単に人目につくところには仕舞っていない手帳だから、警察にだって簡単には見つけられない筈だって、彼らは言うのよ」
「そう。でも、相手は警察だよ、手抜かりはないと思うけどね」
「そうよね、私も、そう言ったの。そしたら、片山は殺された被害者なのだから、そんなに熱心に家宅捜索はしない筈だって言うのよ。被疑者の部屋なら、塵ひとつなくなるくらい徹底的らしいけど、被害者の部屋のものは、お座なりなものらしいの」
「そうか、旦那の方は被害者だったよね。そうだな、何からかにまで応酬するとなると、被害者のものを押収するには、欧州令状のようなものが必要になるかもね」
「そうらしいわ。彼らも、そんなことを言っていた。でもね、立ち入り禁止の規制線みたいなの張られているわけでしょう。私がノコノコ入って行って、部屋中家探し出来るわけがないって頑張ったの……」
「それで」
「その結果が、念書書いて、実印を押せって言い出したの」
「実印、持ち歩いているって言ったわけ」
「違うの、現実に実印持っていたのよ」
「えっ!あれって実印だったの」
「そうよ、これ実印よ」
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