第33章 「シナリオライターの有紀は置いておいて、アンタの人身御供の話に戻ろうよ」
「戻っても良いけどさ、今の話、心に留めおいてよね」有希はねっとりと、私を見つめた。
たしかに、目のまえにいる女は女優だった。どこまでが自分で、どこからが女優か、演出家であるのか、その境界線の上を千鳥足で歩いているようだ。なまめくように怪しい瞳をした女が、私の目の奥にある情念を探り出すように視線を向けていた。
この目の前の女が、自分の妹だという実感がなかった。
同じ両親から、こんなにキャラの違う子供が生まれるなんて、科学的な理由は別にして、不思議だと思った。
たしかに、顔つきは似ている。しかし、人に与える印象はまったく異なっているだろう。少なくとも、私はそう思っていた。
「やめてよ、私たち舞台に立っているわけにじゃないのよ。そんな色っぽい目で見つめないでよ。レズな気分になっちゃうでしょう」私は茶化すことで、その射るような視線から逃れた。
「美絵さんの不安の半分は妄想だけど、圭が姉さんに憧れているのは事実だから、その辺を察した上での妄想だから、根も葉もない話じゃないのよ」
「その有希の勘、それこそ妄想じゃないの?」
「まあ、推論だけど、ある程度の証拠はあるのよ。あのさ、アイツ高校のころね、姉さんの水着の写真、定期入れに入れていたの。知らないでしょう」
「単なる偶然みたいに入れてたんじゃないの?」
「それが、そうじゃないの。確信犯的な所持の仕方ね。だってさ、他に写っていた人たちの部分は切り捨てたやつだもの」有紀は勝ち誇ったように断言した。
高校時代から、私に何らかの感情を、圭が持っていた。勿論、有紀に指摘されるまでもなく、その恋慕は性的興味を、強く含んでいるのは当然だった。
そうなると、私たちの関係が始まったきっかけの、圭の心配ごとに自体が本当だったかまで、疑いの対象になってしまう。
「どうしたのよ、姉さん固まっちゃってる。そんなに悪辣な行為じゃないと思うよ。思春期のちょっとした気まぐれでしょう。圭が今でも姉さんを、そんな変な意味の対象にしてるとは限らないしね。」有希は取ってつけたようにフォローした。
「それはそうでしょう、美絵さんと結婚したわけだし。でも、アンタのさっきの話の延長線で、写真の話が出たのよ。まだまだ、何か根拠があるんじゃないの」
「なんとなく、姉さんを説得する根拠のひとつのつもりで、たまたま持ち出したけど、逆効果だったかもね」
「そう、完全に逆効果だよ。どういうつもりで、アイツ、私の水着の写真持っていたのか、とっちめてやらないと・・・・・・」私は心にもないことを口に出していた。
「やめてよ。私からのチクリだってバレバレじゃない。それにさ、圭の立つ瀬がなくなるよ。そして、私のアバンチュールまで、消えてしまうわ」有希は、まだ、とんでもない企みに執着していた。
つづく
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