第35章 偶然かもしれないけど、まもなく閉店だと云う喫茶店に、また入った。下町風情の残るこの町には、大都会の風に逆らうように、頑固一徹細々と営む色んな店が、毛細血管のように人と人を繋ぎとめていた。お店のおじさんは、一見不機嫌そうな顔をしているが、コーヒーを落とすときの顔は柔和だった。
「なんだか、想像すると大変そうだよね。その彼が、必死でアナタと受胎行為するのって」
「そんな変な夫婦でも構わないから、結婚のかたちを整えたい。それが主たる目的だけど、出来たら、好感の持てる人と夫婦を演じたいっていう訳よ。そう云うこと言う相手が、最悪な男なら、断固断るのだけど、それがさ、良い奴なんだよね」
「良い奴って、中身が?」
「中身も、外見もね。だから、彼と話していても苦痛なんかないの。どちらかというと、相当愉しい」
「だったら、夫婦を永遠に演じても悪くないじゃない」
「そう、それは問題ないと思う。ただね、その性的嗜好の部分を考えちゃうと、すごく辛くなるの」
「だって、彼は、出来るかもしれないって言っているんでしょう」
「あのさ、一度だけ試してみたんだよ」
「えっ!実験してみたんだ。で、どうだったのよ?」
「そうね、具体的なことは端折るとして、前戯とフェラ段階で、おや?意外に大丈夫じゃん、と思ったわけ」
「それで」
「それで、いざ突入。それも、瞬間的にセーフ。だけどさ、数分もしないうちに、存在感がなくなってね」
「小さくなっちゃった」
「そう、悲しいくらい」
「で、終わっちゃったわけね」
「そこで終われば、それはそれで、無理なら人工授精だってあるんだからって話に持って行けるんだけど…」
「まだ続きがあるわけ?」
「うん。突然、彼、お尻を見せてくれって頭下げるのよ」
「それって、ヒップを見せてってのと違う意味よね」
「そう、ヒップじゃなく、後ろの穴って意味よ」
「ふ~ん、相当怪しい雰囲気だね」
「そう、私も、これはヤバイかもって思ったのよ。流石に、それは断固拒否する積りだったんだけど、一気にそこまでの要求はなかったわ。でも、アソコに向かってクンニして来たの…」
「アンタの反応如何では、行く処まで行くような感じね」
「たぶんね。でも、そこまではなかったけど、彼が再勃起したのよ」
「へえ、そこまで後ろが好きなんだね」他人が聞いたら、笑い話のような話を、私たちは真剣に話し込んでいた。
その時、おじさんが大きな声で私たちに声をかけてきた。
「チョッとそこらまで買い物してくるので、それまでいらっしゃっていいですよ。ドアには閉店の札ぶら下げておきますから」お洒落な心配りで、おじさんは、音もなく出ていった。
つづく
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